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星童騎士団

「騎士の種類は様々だが、大抵は貴族に雇われているもので城の騎士たちは国を守ろうと志願してきたものだ。この場合は試験に受かったものだけで落ちたものは来年やり直すか、戦で活躍をして貴族に雇ってもらうしかないがどちらも実力がなければ無理な話だ」

「なら、数はかなり限られてくるな」

 厳選に厳選を重なっているのだから、それを超えられるものなどかなり少なくなってしまう。

「確かに戦闘向きの大アルカナがいないこの国にとってはそれは辛いことなのだが、中途半端なものを騎士にするより作物や資源を増やすことに専念したほうがいい。この国の長所はセレネ王の大アルカナによる恵みだからな」

 エトワールの言うとおりなのだが、試験に受からなかった人のことを思うと少し苦しくなってくる。

「恵み?」

 だが、それよりも気になることはセレネの大アルカナについてだ。

 国の王は大アルカナ所持者だというが、セレネはどちらかというと姫だ。

「セレネが? てか、本物の王じゃないのに大アルカナは使えるのかよ」

「普通は王の子が成人となったら継承の儀式でその大アルカナが使えるようになるのだがセレネ王は元々素質があった。先代は早くに亡くなり、残ったのは月のアルカナカード。一人娘のセレネ王はそれを自分の取り込んでこの国を守ることにしたんだ」

 あんな若いのに父親の死の悲しみを乗り越えながら……いや、彼女は強がっているだけで本当は乗り越えられていないのかもしれない。

 そう考えると急に弱々しい印象しかないセレネが大きく思えた。

「それで月のアルカナの能力は何だよ」

 亡くなった先代が残したという王のアルカナに期待を膨らませて聞いてみると予想外の答えが返ってきた。

「水だ。無限の水を出すことができる」

「……え? それだけ?」

 あまりのことに一瞬、固まってしまった。

「ただの水じゃない。その水で作物を育てれば必ず豊作になるし、飲めば体の傷が癒える」

 改めてこの国は戦争に向いてはいないことを確認できた。

「はぁ……わかった、わかった。それでそのセレネは今何処にいるんだよ」

 他の大アルカナ所持者はアークが来る前から忙しいようなのだが、セレネは昨日城に居たのに姿が見えない。

「まだ安全区域にある村を行っている。その前は貴族の家へ直接訪問して騎士をかき集めてくださった」

 始めて会った時に疲れたような顔をしたのはわざわざ貴族の家へ訪問していたからなのだろう。

 王といってもただ玉座に座っているだけではないらしい。

「それは大変だな。でも貴族から騎士を借りに行くのはわかるけど、村とかに行く必要はあるのか?」

 最前線で戦っている者たちの為に早く助けに行きたいのにそんなことをしている時間はいるのかというアークの考えだが、これにはちゃんとした理由があった。

「それはワンドも戦力に入るからだ」

「な! 農民も戦争に巻き込ませるのかよ」

「当たり前だ。戦争をしたことをないお前にはわからないかもしれないがこれが普通だ。それにこれはさっき言った騎士になることのできる唯一の機会だ。望んでいる者も少なくはない」

 農民と騎士は仕事の違いだけで人ということには変わりないし、彼らには大アルカナの力はなく、生存率は低いであろうがこの一大事に国の住民が何もしないのは今まで住んできたこの地の裏切りになるのかもしれないがまた納得できない気持ちがこみ上げてきた。

「ワンドや騎士達に頼らなくても大アルカナ所持者で全員倒せばいいだろ。お前も大アルカナ持ってんだろ!」

 力を持ったものが戦うべきと憤りを感じながら、星の大アルカナの力を持っているというエトワールに叫んで意見するが顔を一つ変えはしなかった。

「お前は大アルカナ所持者は無敵の異能者だとでも思っているのか? ならそれは勘違いだ。大アルカナを持ってしても人間は人間だ。本当の意味で怪物になることはできん。だからワンドや騎士は絶対に欠かせないが、彼らもまた大アルカナを必要としている」

 それではアークの知っている戦争とあまり変わらない気もするが、それでも鍵を握るのはやはり大アルカナ所持者になってくるだろう。

 美味しいところは大アルカナが、そんな感じがしてワンドや騎士が可哀想になってきたがそもそもこの戦争に勝てるかも分からないのだからまずは生きる為に戦うしかないのだとふと思い出したように言い聞かせた。

「だから俺に星童騎士団を任せるのか?」

 まだ使えないが、腐っても大アルカナ。

 それだけで一気にそれなりの地位につけてしまう。

 やはり大アルカナは美味しい、というかずるい。

 なんか必死に頑張って騎士になった人たちのことを想像すると申し訳ない気持ちになってくる。

「そうだ。この国の長所のもう一つは優秀な騎士団長が多いことだが、星童騎士団は成人未満の騎士たちで設立された特殊部隊だが彼らの力量は保証してやる。ただ他の騎士団からはあまり良いようには見られていないようだ。まだ子供だとか色んな陰口があるだろうが気にしないでくれ」

