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奪われた村

「と、盗賊?」

 閃玉を通しての一言は横暴と思えて、声が少しだけ裏返りながらそう聞き返すことが精一杯だった。

「そうだ。ここから左に進んだ所にある村が盗賊に襲われている。しかもその盗賊はギャパルという男が仕切っているらしい」

「あのギャパルですか!」

 混乱するアークをよそに話し続ける二人。ストラのその大きな声で少しだけ冷静さが戻った。

「だ、誰? ギャパルって」

「有名な盗賊の長です。まさかここまで足を伸ばしていたなんて。遠征の話を何処かで聞いたんでしょうか」

「だろうな。奴らにとってはまたとない機会だ。あのギャパルがそれを見逃すはずがない」

 エトワールにそう断言させるのだからギャパルという男の性格が伺える。

「オイオイ。それで狩れっていうのはそのギャパルが率いてる盗賊を倒せってことかよ」

「無論だ。まあ、今襲われてるのは小さな村で放置してもいいのだが歩兵たちの士気を上げるにはあと何日で到着するとかじゃなくてもっと明確な成果がいる。分かるだろ」

「それが盗賊の討伐か」

 閃玉の奥にいるであろうエトワールを鋭い視線で睨んで、分かり切った答えを出した。

「そうだ。運がいいことに名の知れた盗賊。効果は十分にあるだろう。頼むぞ」

「頼むぞって……俺、何処の村が襲われてるのか知らないぞ。この閃玉で案内してくれるのか?」

 この平野というより、城を出て遠出するのはこれが初めてで地図の類は受け取っていない。

 いや、一つだけ。エトワールからこの世界のことを説明してくれた時の地図。青と赤の色で国が別れた世界地図のみでこれで村の場所など分かるわけがない。

「そうしたのは山々だが閃玉には限りがある。襲われた村から逃げてきた少年に案内してもらえ。今そっちに送る。星童騎士団は集団から外れて待機をしていろ。これは命令だ」

 最後のは流石に偉そうで頭にきた。

「言わなくてもわかってる。それにいい予行演習になるだろうから行ってやるよ。お前らもいいよな」

 無言でついて来る団員たちに声を掛けると全員が無言で頷いた。




 邪魔にならないように横にずれ、村から逃げてきたという少年を待っていると馬を走らせてこちらに向かってくる騎士が一人。

「待たせてすみません。エトワール様の命で少年を連れてきました」

 見るとその騎士の前で小さく縮こまっている子がブルブルと震えているが確認できた。

「サ……ありがとう。その子は俺たちが預かる」

 つい癖でサンキューと言ってしまいそうになったのを押し殺して、肌の黒い少年を受け取って前に乗せた。

「では、私はこれで」

 仕事を終えた騎士は前方へ戻って行った。盗賊は星童騎士団のみで対応するからだ。

 抜けた所は後ろにいた騎士団が埋めてくれるだろう。

 この遠征はエトワールが率いてる騎士団を先頭に歩兵、騎士、歩兵とサンドウィッチ状態で進んでいる。

 騎士が歩兵を監視して動く為だ。勿論、閃玉もその役目を果たしている。

 だがクレーネゲファレインの市民は温和な人が多いので喧嘩は一度も起きていない。

 ただ不安でそれどころではないかもしれないが。

「さて、俺はこの騎士団の指揮官のアークだ。君の名前は?」

 怯えた少年を刺激しないように優しい感じを持って接すると

「ポ、ポペ……」

 とだけ答えてその後は前を向いてこちらの顔を見ようなどとはしなかった。

 酷い目にあったのだろう。それは体に刻まれた傷の一つ一つが語っている。

「いい名前だ。ポペ。俺たちを君の村まで案内してくれないか?」

「助けてくれるの? 村のみんなを」

 その目は涙で濡れて、汚れなど一切なく真っ直ぐとしているのに気づいたアークはハッとした。

 まだこの子の心は死んでいない。

「勿論だ。俺のアルカナにかけても村のみんなを助けてやる。だから村まで案内してくれポペ」

「うん、わかった!」

 見た目通りの元気さを取り戻した少年の体はもう震えてはいなかった。




「随分と木が多いなこの辺は」

 軍を離れて村に向かうこと一時間。

 全てを見渡せる平野から森の中に入っていた。

「多分、村が見つからないようにでしょうね。平野のど真ん中だと盗賊たちの的になってしますので」

 解析をするストラは何事ないように進んでいるが森だということは木が沢山あるということでその木の枝が邪魔をしてくるのいうことなる。

 馬の扱いが苦手なアペレは何度も枝にぶつかっては周りの団員たちに笑われている。

「でも、それならなんで盗賊に見つかったんだよ。偶然か?」

「私たちの軍が来るのを考えて平野を避けたのかもしれません」

 平野は全体が見渡せていつ敵が来ても迎えられる場所。そんな所に盗賊の戦力で足を踏み込むのは死と等しいので人目のつかないこの森の中を移動していたら盗賊は偶々(たまたま)ポペたちの村を発見して今に至っているのではとストラはそう推測するがポペが首を振った。

