冬は間近②
ひとしきりトニの良いところを語るとベッラは厨房に帰っていった。人の恋愛話は聞いててなんとなく良い物だが、アデリーは自分の気持ちが皆にバレているというベッラの指摘が気になって仕方がなかった。
だから、夕方たまたま通りがかったダグマがキノコの片付けを手伝ってくれた時も、始終ソワソワとしてしまっていた。
「なんだ? 調子でも悪いのか?」
そんなアデリーに聞くダグマに、しどろもどろになりながら「いえ、そんな、あの、元気です」と答えて余計変な顔をされてしまった。
「無理はするな。最近寒くなってきたしな。あ、それで今夜あたり俺の部屋で例のアレを確認してくれ」
「はい! ずっと預けっぱなしでご迷惑おかけします」
リルのことがあってから、心底預けておいて良かったと感謝していた。しかし、ダグマには預かっているという負担を強いていることもわかっていた。良策が見つからない以上、このままにするほかないが、申し訳ないことにかわりなかった。
「アデリーが保管しているよりずっと寝付きがいいから、持っておくさ。もし自分で持っていたければ、俺から離れることを許さない」
そこでバチっと目があって、変にあたふたとした。
「あの、一緒に居るのは嬉しいですけど、ダグマさんと同じ仕事は出来ませんし……その、負担がそんなにないなら持っていてもらいたくて──」
ダグマと話すと最近はよくこんな感じになってしまう。考えが纏まらないようになるし、話しているうちに自分が何を話しているのかわからなくなる。
「俺と同じ仕事か。ま、さすがにカンナをかけたり、狩りに行くのは無理だよな」
「あ……カンナをかけるのはやってみたいです」
シュルシュルといい音で削れる木材と、木のいい香りが浮かぶ。やってみたいが難しいのだろうか。
「カンナ自体は難しくないし、力は必要ないんだがな。台に木材を乗せたり、下ろしたりがお前には無理だろう。ま、やれることをこなすのが一番だ」
許可が出るとは思ってなくても、出来ないと言われるのは寂しかった。いつだって何か職を持てないか模索していて、それで何も見つけられずに数ヶ月経過していた。
「難しいですね。やってみたいと思うのに、なかなか出来そうなものが見つかりません。少し前にベッラさんが食事処をやるのはどうかって言ってくれたのですが、どうでしょうか。ベッラさんと共に切り盛りする感じで──」
ダグマは話しているアデリーの髪をほんの少し掴むと、じっと見つめてから首を振った。
「やめておいたほうがいいな……」
「無理でしょうか。ベッラさんの話では──」
「悪いが、それはアデリーにやらせられない」
そこでなんとなくアデリーは気がついてしまった。アンナはそういう仕事をしていたのだと。
「アンナさんですね……、私がその仕事をしないほうがいい理由は」
ダグマは弄んでいた髪をそっと手離した。
「──もし、アデリーの生活が苦しくなったら俺が責任を持とう。とにかく、その仕事はしてほしくない。それだけだ。悪いな」
明言は避けたが、否定はしなかった。
「私は、アンナさんではないです。あの、私は私ですから」
ヤマドリダケモドキだってヤマドリダケに似ているが、あれはヤマドリダケではない。二級品と呼ばれようと別物なのだ。
ダグマは暫くアデリーの瞳を見つめてから、笑みを作った。
「全然似てないぞ。だから、アンナのこととは関係ない」
見たこともない女性だから、アデリーにはその言葉の真偽がわからない。
「ダグマさん。私はアデリーです。何も出来ないかもしれませんが、丈夫ですし、心配していただかなくて平気ですから」
ダグマは一度目をキツく閉じると、ゆっくり瞼を上げた。
「ニコラスやトニがアンナの名を出すから気になるかもしれんが、アデリーとアンナは別人だ。悪かったな、なんとなく嫌な思いをしているだろうが……許せ」
そこで一旦言葉を切ってから「赤毛が俺らを戸惑わせていることは否定しない。じゃあ、夜にな」と、キノコを乗せたスーツを上手いこと落ちないように纏めてカゴに押し込むとそれを手に廃城へと戻っていった。
釈然としないまま、暫くアデリーはダグマを見送り自分の髪に手をやった。
「本当に赤毛だけなのかな」
呟いても答えは出ない。聞いてみたいがトニやニコラスは教えてくれるだろうか。それに知ったところで何か変わるのか、考えを巡らせながらキノコを片付けていった。




