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麗しき王

 タロット占いを趣味、仕事としているアークの元には一通の手紙が届いた。

 ちなみにアークというのは本当の名前ではなく、占い師をしている時の名前で今ではそちらの方で呼ばれることが多い。

 アークというのも気に入っているし、最近ではたまにテレビに出ることもあってどんな形であれ人気が出てきているので文句はない。

 今日はそのテレビ撮影の帰りで、ぐったりとした時にこの妙な手紙だ。

「なんだこれ?」

 ファンレターという線もあったが、そもそもテレビに映るようになったのはごく最近で可能性は低いし、住所など誰にも教えていない。

 それに友達からならメールを送ってくるはずだ。

 気になって自分の部屋に入って、手紙を開けるとそこには一枚のカードが入っていた。

「これは……タロットカード」

 仕事でよく使っているカード。見間違えるはずもない。

 だがアークが知っているものとは絵柄が少し違った。

 二つの西洋的な城の上に太陽と月がある絵で、タロットカードにはこんなものはなかった。

 もしかしてタロットカードではないかもしれないと思って、アークは顔を近づけて確認しようとするといきなりカードが輝き始めてそれはあたり一帯を包み込んだ。

 直後、アークの体は白い光の中を漂った。




「うわっ!」

 白い光の中を通り抜けると急に暗くなってそこから出ようと前かがみになると簡単に抜け出せたのだが勢いで尻もちをついてしまった。

「こ、ここは?」

 目に飛び込んできたのは先ほどの光とは違って、女の子らしいピンクに染められたものからの光。

 部屋の上にはシャンデリアがあって、出てきたクローゼットもベッドも馬鹿みたいにでかい。

「おいおい。お姫様の部屋にでも飛ばされたのか?」

 明らかに見慣れている自分の部屋ではないことは確かだが、アークはこの光景を信じられずポカンと口を開けて呆気にとられていた。

「誰かいるの?」

 しかし、白と青を基調とした煌びやかなドレスをまとった少女が入ってきたことによって意識は復活した。

「い、いや。俺は怪しいものじゃなくてだな……ちょっと迷子なんだ」

 満月の光のような綺麗な水色の髪は短く整えられていて女のものの服を着ていなければ、美男子と間違えてしまいそうだ。

「こんなところで迷子ですか? 城内には多くの兵士が警護しているのに、それを掻い潜っての迷子ですか」

 彼女は凄く綺麗な瞳をしているが、アークに向けられているのは疑念の眼差しで居心地のいいものではない。

「そうじゃなくてですね。俺は変な光にここに連れて来られただけで、何も盗んでないから」

「でも、クローゼットが荒らされています。何かを探していたんじゃないんですか盗人さん」

 勢いよく出たせいで、クローゼットからはドレスが数着床に倒れこんでしまっていた。

「それは俺がここから出てきたからで、そういったんじゃないんだ」

 必死に誤解を解こうとするが、目の色は変わらない。

 いきなり変なところに連れて来られたアークの頭の中は混乱しているのに、突然現れた男にお姫様らしき人物は冷静を保っている。

「なら、貴方が危険ではない証拠を見せてください。そうでないと自分の部屋にも入れません」

 扉の前で立ち尽くす彼女は警戒をしてなのか、そこから前には動こうとしはしていないことに今更ながらに気がついた。

「わ、分かりました。まずは自己紹介をしますけど俺はアーク。占い師をやっています」

 本名を名乗らなかったのはアークという方が、外人らしき彼女にとって分かりやすいと思ったからで自分の名前に後ろめたいことがあるということではない。

「占い師? もしかして預言者のことですか!」

 何故か占い師に反応したお嬢様は目を輝かせて、一歩前に出て白色のヒールのつま先で敷居を踏み込んだ。

「預言者は言い過ぎだと思うけど似たようなものかな。一応、的中率は高い方だし」

 だからこそテレビに取り上げられたし、それだけでなんとか食っていけている。

「なら、この国の未来を占ってくれない盗人さん」

「盗人さんじゃないって、俺はアークだ。それであんたの名前は?」

「そうですね。私が名乗らないのら無礼ですよね。では改めましてアークさん。私はこの国の王をやっていますセレネ・ウラーノです」

 滑らかな手のひらをそっと小さな胸に添えて、アークに向けて微笑んだ。

「王? 女王じゃなくてか?」

「はい。王です」

「言い間違いとか、俺をからかってるとかじゃなくて?」

「言い間違いでも、貴方をからかっているわけでもありません。本当に私がこの国の王なんです」