「た、多分違うと思います。ギャパルっていう人がアルカナは何処にあるって言ってましたから」

「アルカナ?」

 金ではなく、アルカナを要求してきたとポペは言う。

「聞いたことあります、ギャパルはあるアルカナを探し回っていると。偶然ではなく、その村にあるアルカナを求めて襲ったと考えるべきですね。ポペくん、村にアルカナってある?」

「はい。あります。村の奥に小アルカナが一枚まつられてます」

 流石に大アルカナではないらしいが、なぜその小アルカナなんかを盗賊の長が狙っているのかが気になった。

 それに祀られているとなるとただの小アルカナではない。村の宝なのだろう。

「その小アルカナってどんなのか分かるか?」

「え〜と、おじいちゃんから聞いたんですけど昔、村から出た男の人が戦争に歩兵として参加してそこで活躍して騎士団長にまで上り詰めた人が持ってた小アルカナがそれらしいです」

「凄いですねその人。歩兵から騎士になるのはそれほど珍しくないんですが、騎士団長はそうそういませんよ」

 目を丸くして驚いているが、基準がわからないので凄さがわからない。

「へぇ〜、じゃあストラはどうやって騎士団長になったんだ」

「私の家が有名な騎士の家系なのでそのおかげとお兄様の影響があって団長になれました。他に団長になる為には私のように騎士団長になった人よりも成果を上げることですね」

 なんともシビアな話をだが無能が者が上に立つより家柄がどうであれ力のある者の方がいい。

 無論、星童騎士団団長様は家柄も力も団員たちが保証している。

「団員たちにもそういう家系の奴はいるのか?」

「そうですね。半々といったところです」

「差別とか起きないのか?その……家柄がどうとかで」

 まだ団員たちとは知り合ったばかりで、彼らがどんな関係なのかよくわからない。それにアークが指揮官として来たので今は何もないだけでその前には問題があったかもしれないと思って小声でそう聞いてみたがストラは笑いながら首を振った。

「いいえ。この国はみんないい人ばかりですからそういった問題は怒ったことありません。これも先代の王のおかげですね」

「そ、そうだな」

 いつ亡くなったかは聞いてはいないが、セレネの父は偉大な人だったらしい。

 あの国を雰囲気をつくりだしたのだから間違いない。一度会ってみたかったものだ。

 元の世界ではいじめがやまない。アークはやれたり、やった経験がないので実際はどんなものかは知ったものではないが存在してはならないものであることだけは分かる。

 そう考えると少し不便ではあるがこの世界の方がいいかもしれない。

 いや、そうじゃない。俺はこの世界の住民じゃないんだ。ここにいちゃいけない。

 一瞬、元の世界に帰るという目的を諦めかけたところを頭をブンブンと振って目を覚ました。

「どうしました?」

 様子を見ていたストラは挙動不審の彼の顔を覗き込んで質問するその顔はとても心配そうにしていた。

「いや、何でもない。それより村まではまだかポペ。結構走ってるんだけどな」

 慣れない森の道を走っているせいで、団員たちも疲れが出始めている頃だろうと思いポペに催促すると(おもむろ)に指を前方を突き刺した。

「見えてきました。あれが僕たちの村、ヒュレ村です」




 そこは村であった場所。

 今では盗賊に破壊つくされ家の破片などが散りばめられている。

「これは酷いな」

 惨劇の後というのはこの場にいる誰もが初めて見た光景で言葉を失って五十人もいるのに村の静けさは変わらなかった。

「人っ子一人いないぜ団長」

 真っ先に動いたドモルは周囲を見渡していたが、戻って来て報告して、それを受けたストラはポペの方を向いた。

「ポペくん。何か心当たりはない?」

「あ、あります。ここからもっと奥に進んだところに小アルカナがまつられている小屋があるんです。多分、そこに集められているのかも」

「オシッ、決まりだな。全員馬をここに置いていけ。ポペは引き続き案内を頼むな」

 これが指揮官として初めての指示。団員は文句を言わずに馬を降りてくれた。

「なんで指揮官は馬を降りるように命令しだだ? 急いでるんだから」

「馬鹿。馬に乗ってたら盗賊に気づかれるだろ。村の住民の死体がないとなると囚われている可能性があるからな。機動力より奇襲を仕掛けられるようにした方が助けやすい」

 何も分かっていないアペレの頭をこずいて指示の意味を教えてやったドモルはそのまま足早にポペが案内する方へ進んだ。




「ほぉ、あれが小アルカナが祀られてる小屋か? 思ってたより綺麗だな」

 屋根は赤色で横幅だけなら普通の一軒家並みの広さを有している。

「村長と友達がギャパルっていう男に捕まってます。村の人たちはあっちの洞窟の中に入れられました。僕はなんとか小屋の中から逃げ出してこれたけど他の皆は……」

 自分の無力さに泣き出しそうになりながらも拳を握る力を強めてそれを止めた。

「偉いぞ。お前がこれを知らせてくれたおかげで俺たちはここまで来れた。確かにお前は逃げたかもしれないがそれは正解なんだよ。助ける為の逃げと生きる為の逃げは弱さじゃない。だから胸をはれ!」

