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新たなる任務

「今回、大きな戦果をあげたのは以下の四名。遠征軍が駆けつけるまで耐えてくれたバシス・ガーポン。敵の攻撃を冷静に対処したエトワール・ヴェルソン。敵の将軍であるディアマを討ち取った暁の騎士団団長シュヴィーク・プフィリ。そしてその暁の騎士団ならびに星童騎士団を動かし、ディアマを追い詰めたアーク。彼らに褒美として金百、暁の騎士団団長シュヴィーク・プフィリについては指揮官に昇格とする」

 謁見の間で開かれたのは軍のお偉いさんのご報告のようなものであり、戦果をあげたものに褒美を与える式典でそれを渡しているのは我らが王のセレネ・ウラーノだ。

 ちなみに金百とは金貨百枚ということで、アークのいた世界に換算すると家を五つ、六つ買ってもおつりが返ってくる額だ。

「そして今回は特別枠でもう一人。残虐非道で名高い盗賊のギャパルの首をとったストラ・ヴェルソン前へ」

「え……あ、はい!」

 まさか呼ばれるとは思っていなかったストラは一瞬戸惑いながらも赤い絨毯を踏み進んでストラの前まで来ると膝をついて頭を下げた。

「そなたの活躍により、遠征軍の士気が上がり作戦に支障をきたすことなくバシス軍師の元へと導いた。これを評価してストラ・ヴェルソンには闘技場への出場を許可する」

 ここで頭を上げてセレネの顔は見て目を奪われた。

「綺麗……」

 ただそれしか声にでなかった。それ以上で表現することができなかった。

 それがストラが王に抱いた第一印象だ。




「ストラ、おめでとう。なんか俺も嬉しかったぜ。身内がこんなに立派に成長してくれるとは」

「そんな私なんて大したことありませんよ。アークさんやプフィリさんの方が凄いじゃないですか。初めての戦で大きな戦果を上げて、プフィリにいたっては騎士としては異例の指揮官への昇格だなんて憧れちゃますよ」

「まあ、俺は追いつかれちゃったわけだがな」

 正直、指揮官という立場になれたのは大アルカナがあってからこそで実力的にはプフィリの方が上をいっている。

「でもストラも闘技場がどうとかってセレネに言われてたじゃん」

「はい。まさか私なんかが参加できるとは思いませんでしたよ」

「で? 闘技場ってなにやるの」

「し、知らないんですか⁉︎」

「だって俺何も聞かされてないぜ」

 ただここには来てくれとエトワールにもしつこく言われただけで闘技場がどうのとかは一切聞いていない。

「大アルカナ所持者を決める闘いをする……。私たちが王に献上した大アルカナの」

「プフィリ」

 指揮官になる為にいろいろと説明を聞いたプフィリは一足遅れて謁見の間から出て来た。

「私はこれから行くところがあるから……」

「俺もだ。じゃあ俺たちはここで」

「はい。ではまた」

 ここで三人は別れた……




 はずだった。

「あれ?お前もここに用あるのかよ」

 エトワールに呼び出されてアークは会議室の扉の前に来るとそこにはプフィリの姿があった。

「終わったらすぐここに来いと軍師から聞いた」

「そうだ。俺がお前たちを呼んだ」

 今の話を聞いていたとしか思えないタイミングで扉を開けたのは予想通りにエトワールだ。

「やっと敵を追い返したって一息つけると思ったのになんだよ」

 金貨をもらって金銭的問題は全て解決した。どうせこの国にお世話になるし、このまま城に住まわせてもらうのはまずいと思ったので手頃な家でも買ったり今後に備えて色々と用意をしたりしたかったにとんだ邪魔が入った。

「実は隣で同盟関係にあるアガピカリエンテに謀反の兆しがある」

「謀反? また何でだ」

 これは家どころではない。ポペたちのところに顔を出すことすら無理そうだ。

「俺たちの大アルカナ所持者が王子の妻、つまりは姫になることで更に関係を深めようという話になったんだが、その大アルカナ所持者が突然逃げ出したんだ。王子をそれを探して行方不明になった。仕方なく俺がトゥールさんに頼んで見つけさせたが王子は自分を拒否したあいつと俺たちの国を許さないと言い出した。王は病気で普通の国より早めに大アルカナを王子に受け継がせて権力のほとんどは彼が握っているから謀反は起こせる」

「な、なんだそれ。そんなの勝手過ぎるだろ。嫌われたからそいつの国も滅ぼそうってか? 冗談じゃないぜ」

「そうだな。だが放っておくわけにもいかない。手紙を送ってお前たちと話し合ってくれるように頼んでおいたから説得を頼み」

「おいおい、俺にその王子様の謀反を止めろってか? そいつは無理だろ」

「無理でもやってもらわないと困る。同盟国全てが闘技場を中止するわけにいかない」

「そういえば海からの攻撃があったんだよな。それどうなったんだ?」

 なにも同盟国はアガピカリエンテだけではない。審判の国、アマイクリシをはじめてする数国がいるがそれらから支援がなかったのは海からの攻撃で動きを止められていたからだ。

