ブスな私。その恋はメロンソーダ味
同情?エール?なんでもください
BY ユイカ
私の名前は、ユイカ。現在29歳。地方のテレビ局でバイトをしている。
私は子どもの頃から可愛いなどと言われたことがなくて、大人になってからもない。
「平安美人」これは、私が中学校の時につけられたあだ名。
鏡で自分の顔見りゃあ、それは言いえて妙なあだ名だと思う。
細いたれ目に、低い鼻、口角の下がった唇。やや下膨れな輪郭。
のっぺりとした顔。
せめて、綺麗になりたくて丁寧に労わりながら伸ばした腰まで伸びた黒く長い髪。
風になびかせて歩いていると、すれ違いざまに「残念・・」などと言われてしまう。
そんなことは日常的茶飯事なので気にしなくなった。
というよりは、感覚がマヒしてしまったのかもしれない。
大学時代には、金髪にして垢抜けを狙ってみたけれど無駄なあがきだった。
サークルでは、美人や可愛い女の子ばかりがちやほやされて私は蚊帳のそと。
大学生活というものは、誰にとっても人生の中でもっとも楽しい時代であるとは聞いたことがあったが、私は分からない。私は親友と言える友人がいただろうか。
試験前にノートを貸してあげるようなクラスメイトならいたが、心と心が結びついたような友情に恵まれたこともない。恋愛とも無縁だった。
まあ、うだうだした過去の話もここまでに。
内緒・・・今の仕事先にちょっとお気に入りの男性がいるのだ。
その人は38歳の報道記者で、独身らしい。
桜井浩二さん。
目力があって、けっして折れない強い心をもっているリーダータイプ。
なかなかカッコいい。これは恋なのか?自分では分からない。
桜井さんとは電話で毎日話をするのだけれど、そのたびに私の心は、熱くなり膨らんでゆく。しもやけみたい。
熱くて痛い。でも、その部分に触れると少し心地よい。
少女マンガみたいな、シンデレラの話みたいな展開ないかな。ないよ・・・たぶん・・・。
電話といっても、取材先からうちの放送局の担当デスク(=記者を統括する偉い人)に取り次ぐだけ。
ビジネスライクでしか関わったことがないし、桜井さんは、県庁番記者のためにほとんど県庁にはりついていて、局に内勤の私はなかなかコミュニケーションをとれないのだけれど。
たまたまある飲み会で、少しでも仲良くなりたいと思いドキドキしながら参加するんだけれど結局、緊張して話しかけられずじまい。
でも、そんな私に「いっぱい食べなよ」とか「好きなもの頼みなよ」とか気にかけてくれる桜井さん。いつも微笑んでくれる。
まさか・・・。桜井さん、私の気持ちに気づいてくれて優しくしてくれているのかな?
妄想と期待が入り混じる想い。
嬉しくて、それだけでその幸せは3日ほどもつ言葉たちだった。
「神様、あなたはいるの?いるのならば、決定的な何かをください。」
告白?
まさか。
そんな勇気ないよ。
鏡で顔見てから恋しろって言われそうだし。
私の淡い恋心が、季節を経て変化してゆく大樹の新芽みたいに濃くなってきたある日の出来事だった。
私は、定時にあがって自転車置き場に停めてある自転車に乗って帰ろうとした時。
「あ、あの、桜井さん、今少しいいですか?」
これから出かけようとする桜井さんを呼び止める声を聴いたから。
一部始終気になってしまった私。
「うそでしょ?何?」
金縛りにあったように私は、固まってしまった。
華奢な身体に、肩までのこげ茶の髪。ミニスカートのヒラヒラからすっと白い脚が伸びている。私より少しだけ年上のあの人だ。
彼女の、きゅんきゅんと潤んだ丸い黒目が桜井さんを呼び止めていた。
私は、「そんな目で桜井さんを見つめないで・・・」と心の中で叫んだ。
あれは、カメラマンアシスタントのナツナさんだ。
ナツナさんは、取材クルーとして桜井さんとまれにチームを組む、うらやましい存在。
見た目は、中の上あたりかな。私が評価するのはおこがましいかもしれないけれど。
儚げな雰囲気なのに、仕事ぶりは男前だと記者やカメラマンたちに高評価をもらっているような魅力的な女性。ちょっとお嬢様みたいなオーラを、私は憧れていたものだった。
何だか、二人の距離が近づいて・・・
手を握り締めあった。二人の顔がぎりぎりまで近づいて・・・
そして、テンションハイな二人の淡い笑顔。
キスをする瞬間がこなかったことだけが唯一の救いだけれど。
・・・・絶望。
やっぱり、女はある程度可愛くて、いまどきは仕事も出来なきゃ幸せになれないんだ。
可愛くない私は、恋愛をすることすらいけないのかな。しかも、密かな片思い。
失恋直後。
29歳の私は、しずしずとテレビ局を後にする。
こんな夜は、ジャズでも聴こう。
バーボンを飲もう。
私のちくちく痛む心をさらに苛めるかのように、空から雨が降り出した。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
酷評、ご意見、ご感想、なんでもお待ちしています。