島左近無双
サランドル·ダンジョンから溢れ出した魔獣の群れが、地揺れの収まらぬ裾野を駆け下りる。
上層に生息していた下位の魔物たちが慌てふためき、新たな住処と食料を目指し生き物の営みを目指す。
中層に生息していた魔獣は群れる習性を持つ種族は稀であるが、下位の魔獣を従属させ緊急時の食料として
行動を共にするためにその後を追う。
そして下層の魔獣たちは、半ばまで埋まったダンジョン跡から土砂を掻き分けゆっくりと顔を出す。
いずれの魔獣たちも噴煙が舞い落ちる上空を見上げ、初めて見る太陽に顔を顰めながら大地を踏みしめる。
そしてダンジョンで生まれた者としての本能で理解していた。
新たなダンジョン·コアの誕生で自分たちの帰る場所が無くなったことを、戻れる唯一の方法は……
熾烈な戦いを勝ち抜き、新たなダンジョン·ボスになることだけだと。
そんな魔獣たちが迷走を始めるのと時を同じくして、空から6000もの小石が飛散し着地と同時に
本来の姿を取り戻していた。
背中から草原に叩きつけられた衝撃で、肺の空気が強制的に吐き出される。
転がり、止まり、むせながらもようやく土の匂いを肺に押し込んだ。
立ち上がろうとして、右脚に鈍い痛みが走った。
――やったな。
致命ではない。だが万全でもない。
急いで立ち上がり構える。あれほどの衝撃で地面に叩きつけられて愛刀を手放さなかった自分を褒める。
しかし頭の方は衝撃で短い記憶を失っているようだ……
我が軍は?東軍は?……見渡す周囲は膝丈ほどの草原が広がり、遠くに山々が見え正面に噴煙を上げる山
関ヶ原……ではない?
周囲の草原が揺れる、風ではない……姿は見えぬが囲まれているようだ。
「我は“島左近”!隠れていないで出てくるがいい!」
戦国最強と謳われた男が叫ぶ。
島左近を中心にして“ザッザッ”と草が揺れる……
愛刀を右肩に担ぐように八相に構え“カチャッ”と刃を返す。 “シャリーーンッ”
んっ!?手の平に伝わる違和感、刃先から刃に沿って気配が伝わる。
研がれた……? 刃についた血も脂も溶け落ち、鋼までが極限まで研ぎ澄まされた。
「“砥石”?」
なぜか、その単語が口から漏れる……左近の口角が獰猛に上がる。
“試し切りたい!”
“切り裂きたい!”
“多いほどいい!”
敵が姿を見せるのが待ちきれずに、草を割って駆ける。
姿を見せた子供ほどの背丈に緑色の皮膚を張り付けた醜悪な生き物を躊躇いなく袈裟に切る。
抵抗を感じることなく化け物の身体が両断される。
飛び掛かってきた化け物にさらに一太刀。一歩を踏み出し草に潜むように近づいてきた化け物に刃を突き立てる。
左近は刃を振るい続けた。刃が触れた瞬間に肉も骨も意味を失い等しく切り裂かれる。
気づけば、草原には鎧もつけていない脆弱な生き物の死体だけが残った。
片手で持った愛刀を親指で弾き刃を返すと“シャリーーンッ”という鈴に似た音が響く。
その場を離れ、噴煙の立ち昇る山を目指してみる、すると丘を越えた先で人影を見つける。
東軍の生き残りだった。鎧は外れ、槍も捨てている。
「待て! ここは日ノ本ではない!」
「戦は終わった、敵も味方もない!」
叫びは必死で、好戦の色はなかった。
しかし左近の本能が、敵を排除せよと訴え続ける。――そして、思考を切る。
関ヶ原は、まだ終わっていない……終わらせる権利があるのは、生き残った者だけだ。
一閃。
言葉は地に落ち、血を吸った刃が笑った気がした。
右脚の痛みも忘れた左近の足取りは軽かった。
さらに進んでいった窪地で、数名の悲鳴が聞こえる。
西軍の兵たちが、二足で歩く巨大な猪のような生物の群れに囲まれていた。
手には丸木を持ち、足元には西軍の兵の撲殺された遺体が転がる。
助けに入らない理由はない、義に生きる……?本当に義のためか?
窪地へと飛び降りる着地の瞬間、痛めた脚がわずかに流れる。
その一拍。
丸木が左近の頭部を襲う、
頭を低く下げ躱すと、猪の身体の割にやけに細い脚に刃を突き刺す。
“ブヒッ”という悲鳴が聞こえる。
「島左近!助太刀いたす!」
「おおっ!あなたがあの島左近どのか!?かたじけない」
残った3名が活気を取り戻す。
猪の群れは6頭……後ろに控えた一際大きな個体が頭か?
脇構えのまま駆け出し、体勢を低くして先頭の一頭に向かい払い上げる。
腰から入った刃が臍のあたりまでを切り裂き、返す刀で右肩から袈裟に切り下ろす。
体重を乗せた右脚に痛みが走る。 それを無視して次の一頭の懐へと入った瞬間だった。
巨大な腹が迫り、たたらを踏んで退く左近の右脚の力が抜け、仰向けに倒れる。
「ぐっ!?」
痛めた右脚に丸木が振り下ろされ、肉が潰される鈍い音とともに激痛が走る。
起き上がろうと身体を捻った瞬間、側頭部に強烈な蹴りが炸裂する。
こいつら……思っていた以上に動きが早い……
島左近が最後に見たものは。
仲間を庇おうとして倒れた兵の背中だった。
いいね!やブックマーク&評価などして下さると嬉しいです