「ん、そういえばお前には報告してなかったな。追い返すことに成功したそうだぞ。まあ、敵は俺たちに手助けをさせない為のものだろ。来たのはあっちなのに守りが多かったと聞くからな」

「なら俺たちも海から攻撃を仕掛けたらどうなんだ?」

 海からの攻撃が加わればさらに作戦の幅が広がって国の制圧が簡単になる。

「駄目だ。海には敵が作った壁があって船が近づけない。こっちも奴らの海からの攻撃を防ごうと壁を作ろうとしたが敵の妨害やこっちにいる塔のアルカナ所持者たちの限界があって失敗に終わった」

 “たち”ということはバシスだけではないようだがそれでも出来なかったのは残念だ。

「ふ〜ん。それで俺たちはどうすればいいわけだ? 他の同盟国がどうとかは俺には良くわかないが謀反を起こさせたらまずそうだな」

「当たり前だ。確実に闘技場で大会が開かれる時に仕掛けくる。その時、実力者は闘技場の中だ」

 どうしても中止出来ないのは大人の事情というやつだろう。

「なるほどね。……わかった。そのいかれた王子様の説得を引きか受ける」

 この国には恩があるし、潰されては元の世界に戻れるかどうかがわからなくなるアークにとってこれは断れない依頼だ。

「そうか。お前ならそう言ってくれると思った。シュヴィーク指揮官はアークの護衛を頼みたいのだがいいかな?」

「はい……。アークからは色々学ぶとこあるから」

 エトワールの喋り方が明らかに変わっていることが気になる。彼女に気があるわけではないようだが、前にもこんなことは何度かあった。

 自分より上の者などにはさんをつけて敬語で接するのだがアークと話す時に敬語を使った試しがない。

「それなら話は早い。明日にでも行ってもらいたい。案内はトゥールさんがしてくれると言う。アークはくれぐれも迷惑をかけるんじゃないぞ」

 やはりアークと話す時は口が悪い。

「わかってるっての。は〜、ストラを応援したかったんだけど仕方ないか」

「応援? そんなの必要ない。あいつの実力は相当なものだ。なんたって俺の妹だからな」

 やっぱりこの人はシスコンなんじゃないのか心配になってきた。

「お前に意見なんて求めてねーよ。プフィリ行くぞ。今から行って早く終わらせる」

 早寝早起きみたいなものだ。悪いことは早く終わらせて大会で闘うストラを応援したいのだ。

「わかった。準備するから待ってて」

「おう。城の玄関付近で待ってるから急がずにだぞ」

 彼女のことだから心配ないのだが、注意だけはしておいた。

「トゥールさんには俺から言っておこう」

 謀反を事前に抑える為に二人はアガピカリエンテへと向かうのだった。




「お主、何をやらかすつもりだ」

 病気で寝込んでいたアガピカリエンテの王は城の騒がしさから起き出して自分の息子の前まで来ていた。

「お父様、お体は大丈夫なのですか?顔色が良くないようですが」

 金髪で碧眼のこの男が謀反を引き起こそうとしている王子、名前をカスロタ・ピュール。

「とぼけるな。聞いたぞ。謀反を起こそうとする気でいるらしいな」

 城の中では王子派がほとんどなってしまったが、昔から王と付き合いのあるものは何が起きているのか動けない王に代わって調べてくれている。

「何処でそれを……と聞きたいところですがもうお父様には関係ないことです。これは恋人のアルカナを持つ僕の問題です」

 これは宣戦布告に近い脅迫だ。病弱で衰えた者に私は止められないという。

「お前は個人的な感情で国を動かすのか。それは王としてやってはいけないことだぞ。国に住む民や兵のことを考えるのだ。なぜクレーネゲファレインとの関係を深めようとしない」

「それはあちらの者が僕を拒否したからですよ。なんでも結ばれるなら好きな人じゃないと嫌だとか。笑えますよね? 恋人のアルカナ所持者同士、つながるのは当たり前だというのに運命に逆らうなど」

 この世界では同じアルカナを持つ者と結婚すると幸せになれるという逸話がある。しかも恋人は特別だ。その逸話の始まりがその恋人のアルカナ所持者同士が結婚して幸せになったというものだからだ。

「その考えが間違っておると言っておるのだ。自己の考えを全て正しいと思っていては誰もついて来ん。その娘も同様にな」

 つまりお前は自己中心的だ! と怒鳴りつけているようなものだ。そんな人について行かないのは当たり前なのだが王という権力がある。

「僕に従わない者は力で従わせるまでですよお父様。僕はあなたのように甘い人間ではないのでね」

 確かに先代の王であるカスロタの父はとても甘い。盗賊でさえも罪を償う機会をと助ける始末である。

 それでも彼が白髪になるまで王を続けてこれたのは人徳があってこそだ。その点においてはセレネに似ているだろう。

「そんなやり方は間違っていると何度言えばわかる⁉︎ 人はお前の人形でない。いつか報いを受けることになるぞ」

「報い? そんなのいくらだって受けてあげますが、僕の怒りの矛先はクレーネゲファレインと決まりました。まずは僕を拒否した彼女の母国を滅ぼして絶望の顔のまま首を切り取ってやる」

