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遠征の終焉

「おうら!」

 棒を手にしたアークは真っ直ぐではなく、右下らへんに飛んで膝の裏目掛けてそれを叩きつけた。

「手応えありだ」

 鎧の関節部分は薄くなっているので当てるとかなり有効な攻撃となるが難しい。

「………」

 しかし、声一つ発しないので本当に効いているのかどうか不安になってくる。

「アーク殿。早くこちらへ」

 気づくとディアマは拳を大きく振り上げていた。

「くっ!」

 無理な攻撃をして体勢を崩していたアークは素早く立ち上がって仲間の元へと飛んだ。

 そして今さっきアークのいた場所はガコンと音を立てて土の破片を飛び散らかした。

 間髪入れずに弓矢部隊が一斉攻撃をするが、右腕を振った風圧だけで弾き返されてしまった。

「怯んではいけません! 弱点は防御力が低いことです。一本でもいいので当てることだけに専念してください」

 ストラは団関係なしに指示を飛ばしている。

「防御力が低いって本当かよ。あいつのアルカナ能力も知らないぞ俺」

「拙者は聞いたことがあるでござる。ストラ殿の兄上であるエトワール様の予想でござるが、何かを犠牲にして力を得るもので体が強化されるというわけではないようでござる。無口なのもそれが原因だとか……」

 あくまで予想に過ぎないのでわからないが、それが事実だとすると彼はコミュニケーション能力さても力に変えるほどの意思があるということだ。

「信じ難い話だが、矢を吹き飛ばしたのもそれで理由がつくな」

 体も強化されているのなら堂々と受け止めて兵達の動揺を誘うはずだがそれはしなかったのではなく、できなかったと考えるべきだ。

「なるば、狙うは心臓か頭でござるが鎧が邪魔でござるな」

 素材か何かは知らないが、かなり頑丈にできていて岩でも叩いているような感触だ。

「あれで弱点を補ってるんだろ。だがあれさえ壊せば丸裸同然。サムニン、すまないがみんなに奴の注意を逸らすように言ってくれ。一瞬でもいい」

 そうすれば何とかしてみせると目で訴えるとそれが伝わったようでサムニンは強く頷いてくれた。

「了解でござる」

 身の軽いサムニンは走り回ってそれを伝えると団員たちは槍を構えて突入した。

「………」

 しかし、弓矢部隊の攻撃の時と同様に風圧で飛ばされてしまった。

「まだまだーーーーー!」

 だがその後ろに控えていたアペレらが剣で斬りかかったが、刃は鎧に塞がれてしまい両腕を使って出された風圧で吹き飛ばされる。

「今でござる!」

 アークから放たれた棒は吸い込まれるようにディアマの頭に直撃し、鎧を打ち砕いた。

「仕上げよろしく」

 渾身の一撃を与えたアークはしゃがんでその影に隠れていたプフィリが弓矢を構えている姿が現れた。

「任せて」

 矢は一直線にディアマの脳天目掛けて走った。




「よぉ、メラフ。自軍の将軍に足止め頼むなんて随分えらくなったじゃねーか。昔はもっと優しい戦略だったのにな」

 鉱山の頂上付近にはもう騎士達の姿形はなかったが、メラフだけがポツンと彼を待っていたかのように突っ立っていた。

「黙れ正義馬鹿。お前がここにいるということはディアマを倒したのか? 予想より随分と早いな」

「残念だが俺の部下に任せてきただけだ。あれはアルカナに呑まれちまってる。もう駄目だ。それが分かってて参戦させたのか?」

「ああなったのはディアマ自身が望んでなったんだ。お前に指図されたくないと思うぜ。まあ、限界なのを分かってて連れてきたのは俺だがな」

「外道が」

「ふっ、そんなこと言ったってもう手遅れだ。それに俺が持ってるこれなんだかわかるか?」

 木で出来た短い先端は赤く染まっていて、それの入れ物をシャカシャカ振る。

「マッチだろ。俺を舐めてんのか?」

「まさか。じゃあこれをこうするとどうなるかな」

 入れ物の側面でマッチに火をつけたメラフは先端を下に向けてゆっくりと手を離した。

 その先には三つの樽につながるロープ。いわば導火線だ。

「しまった」

 走り出したと同時に導火線に火がついて樽の方へ近づいて行く。

 しかしデュジュの足よりも遅く、樽につく前に追いついて拳で火をかき消す……はずだった。

「こ、これは……」

 拳はしっかり命中してその風圧だけでも火を消せるほどだったが、火は一瞬にして樽の近くまで移動していた。

「ただのマッチだと思って油断したな。これは知り合いの魔術師に作らせたものだ。火が消えそうになると転移魔法が発動される。持続時間は大したことないが樽の中のものに火をつけるくらいには十分な代物だ」