 軽く背中を叩いてやると大きく頷いてくれた。

「さてどうすかな……」

 小屋の周りには二十名ほどの盗賊たちが彷徨いていて小屋への侵入は困難になっている。

 洞窟の方は入り口に二人いる程度。中にいる可能性もあるがこちらの方が楽に救出できる。

「てか、ポペはどうやってあの小屋から出てこれたんだよ? あんなんじゃすぐ見つかりそうだけどな」

 訓練を受けていない盗賊であっても人数の多さで死角はない。それをどうやって抜けてきたのか、小屋の周りの様子を見てから気になったアペレはほんの少しだけ身長が違うポペに後ろから話しかけて聞いてみるとある所を指差した。

「友達があのギャパルって男から僕が見えないように盾になっくれてあの隠し通路から逃げてきたんだ。この中で一番が足が速いからって」

 年が近いので、敬語は使ってはいないが別にそれはどうでもいい。

 ポペが示す場所に切りきり子供一人入れそうな狭い通路があったが、それは通路というより穴といった方が適切なものだった。

「俺らじゃあこんなの通れないな」

 鎧を脱いだとしても無理な道。ドモルなど肩でつっかえてしまうだろう。

「でもこれが小屋につながっているのなら利用しない手はありません」

「なら適任が一人いるじゃないか」

 視線はアークにつられて全員アペレの方へと向いた。

「え? 俺!」

「お前しかいないんだ。あんな小さな通路を通れるのは。大丈夫だ。俺が秘策を預けてやる。最初はそれで出来るだけ時間を稼いでくれ」

 その秘策を耳打ちで説明してやるとアペレは驚きの声をあげそうになったがすぐにそれを塞いだ。

「いいか。ギャパルがどんな奴かは分からないが、村長と子供達の命がお前にかかってる。市民を守るのが騎士の役目だろ」

 口を塞いだ状態でそう言ってやると、黙って何度も頷いてくれた。

 どうやら秘策をやる決心ができたらしい。

「よし、他の皆は俺とストラの二班に別れてくれ。ストラ達は小屋の周りにいる盗賊の排除と小屋の中にいる村長と子供達の救出、それとギャパルの討伐。俺たちは洞窟に囚われている村の住民を助け出す。ストラ達の班には作戦を伝える。開戦はアペレが小屋の内部へと侵入できてから行う」

 まさか、親父の趣味。戦国時代や現代の戦争。その他諸々の知識がこの世界で役に立つとは思ってもみなかった。




「団長。アペレが通路から小屋への侵入を開始しました。三分後に突入です」

 指示で鎧を脱いだ団員の一人が報告をするとストラは心配そうに小屋を見下ろした。

 無論、そのストラも彼と同様に鎧を脱いでいる。

「しかし、大丈夫なのでしょうか?確かに新しく入った指揮官は頼りになりそうですが、あのアペレ一人で行かせるなんて何を考えているんでしょう」

 初めての指示は団員たちにアークの指揮官としての威厳を感じさせ、作戦に反感することなくスムーズに進んでいる。

「指揮官を疑ってはいけませんよ。あの人は私たちの上に立ち、指示をする者です。それにお兄様がお認めになった程の人材。星童騎士団には勿体無いくらいですよ。まずはここに配属されたことを感謝しなくてはいけません。そう思いませんか?」

 黄緑色の瞳を向け、賛同を促すとコクリと頷いたがそれはストラの迫力に負けたのではなくこの団員が心の底ではそう思ってたことを言い当てられ観念したからだ。

「愚者は嘘ではないと確信しました。最初は緊張されていたようですが、団員たちと打ち解けて本来の力が出始めているのようで別人のようになりました」

 団員の殆どは愚者のアルカナの話が本当かどうかばかり気にしていたが、彼のように指揮官としての力量に不満を感じていたこと人もいた。

「あの人は変わっているんですよ。まるで別の世界から来たようなお人です。ですがお優しいですし、信頼に値します。それよりも下の準備はどうなっていますか?」

「はい。ドモルを中心に木々に隠れながら包囲を完了しました。先ほどドモルから合図もありました」

 問題なく準備が整った合図。これでいつでも突入できるということだ。

「洞窟の方は何か動きはありましたか?」

「既に中へ突入したようです。あそこは盗賊が少ないので数で押し切れると思うので心配はないでしょう」

 小屋への突入は三十人で洞窟の方は二十人弱はいる。

 そんな人数でも盗賊の方が圧倒的に少なく、それが二手に分かれているので楽に制圧できる。

 小屋だけを攻めていたら洞窟で見張っている盗賊が村の住民を傷つけかねないので先に助け出しつつストラが率いる団員が小屋への攻撃をする手はずになっているのだ。

「もうそろそろ時間ですね。全員私に続いてください」

「「「おおーーーーー‼︎」」」

 合図と共にストラたちは大木のしっかりした枝から小屋の屋根に向かって飛び込んでそれを見たドモルたちも小屋の周りにいる盗賊との戦闘に入った。

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