 執念を通り越して王にはカスロタから微かだが黒くてどす黒いものが漂っているのが見えた。

「む、これは……」

「親族を殺したくはありません。ご自分の部屋で療養しながら僕のやり方を見ていてください。きっとわかってもらえますよ」

 手をあげると槍を構えた騎士達が現れて王の周りを取り囲んだ。

「ぬぅ……。こんな事をしてただ済むと思うてか」

 大アルカナは渡したが王の座を渡したわけではない。だからこそカスロタが王子なのだがこれは明らかな反逆行為だ。

「知りませんね。そういえばクレーネゲファレインから手紙が来たんですよ。どうやら僕の計画を察知して調べに来るようですがこれを逆手にとって謀反の始まりとするつもりです」

 手紙に書かれている使者の名前はトゥール・クエンサー、シュヴィーク・プフィリ、アーク。どれも大物だ。

「さて、準備をしておけ。久しぶりのお客様だ。最高のおもてなしをしなくては」

 騎士達に命令をしてカスロタは凶悪な笑みを浮かべた。




「どうやら余計なことをしたようだな。俺が命令したことにあんなものはなかっただろ?」

「何のことかな〜? 僕わかんな〜い」

 いつもの椅子では彼の元気さを抑えきれなかったらしく、いくら揺れてもいいロッキングチェアに変わっている。

「そんなに上手くいってないのが気に入らないのか? 全体的に考えれば順調なんだ我慢をしろ」

「やだやだやだ〜〜〜! 僕が気に入らないものは気に入らない。そういうのは壊すことに決めてるの。この世界もそうだよ。だから君と手を組んだんだよ」

 前後に椅子を揺らして徐々に男との距離を詰める。

「手を組むことと、俺に従うことは別ものということか」

「そういうこと。さ〜すがだね♪悪魔は自由ほんほう。あれ?ほんぽうってどう書くんだっけ?てか意味も知らないや」

 無邪気な彼には自由という言葉がお似合いだろう。

「自由か。傍観者と同じだな。仕事はしっかりこなしてるから文句は言えんがな」

 そう、こんなのでも仕事はやっている。いつもこうして遊んでいるだけの子供ではないのだ。

「も〜、そんなに褒めてもなにも出ないぞこのこの〜」

「十分貰っている。なぜあんな王子に力を使った。大した人材でもないし、あれより良質なものなどいくらでもあるぞ」

 余計なことはそれだ。これは必要になかったことで流石に頭にきているところだ。

「だって、だって〜。あの王子ちゃんさー僕にちょっと似てるところがあったんだよねー。ほら、さっき言った気に入らないものはぶっ壊〜すってところ。心の奥底〜にあったから僕がそれを出してあげただけなんだよね〜。だから許して〜」

 足で椅子を揺らして両手を合わせて頼み込むがその姿は無邪気過ぎて許す許さないの話ではない。

「わかった。愚者の力をもう一度試すいい機会だろ。今度は奴に人を動かす力があるかどうかだ」

「だよね、だよね〜。一人じゃ何も出来ないもんね〜。僕も一人だとか弱い子供。オヨヨ……」

 泣くそぶりを見せるが棒読みすぎて嘘だということは明白だ。

「ふん、戯言は寝てから言えと言いたいところだがお前の気まぐれがいい方向に進んだ。まだ俺は愚者に接触したくなかったからな」

「え? 何何何、もしかして何処か行くの」

 あまり外に出ることがないので羨ましいと目で訴えた。

「クレーネゲファレインだ。そこで力のアルカナが誰に相応しいかを決める大会があるそうなんだ。これは傍観者が好みそうな行事だと思ってな」

「あ〜、傍観者か〜。まだ見つからないなんてその傍観者って隠れるのが上手なんだね〜」

 情報が少なすぎて尻尾すら掴めないでいるので闘技場の大会に頼る他ないのだ。

「でもさ、でもさ傍観者ってなんなんだろうね? この世界を見てるのはわかったけど何がしたいの」

「それは知る為に探しているんだろ。捕まえたら洗いざらい吐いてもらう」

「尋問なら任せて任せて〜。これでも結構得意なんだよね〜」

 新しいおもちゃがもうすぐ手に入る子供のような顔を浮かべた。

「殺してくれるなよ」

「は〜い。それじゃあ僕は行くから」

 ロッキングチェアを大きく揺らして、その勢いをいかして思いっきり飛んで両手あげて着地した。

「何処か行くのか?」

「うん。傍観者ごっこしに行くんだ〜」

 テーブルに置かれた紅茶はもう冷めてしまっていたが、彼は陽気にそう答えた。

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