 つまり導火線を切っても残っている導火線へと移動してしまい、最終的には樽の中のものに行き着く。

 足掻けば足掻くほど自分の首を絞めてしまう。ならばと思ってデュジュは羽織っていた服を一旦脱いで、裏返しにして着直した。

「まさかこれを使うことになるとはな」

 全体的には先ほどとは対象の黒で『義』の文字は白で書かれた学ランで火を追い越して樽を持ち上げた。

「無駄だ。その火は何処までもついていくぞ」

「それが目的だ。だぁほ!」

 できるだけ上へ上へと登って行き、火が樽に追いついたのはアークたちがディアマを倒した時と同時のことだった。




「な、なんだあの爆発は」

「メラフが仕掛けたものでしょうが、少し様子がおかしいですね。もっと全体的に爆発させないと鉱山を全壊させられないのに」

 爆発したのは鉱山の上の先っちょ部分。大きな爆音とは裏腹に被害は大したことがない。

「アーク殿。鉱山の中から馬で逃げ出す者がいたとの報告があります。しかもその周りからは黒い霧が出現しているとのことです」

「誰かに追跡させろ。だが深追いはするな」

 ディアマとの戦いで追跡に行くのはたったの三人だがそれだけで十分だ。

「アーク。これ」

 ディアマの死体のそばで何かを漁っていたプフィリが両手で一枚のカードを載せて近づいてきた。

「それが力のアルカナか」

 アルカナ所持者が死ぬとその中にあるアルカナはカードの姿へと戻る。

 つまりこのカードはディアマの死が確実であることを示すものであり、首の代わりにもなるのだ。

「これは貴方が持ってるべき」

 強く押し付けられたので受け取ってしまったアークだが、ディアマに勝てたのはみんなの力があっこそだ。

「本当にいいのか? 俺なんかが持ってて」

「みんなもそれを望んでる。国まで持って帰るだけだから」

 このことは王であるセレネに報告する義務があり、このアルカナカードはそれに必要なものだ。

 それに敵のものだったとしても大アルカナ。勝手に使ったりするのは許されないので、それを未然に防ぐ為に一番信頼できるアークに渡してくれたのだ。

「わかった。これは俺が預かる。サムニン、すまないが鉱山で起きた爆発のことを調べてくれ。まずは生存者の確認。敵でも殺さず捕獲にしてくれ」

「了解でござる」

 片膝をついて一礼をしたサムニンは急いで星童騎士団と暁の騎士団にアークの指示を伝えた。

「これで終わったの……か?」

「はい。私たちの戦争は終わりました。しかしそれは一時的なものでしかありません。すぐに戦うことになるでしょう」

 勝ったは勝ったがこれは押し寄せて来た敵を追い返しただけに過ぎず、まだ戦争の根本は消え去ってはいない。

 アークはそれを消し去る為にこれと同じようなことを何回も繰り返さなければいけないのだと鉱山から立ち込める煙を見上げて自覚した。




「まずは君たちが無事に帰ってこれたことを嬉しく思う」

 謁見の間。

 王に報告をする時などに使われる部屋で赤い絨毯(じゅうたん)が目立つ。

 そしてそこに膝をついているのがバシス、エトワール、アークの大アルカナ所持者だ。

「ですが、デュジュさんはいくら探しても見つかりませんでした」

 爆発が起きてからすぐに二つの騎士団にくまなく探させたが人どころか動物一匹いなかったという。

 考えたくはないが、それはデュジュがどうなったのかを想像できる。

「僕はデュジュを信じてるよ。あの人は自分の執念を果たす前に死ぬような男じゃない。帰ってくるまで僕たちで彼の居場所を守っていこう」

 執念が一体なんなのかは全く知らないが、彼女からは確信めいたものを感じ取れたので不思議だ。これが王の威厳なのだろうか。

「流石は王様です。私もそう思っていたところです。どうやら私と王は似たところがあるようですね。どうです? 私と一緒にお出かけしてみませんか」

 そっと手のひらを差し出して誘ってみるが、彼の思惑を払うようにエトワールが横からその手のひらを叩いた。

「バシス! 王の前だというのにその態度はなんですか。そんなのだから奥さんに逃げられて独り身になったんですよ。なぜそれがわからないんですか?」

「な! 前の奥さんは関係ねーだろ。俺は一生愛を追い求める。別れた女のことを考えるなんて女々しいことはしない。それにエトは恋もしたことないだろうが!」

 膝をつくのをやめて立ち上がって人差し指でエトワールを指して大声をあげた。

「それは関係ないでしょ。そういうのは僕の自由です。貴方の指図を受ける義理はありませんし、そんなの受けたら一生結婚出来なさそうなので遠慮します」

「言うようになっなエト。こうなったらいつもので決着つけるぞ。負けたやつは勝ったやつの言うことをなんでも言うってのはどうだ!」

「いいですよ。受けて立ちましょう。それでは貴方にする命令を考えなくてはいけませんね」

 エトワールも立ち上がって謁見の間を出て行き、それに続いてバシスも外に出て行った。

「お、おいあれでいいのかセレネ」

 誰の目から見てもあの二人の行為は王の前でするものではない。あまりにも無礼なものだったが、豪華な装飾がされた椅子に座った王は笑みを浮かべていた。

「いいんですよ。お互い言いたいことは好きなだけ言いあった方が良き考えが生まれると先代が言っていましたから私もそれを見習っているんですよ」

 それだけではないだろう。彼女の性格からして止められなかったのかもしれない。

 もし王の座を乗っ取ろうとしている者がいたのなら簡単に座れそうだ。

「お前もいろいろ大変なんだな」

「アークさんも大変だったそうじゃないですか。盗賊を倒したり、壁を守り切ったり、敵の主力である将軍を討ったそうではありませんか」

「それは仲間がいたからだ。俺一人じゃなに一つできなかったよ」

「私の聞いた話によると素晴らしい指示だったそうですね。私はそれがアークさんの仲間を救うことになったのだと思います。騎士達にはどんなことにも動じない指示者が必要なんです」