「気になるわ! つーか、それ俺に厄介事押し付けてるだけなんじゃ……」

「さらに星童騎士団の団長は女だからそこも馬鹿にする奴が多い」

「やっぱそうじゃん。問題しかないよ星童騎士団」

 名前を聞いた時はもっと、立派なところを期待していたのだが大きく外れてしまった。

 まあ、何処の馬の骨ともしれない人に従うほど騎士たちは軽くはないだろうから子供の相手が最良だとでも思ったのだろう。

 戦争経験のないアークにとっては嬉しいことではあるが、馬鹿にされている気分がしてならない。

「それでも数は一番少ない騎士団だからお前にはうってつけだろ」

 生徒会長はおろか、クラスの委員長にもなかったこともないアークにとって人が多かろうと少なかろうとあまりは変わりはない。

 そもそも人の上に立つことができるかどうかが心配なのだ。

「少ないったって、騎士団は騎士団だろ? 俺にそんな奴らどう扱えってんだよ」

 年下の扱いには慣れていないし、騎士となると自分よりは強いだろうが、そんな人たちを指揮するのは素人には無理な話でぶっちゃけ自信はこれっぽっちもない。

「適当に偉そうなこと言っといて、後ろからついてくればいい。最前線まではそうしていれば何の問題もないだろ」

 世界地図よりも細かいこの国だけの地図を広げて指でこれからの進路をなぞっているルートは平坦なところで周りをよく見渡せて、万が一敵がいたとしても簡単に対応できる。

 いくら指揮がダメダメでも騎士団長や団員たちは様々な訓練を受けているので彼らは周りについていけるだろう。

「この時に敵が来る確率はどのくらいだ」

 最終的には戦うことになるのだが、心の準備はしておきたい。

「ないとは言えない。敵は奴らだけではないからな」

「なんだそれは?」

「盗賊だ。奴らは集団で行動をするし、神出鬼没で対応が難しい。騎士の大群に攻め込んでくることはないから心配はいらないがな」

 なら言わなくてもいいじゃないか。

 盗賊がいることに不安になった気持ちを少しでも返して欲しいものだ。

「それよりお前も準備を始めろ。行くぞ」

 会議室と廊下をつなげる無駄に大きい木の扉を開いてこちらを見るエトワールは催促してくる。

「行くって何処にだよ」

「決まってるだろ。星童騎士団に挨拶をしに行く」

 嫌でたまらないのだけど、エトワールの威圧やこれから先のことを考えると駄々をこねているわけにもいかないので黙ってその後ろについて行くことにした。




「ちょ、これ何?」

 エトワールが着ているような板が薄っぺらい銀色の鎧。

 それがアークの頭部以外に取り付けられていた。

「見ればわかるだろ。身を守るための鎧だ。戦争に行くのに布の服だったら矢が一発当たったただけで終わりだぞ」

 アルカナはただの力で、それは所持者を無敵にしてくれる優れものではないと実感した。

「だからって今着なくってもいいだろ」

 出発にはまだ時間があるし、道中では敵の心配がないとエトワール自身が言ったのだからあちらに到着してからでいいのではないかと思う。

 新しいスーツを着るよりもさらに居心地が悪い。

 好きな人は最高なのかもしれないが、残念ながらアークにそんな趣味はない。

「駄目だ。戦争ではいついかなる時も気を抜いてはならない。特に大アルカナのお前は狙われる可能性が高い。まだアルカナの力を使えないお前なら簡単に始末できるからな」

「それって俺が大アルカナ所持者だって敵に知られてるってことか?」

「いや、もしもの話だ。敵の内に情報収集や暗殺が得意な隠者の大アルカナ所持者がいると聞いたから少し気をつけろということだ」

 隠者はあまりいい意味を持たないが、暗殺が得意となるとそれに似合った能力がある。

 要注意人物になる。

「それでこれを着たら俺はこれからどうしたらいいんだ? ファッションショーでもやれってか」

 鎧は真新しい感じがして、見た目はシンプルだが銀色ということもあってなんかかっこいい。

「ファッションショー? お前の世界の言葉か。意味は知らんが多分違う。星童騎士団に会いに行く。上に立つものとして挨拶ぐらいはしておかないとな」

 ファッションショーというよりお披露目会。

「お、お腹が痛くなってきちゃったな〜」

 腹を痛そうに抱えて一刻も早く逃げようと試みるとヌイッと伸びた長い手をした怖い顔をした人に止められた。

「そうはいかんぞ。お前には役に立ってもらわなくてはいけない。でないと、何のためにいろいろと動き回った苦労が無駄になる」

 これほど人の手が恐ろしいと思ったことはなく、これに逆らうことは叶わなかった。




「念のためもう一度星童騎士団のことを説明すると最高年齢は十九、最小年齢は十四で未成年しかいない。だから酒を飲ませるなよ。酒は二十五からだ」

 どうやらこの世界での成人は二十五歳かららしく、一応自分もこの世界では大人の内に入るわけだ。

「飲ませねーよ。てか、ここに来てから酒なんて飲む余裕なかったよ」

