訪問者①
ここ最近のアデリーがしている仕事は主に粉挽きと、雪が降っていない日の落ち木拾いだ。パンを焼く人が粉を挽くのは当然なのだが、粉挽きを一日中しているのは気が滅入るので、出来れば寒くても外へと出ていきたかった。
雪の降った世界はあたり一面真っ白で、そこに太陽の光が射すとキラキラと光るものだから、しばし手を止め眺めたくなるほど美しかった。
「こんなの足の指が冷えすぎ! もぎれるわ!」
横で枝を見つけ出しては雪から引っこ抜き、背負っているカゴに入れながらロセが不満を漏らしていた。
「これが終わったら湯に浸かれると思えば頑張れるわよ」
実際、アデリーはそれが毎日楽しみだった。ニコラスがいつだったか同じことを話していた。そのニコラスは数日廃城を離れている。用事があるらしく、普段は荷車を引いている馬にそのまま跨り出かけていった。
「冷え冷えの指先がじんじん脈打つみたいになるじゃない!」
「確かに湯に浸かったらそうなるけど、すぐに溶け出すようになくなるもの。ロセの薬湯はとても効くから皆喜んでいるのよ」
ロセは文句を言うのをやめ、満更でもなさそうに頬を押さえていた。
「タダで提供しているんだから感謝してもらうのは当たり前なんだけどね」
口では相変わらず捻くれた事を言うが、アデリーはこれが照れ隠しだとわかるようになっていた。
「私も感謝してるの。あんなに目の上が腫れたのに、ロセが雪で作ってくれた湿布のお陰で直ぐに引いたもの」
「熱を持ったものは冷やすのが一番なの。熱が出ても、火傷をしても冷やすでしょ?」
アデリーはうなずきながら飛び出ていた枝を両手で掴んで引き抜こうとした。それはどうやらまだ根がついているようで、手からすっぽり抜けて尻餅をついた。雪があるので痛みはほとんどない。
「たとえば尻餅をついて赤く腫れたお尻にも有効よ」
呆れたようにロセがアデリーに手を差し伸べた。その手を借りながら立ち上がる。
「じゃあ、雪で冷やされて丁度いいかも」
「服が濡れたの? 服が濡れたんなら帰りなさいよ、風邪を引くから」
濡れてはいないと主張したら、お尻をバンバン叩かれて雪を叩き落としてくれた。
「確かに大丈夫そうね」
ふふふと笑い出したアデリーに横からロセが怪訝そうな顔を出した。
「打ったのはお尻でしょ。頭まで衝撃が伝わったの?」
「いやだわ、そんなんじゃないの。ロセがとっても優しいからなんだか嬉しくなっちゃって」
家族の死を聞いて部屋に戻った日、ロセは泣き腫らして厚ぼったい瞼をずっと冷やしてくれていた。
「せっかく美人に生まれたのになんなのよ。酷い顔だわ」
ドアを開けたロセの第一声はこうだったが「辛いことがあったんだ。お前に任せていいか?」と、ダグマに言われると素直にアデリーの手を取って言った。
「泣かせたのはダグマなの?」
これにはアデリーが焦って「ち、違うのよ。ダグマさんが……私の家族のことを調べてくれて」そこまでは勢いで話せたがその先が続かなかった。ダグマはその後を引き継ぐように言う。
「亡くなってたんだ。それでアデリーはまいってる。ロセに託しても大丈夫か?」
「当たり前じゃない。さぁ、中にお入んなさい」
声音すらいつもより柔らかくてロセの配慮を感じると、なんだか不思議なものでまた涙がこみ上げてきた。
「ありがと……」
涙声のアデリーにダグマが肩を二回叩き「時間が全てを癒してくれる。だから今は寝るといい」と伝えると、部屋を後にした。
「私もそう思うわ。お爺ちゃんが死んだ時もそうだった。さぁ、ベッドに行きましょう」
せっかく引いていた涙がロセの優しさに触れるたび、氷が溶けるようにポタポタと落ちていく。
「ロセ……」
「なに?」
「あなたが横に居てくれて嬉しい」
素直に伝えてからロセの顔を見たら、表情を歪ませ、今にも泣きそうなロセの姿があった。
「ちょ……あんた、自分が泣きたいからって仲間を増やそうとするのやめなさいよね」
泣かせようとしたわけではなかったが、この反応を見て、心の中でもう一度同じことを繰り返したのだった。