 髪の毛と同じ色の瞳は一切の曇りがなく、彼女が嘘をついていないことを証明している。

 占いで多くの人を見てきたアークにとってその瞳は綺麗すぎて珍しく、つい魅入ってしまうほどだ。

「そ、そうか……。まあそれはいいとして、俺は怪しいやつじゃないって分かってくれたかなセレネ王」

「そうですね。武器も何も持っていないようですし、敵国のスパイだとしたらすぐに私を殺しにかかってくるでしょうしね」

「殺すだなんて物騒だな。俺はここに迷い込んできただけだぜ。それにセレネ王みたいな可愛い女の子を殺すだなんて勿体無いだろ」

 実際、アークは虫すら殺したこともないのにいきなり人殺しは無理に近い。

「か、可愛いですか……。そんなこと言われたのは初めてです」

 顔を赤らめたセレネはいつの間にか部屋の中に入って、アークとの距離も縮まっていた。

「初めて?流石にそれは嘘だろ」

 セレネの容姿なら同性にだって、可愛いとか綺麗だとか、何の偽りもなく褒められるだろう。

 しかし、セレネは悲しそうに首を横に振って否定した。

「少し、外を見てみませんか?」

 何か思いつめた顔をしたセレネのお誘いを断る理由はないし、窓のないこの部屋からではここが何処なのかサッパリわからない。

 それを知るために二人はクローゼットからはみ出た衣服を戻さずに、ピンク色の部屋から出て行った。




「す、すげ〜。どうなってんだこれ……」

 彼女が王というのだからここは城の中ということは想像できたし、石造りで頑丈なところから西洋の雰囲気があったが、見張り用にできたスペースから外を覗いてさらに自分の中にあった疑念が確信へと変わった。

 ここは自分の知っている世界ではない。

「ここはクレーネゲファレインという国で、アルカナは月です」

「アルカナってあのアルカナ?」

 アルカナは占いで使っているタロットカードの分類なので、アークはすぐにわかった。

 ちなみにアルカナには大と小の二つがある。月は大アルカナの方だ。

「多分、そのアルカナです。貴方はここの世界の住民なんですか? この城に入るのは不可能に近いですからクローゼットから出てきたことを信じるかないんですけど、それって……」

「いや、俺もよくわからないんだ。手紙を開けて、そこに入ってたカードを見てたら吸い込まれたっていうか、なんて言うか変な感じになって気づいたらクローゼットの中だ。俺がどうやって来たのか聞きたいくらいだ」

 車でも新幹線でもないし、気を失っていたわけでもなく瞬間移動したかのようにここに来ていたことだけしか覚えていないので自分がどうやってここに来たのかもわからない。

「そうですか。やはり貴方はここの世界の人じゃないんですね。普通の人とは雰囲気が違ったので、もしかしたらと思ったんです」

 見張り用の場所は一人しか入れないので、セレネは廊下でアークを眺めてホッとしたように呟いた。

「それよりも何でここに俺を連れて来たんだ? 部外者の俺といるところを見られたらなんか言われるだろ」

 彼女の地位から考えても、見知らぬ男がいたら有無を言わせず襲いかかってきそうでアークは気が気でない。

「大丈夫です。貴方は私の客人ですので傷つけさせません。それに貴方は他の世界から来たんでしょ」

「まあ、そうなるな」

 美しいお姫様……じゃなくて王と話せているのは嬉しいのだが、これが夢であって欲しいと思っていてまだ全てを信じられてはいない。

「なら、この世界にない考えなどを思い浮かんだりしそうですね」

 軽く手を合わせて目を輝かせるセレネだが、それは興味を持っているというより何かを求めている感じだった。

「考えってお前、俺に何を期待してるんだよ。俺はここに来てまだ間もないってのに」

 期待されるのは嫌ではないが、はっきり言ってお門違いだ。

 それに今のアークは自分のことで頭がいっぱいで助ける余裕なんてない。

「す、すいません。実は隣のチャカデフェールという国と戦争をしているんですが私一人で指揮をするのは初めなので不安で仕方なかったんです。王というのも上に立つ者が女性だと色々と大変なんです」

「だから表では男のふりをして、お姫様じゃなくて王なんだな」

 この世界ではまだ女性差別が色濃くあるようで、弱い存在となっているらしい。

 女性差別はよく知らないが、少なくともアークのいた日本では女性は男性の上に君臨していた。

「でも、アークさんはこの世界の人じゃないので私たちの戦争に巻き込むわけにはいきませんよね」

 確かに初めて会った彼女にそこまでする義理はない。

 アークはこれからどうやって元の世界に戻れるのか? その方法を見つけるまでに住む場所はどうするのか?