 慌ただしい日々でいろんなことを忘れているような気もするが、今は星童騎士団で頭がいっぱいだ。

「なら、撃退に成功したらとりあえず乾杯しよう。それぐらいの感謝はするつもりだ」

 いつになく優しいのが逆に恐ろしい。

「まさか……毒」

 油断させて毒を飲ませてアルカナカードを取り出す。

 アルカナ所持者が不死身ではないし、その時には戦争で絆を深めたと思っていて容易にできる。

 優しさの裏にはそんな裏が……。

「そんなもの入れん。戦ったものを労うのは当然のことだ。それに愚者のアルカナとなると尚更だ」

 先ほどの妄想は大外れ。

 どうやら本気で言っていたらしい。

 まあ、報酬が酒だけとは少ないものだ。最終的には元の世界に戻れれるまで戦うとなるとかなりの数の修羅場をくぐらなければならないので、これからの一戦でへこたれている場合ではない。

「なんだよ、愚者ってそんなに強いのか?」

 名前からしてあまり強い感じがしないのはアークだけではないだろう。

 なのにエトワールはなぜか愚者にこだわっている時が多々ある。

「子供の頃にこの国を救ってくれのも愚者のアルカナ所持者だったんだ。その姿を見てあの人みたいになりたいと思ってここまで来た。愚者のアルカナは俺にとって憧れの存在なんだよ」

 子供の頃が一体何年前のことかは知らないが、エトワールにとって愚者のアルカナに思い入れがあるらしい。

「じゃあ、俺に憧れてる?」

「馬鹿を言うな。お前ではなく、国を救ってけれたあの人に憧れてる。アルカナの能力をろくに使えないお前は対象外だ」

 冗談で言ったつもりが、ここまでズバッと返されると心が痛くなってくる。

 しかし、実際にアルカナは使えないどころか、自分の中にアルカナがあるのか感じられない。

「う……、とにかく星童騎士団のところに行きますか。どうせいつかは行かなきゃいけないだから」

 返す言葉もなく、話の流れを変えた。

「そうだな。あいつらは街中にある訓練場にいるはずだ。一応ついて行くから指揮官らしい態度とれよ」

 と言われても、指揮官などどうしたらいいかわからない。

 アークの中にある指揮官は怒鳴り散らしていかつい感じなのだが自分とは似ても似つかず、真似をしてもいい笑いものになるだけだ。

「はいはい。出来るだけやってみるけど文句言うなよ」

 ならばここは開き直って自分らしさを出して騎士団のみんなから信頼を得る方を優先したい。

 こちらから心を開いて行けば、あちらも心を開いてくれるだろう。

「先に言っておくが、星童騎士団の団長はストラ・ヴェルソン。俺の妹だ。手を出すなよ」

 はーーーい。心を開く確率ゼロパーセント確定。

 あまりにも突然するぎる追撃にアークのやる気は一瞬にして砕かれた。




 城を出て、街の中を十分ほど歩いていると他とは違ういびつな建物が現れた。

「ここが訓練場か」

 金属で囲まれた小さな野球ドームみたいなものだが、中からは人の声が聞こえてくる。

 しかしそれは賑やかなものではなく

「おらっ!」

「やあっ!」

 といった掛け声で中が見えなくとも、一生懸命に剣を振るっている姿が目に浮かぶ。

 人三人分ほどの横幅がある玄関を抜けて、両側に様々な種類の武器が立て掛けられた廊下を歩いているとふとエトワールが思い出したように、壁に掛けられた一本の剣を取ってアークに渡した。

「防具だけだと心許ないだろ。これも持ってろ」

 ゲームとかで良く見る西洋の剣。

 鞘を抜いて刃の様子を確認して本物であることを実感して腰に収める。

 ここは本物の剣をもらってテンションが上がる場面なのかもしれないが、イマイチ上がらない。

「なぜ今渡した!鎧と一緒に渡せよ。これじゃあ、これから俺が騎士団と戦うみたいだろ。縁起でもないからやめろ」

 もらった剣もなんか頼りないし、鎧も心なしか軽い。

 こんな装備では安心など出来るはずがない。

 大丈夫かと問われたら、速攻で無理と答えるだろう。

「大丈夫だ。騎士団は上のものに従うものだ 」

「無理! 絶対無理。聞こえてくるこの声でもう帰りたくなってきた」

 様々な訓練を受けてきた騎士たちなら命令に従わないことが如何に危険なことかわかっているはず。

 アークもそれを信じて一歩踏み出そうとする。

「あ、でも。星童騎士団は教官がいなかったから自由性が高かったな」

「じゃあ、俺は家に帰りまーす」

 回れ右!

 軍隊に近いそれでアークは真顔のまま外を逃げようとすると、ゆらりとした手が肩に乗った。

「お前に家なんてないだろ。あるとしたら星童騎士団だ。そうした方が親睦(しんぼく)も深まるだろうしな」

 左肩に置かれた手は一度味わったことがあり、それに逆らえないことも味わっている。

「は、はい。そうさせていいただきます」

 青ざめた顔をしてこれは元の世界に戻る試練なのだと言いかせて足を訓練場の中へと動かした。

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