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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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8/14

異なる世界

サランドル·ダンジョンの噴煙に混じり、周囲に散開された小石は地表が近づくにつれ本来の姿を取り戻す。

丘の斜面に叩きつけられ、転がりながら呻きを上げる者。

運が良いのか、湖面へと着水し慌てて具足を脱ぎながら岸を目指し泳ぎだす者。

背の高い木の枝に何度かぶつかり跳ねながら枯れ草の上に着地する者。

そのすべての者達は、なぜここに居るのか?ここが何処なのか?なぜ生きているのか?

何もわからぬままに呆然としていた。

その数……6000人。


その中で唯一人だけ状況を理解していた御左口神の憑依した伊織は、噴煙で視界の悪い地表に着地する。

しかし右手に繋いだムサシの重みで、勢いよく倒れ込んでしまう。


「あのオオトカゲめ……」

ムサシの上に重なるように倒れ、具足の硬い感触に顔を歪め八岐大蛇への悪態を吐く。

そして遠くで未だ噴煙を上げ続けるサランドル·ダンジョンを見る。


「とんでもない所に飛ばしてくれたようですね……」

そしていまだにムサシの手を握っていることに気づき、強張った指を左手を使い引き剥がしていく。

ムサシの顔を見る……まだ幼さの感じられる顔立ち、総髪は束ねられ血や泥で汚れてはいるが

悪臭もなく、不快ではない……


「わたしのというよりも御左口神の気まぐれで、この少年を巻き込んでしまいました。

でもあそこにいたら確実に死んでいたし……」

この異世界に降り立ってから御左口神は鳴りを潜めている。

この異常な事態に御左口神が自分の表層へと出て来ないことに首を捻る。


「それにしても、この子ずいぶんと大きいのね……」

足の位置をムサシと揃えて横に寝そべってみる。

自分の頭がムサシの脇にも届かないことを知り、なぜか顔がほころぶ。


「お前は誰だ?」

伊織の頭の上から声が聞こえてくる。


「伊織といいます。出雲大社の巫女でした。」

寝そべったまま、あごだけを上にして答える。


「なぜ横で寝ている?」

起き上がろうと身体を反転させるムサシ。


「大きかったので……つい」


「そうか……」

軋む身体をようやく起こす。


「いや……なぜだ?」


「それよりあなたの名は?」

ムサシの正面に正座をし目をのぞき込む伊織。


「ムサシ……宮本村のムサシ」


「ムサシ……いい名前ね」


「ここは何処だ?俺は関ヶ原で……死んだ……!?」

両手を広げ見てから、胡座をかいた自分の身体を見下ろして見る……汚れてはいるが、五体は満足。

だが――この空気は何だ? 硝煙の臭いではない。もっと古臭い、獣の檻のような……


「よくわからないけど、ここはあの世ではない……」

立ち上がろうとした伊織の動きが止まり、”かくんっ”と俯いた伊織がゆっくりと顔を上げる。


周囲の温度が下がったように感じる……

「……少年よ……ムサシと言ったな、お前をこの世界に連れてきたのは、このわたしだ。」

声も目つきまでもが変わった伊織がムサシの手を取る。


「えっ?」

驚きのあまり、思わず手を振り払う。


「……驚くのも無理はないが、あまりゆっくりしている時間もない……」


「えっと……あなたのおかげで俺は生きているということなのか?」

片膝をつき姿勢を正すムサシ。


「……あの場でお前は死んでいただろう。結果として助けたことになるかも知れないが……」

辛そうに言葉を切る御左口神。


「……わたしは現世に干渉しすぎたせいで力を失っている。すまぬがこの神憑きの巫女である伊織を

守ってはくれぬだろうか?……」


「ここはいったい何処なんだ?」


「……すまない話している時間がない、お前にも付喪神の加護が憑いている。今は伊織を連れて

少しでも遠くに逃げるのだ。」

絞り出すようにそれだけを告げると、また“かくりっ”と気を失ったように頭が垂れる。


「いったいどうなっているんだ?」

心配になったムサシが伊織の肩を揺すってみる。するとすぐに正気を取り戻し顔を上げる伊織。


「いつも急に来て、急にいなくなるの……驚いたわよね?」


「ああ……それはいいが逃げろって、何処に逃げろというんだ?」

立ち上がり、いまだに噴煙が舞い落ちる周囲を見渡してみる。


「あそこに噴火しているように見える山から、離れろってことみたい」

サランドル·ダンジョンの方角を指差す伊織。


「そうか……どうせ何もわからないままなんだ。行こう……歩けるか?」

手を伸ばし、伊織を立たせる。


「歩きながら、お前の知っていることを教えてくれ」

そばに落ちていた二振りを拾い腰にさす。


「お前じゃなくて、伊織!」

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