 色々と問題が山積みで頭が痛くなってくるが、今この場で何かいいアイデアは浮かばないかと無い頭を振り絞って考えると、ふと一つの結果にたどり着いた。

 元に戻る方法を探すにはできるだけ多くの人がいた方がいい。住む場所は治安がよくて気持ち良く眠れるとこがいい。

 全ての条件が揃っているのはすぐそばにある。

「俺をここに住ませてくれないか?」

「え? こ、ここですか? 別に問題はありませんが今は戦争中なので他の国に行った方がいいですよ」

「何処に行ったって同んなじだ。俺の世界だって戦争は絶えない。なら、ここでも同んなじだろ?先か後の差だ」

 なら、先に済まして元の世界に戻るための方法を探したい。だからこそアークはこの国を拠点にすることにした。

 特に大した理由はないのだが、唯一あげるとしたら女性の期待を裏切りたくないということだ。

 男は女の前ではカッコつけたい生物。

 ただ、その本能が出てしまっただけに過ぎない。

「あ、ありがとうございます。やっぱりアークさんはいい人ですね」

「アークでいいよ。お前はここの王様なんだから」

 だが今の彼女は王の威厳はなく、はしゃいでいる子供のような明るい笑顔を浮かべている。

「ここにいらしたんですかセレネ王。部屋にいないので何事かと思いましたよ」

 二人の間にあった壁がなくなったところで、現れたのは申し訳程度の青い鎧を着た白髪の男だった。

「ん? お前は誰だ。見たことない顔だな」

 黄色く澄んだ目がアークを捉えると、そのままジロジロと見つめ続けて威圧する。

「アークは私の客人です。丁寧に扱ってください」

「ほう、セレネ王の客人ですか? そういったことは僕を通してくれと言ったではありませんか。もし王が女だと知れ渡ってしまったらどうするんですか」

 横目で睨んできて、目障りだと言っている気がしてくる。

 やはりセレネが女性だということはトップシークレットのようだ。

「アークは大丈夫です。これでも人を見る目は貴方より優れていると確信しているのですが、そこはどうなのですか?」

 アークと話していた時とは打って変わって凛々しく流石、王の座についているだけはある。

「そうですね。確かに人を見る目は僕だけではなく先代をも超えているでしょうね。ならアークという者は客人として扱うとして何処の国から来たのですか?」

「あ〜、それはちょっと話すと長くなるんだが簡単に言うと、俺はここの世界の者じゃないんだ。だから国が何処かなんか聞かれても知らん」

 そもそもセレネから詳しい説明は受けていないのでこの世界に国がどれほどあるかもわからない。

「にわかには信じ難い話だが、セレネ王から見て彼が嘘をついている様子はないんですよね」

 催促するように視線をセレネに向けると、大きく頷いて肯定した。

「それは私が保障するわ。それよもアークに自己紹介してないでしょ。ちゃんとそれを済ましたら色々と説明してあげて」

 そういえばこの目つきの悪い男は今だに自分の名前を言ってなかった。というより、言おうとはしていなかった。

「エトワール・ヴェルソン。アルカナは星。今行っているチャカデフェールとの戦いの指揮を任されている」

「あ、結構お偉いさんだったのな」

 かなり若いように見えたので騎士団長とかそのぐらいだとばかり思っていたが、その予想よやも遥かに超えた地位にいた。

「そうだ。お前なんかよりもずっと偉い。大アルカナを持っているからな」

「また、アルカナか」

 これもタロットカードに詳しいアークなら知っていることだが、大アルカナとはタロットの一組である七十八枚のうち二十二枚のもので、それぞれにいろんな意味があり、セレネの月も大アルカナに入る。

「その顔ならいちいち説明する必要はなさそうだな。この大アルカナはこの世界では大きな存在だ。王やその配下の者たちも大アルカナを持っている。配下と言っても下っ端ではなく、それなりの地位を持った者だ。大アルカナを持っているからその地位に就ているといっても過言ではない」

 つまり、アルカナはアークのいた世界でいう資格のそれに近いものだということは理解できた。

 だが、それほどまでにアルカナに執着するのは異常に思えた。

「じゃあ、俺もアルカナはあるのか?」

 一応、いっておくがギャグではない。アルカナとあるのか、が似ているからといってそんなわからにくいギャグなど絶対に言わない。

 ただ純粋に自分にもアルカナがあるのかどうか気になっただけだ。

「アルカナは天性のものだが、お前にもワンドくらいはあるんじゃないのか?」

 少し優しいように聞こえるが、アークは事前の知識があるので騙されたりはしない。

「ふざけるな。ワンドって農民のことだろ」

 そんなもの普通の人にあるアルカナで珍しくもなんともない。

「ばれたか。なら、お詫びにちゃんとお前のアルカナを調べてやろう」

「そんなのわかるのか?」

「僕のアルカナの能力でな。他にも幾つかあるがそれは後ほど知ることになるだろ」

 めんどくさそうに話すと、急に黄色い目がさらに輝きを増してアークの体の隅々まで舐めるように見渡す。

 これで、アルカナが何なのかと調べているのだろう。

 だが当の本人はあまり期待はしていない。

 アルカナはこの世界のものでアークの中にある可能性は低いように思えたからだ。

 しかし、途中でエトワールの動きが止まって冷静だった顔が明らかに変化して戸惑っている感じが出ていた。

「こ、これは……まさかこんな奴に」

 こんな奴には見逃してやるとして、どうやら予想外の結果だったようだ。

「エトワール。アークのアルカナはなんだったのですか? 黙ってないで教えてください」

 普段表情を変えないエトワールの驚いた顔で、さらに気になったセレネは急かすように聞くと目を丸くしていたエトワールは重い口を開いた。

「愚者です。滅んでいたはずの切り札がこの男のアルカナです」

 それは大アルカナの一つ。

 世界そのものの運命を左右することになるアルカナ。

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