「ならお前は何役だ?」

 王は戦争で前線に立つことがないのは当たり前だが何もしないわけにもいかない。

「もちろん王ですよ。私が生きていることで国が生きて、騎士や市民たちに力が漲ってくれればと思っているんですよ。でも、私もこの椅子に座ってばかりもいられません。次は私もアークさんについて行きます」

 覚悟がこもったその一言共に彼女は立ち上がった。

「ついて来る? 何処に」

「太陽の国、チャカデフェールです。攻める時には私も同行するということですよ」

「いやいや、流石にそれはまずいだろ」

 この城は王がいてこそ機能がしているもので、もしそうなったらこの周りの街が麻痺する可能性がある。

「大丈夫ですよ。この国のみなさんはいい人ばかりですから」

 それは身を持って知っていることだが、そんな確信のないことでそれほどのことを決心できる彼女はかなり肝が据わっているというより、鈍いのかもしれない。

「お前がそこまで言うなら俺は止めやしないけど死なない程度にしろよ」

「やっぱり貴方がこの国に来てくれて良かった」

 その笑顔は王とか関係なく、ただのセレネからのもので心臓に悪い。

「ば……、そんな事ねーよ。ただの偶然だろ」

「その偶然に私は感謝したいのです。こうしてアークさんと話すことなんて出来なかったでしょうから」

「俺はただ元の世界に帰れればいいだけだ。それまではいくらでも話しをしてやるさ」

 あの馬鹿軍師たちが気になってその後を追う為に立ち上がって謁見の間の絨毯を踏んだ。

「ギャパルに住まいを壊された村の住民は街の住宅に一時的に住まわせることにしました。村の復興は太陽の国に勝利してからにしようと思います」

「本当に最高の王様だぜお前は」

 それだけ言い残して謁見の間を後にした。




「報告、報告〜。ねぇ、僕の報告聞きたい?聞きたいよね」

 何時ものようにチェスをする二人のうちの子供っぽい方が唐突に声をあげた。

「全体的にはこっちの勝ち……といったところか?」

「すごいすご〜い。正解の正解大正解だよ〜。どうしてわかったの〜?もしかしてアルカナ使った?使ったんだね〜。酷いよ、報告した時の顔見たかったのに〜」

 まるでおもちゃを買ってもらえなかった駄々をこねるがもう片方は冷静に紅茶を(すす)った。

「お前の話に付き合っていたら夜になるからな。面倒なことはせず、必要なことだけを言えばいい」

「冷たいな〜。鬼、悪魔!」

「悪魔はお前だろ。俺は正論を言ったはず他が」

「分からず屋! 僕は毎日が忙しくて忙しいからこうして話し合う時間が楽しみで楽しみなんだよ。なんでそこをわかってくれないのさ」

「興味がないからだ。さっさと報告をしろ。それがお前の仕事だろ。そうしたらお前の話に付き合ってやる」

「はいは〜い。そういうところがあるから大好きなんだよ〜。じゃあ報告を再開すると〜、まず目的だった正義の撃破に成功〜。銀の鉱山はちょ〜としか壊せなかったらしいよ。しかも無口くんの死亡確に〜ん。相打ちっていったところかな〜? これで僕の駒は一つ減っちゃった」

 初めの位置のポーンを横に小突くとその横にあったポーンに支えられたが、ほとんど倒れている状態だ。

「一つで潰せたのなら大したものだ。あいつはかなり厄介だったからな」

「でも、でも〜この流れはよくないよ。これじゃあこの駒の重みで全部倒れちゃうかも〜」

 ほとんど倒れかけたポーンをもう一度小突くと全てのポーンはドミノ状に倒れていった。

「そうならない為の俺だ」

 倒れそうになったポーンを人差し指で支えて全て立て直していってみせた。

「ふふん♪ ならそっちは任せちゃうけど〜愚者の方は僕にくれないかな〜?結構僕が好きな感じの人なんだ〜」

「好き……か。悪魔に好かれた奴はろくな目に合わないと聞くがな」

「大丈夫、大丈夫。それよりそっちは順調?」

「いや、思ったより隠れるのが上手くてな。まだ時間がかかりそうだから愚者はお前の好きなようにしてくれ」

「りょ〜かい!」

 飛び跳ねて敬礼をした勢いで宙に浮いたポーンは紅茶の入ったカップに潜り込み、中のものが飛び跳ねた。

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