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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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10/13

九十九茄子

幼い頃より出雲大社から出た記憶のない伊織は、ムサシと歩く見知らぬ地が新鮮だった。

御左口神より気を抜かないようにと言われていたにも関わらず……

そしてこの異世界に降り立ってから、伊織がまぶたの裏に気を集中させると数字が浮かび上がる。

その数字は徐々に増え続けていく。


『184……』

ムサシには気づかれないように、その数字の重さに目を伏せるーー伊織


「八百万の神々は俺も知っているが、御左口神の言っていた付喪神っていうのはなんなんだ?」

噴煙を上げる山を背に歩き始めてから伊織に問い掛け続けているムサシ。

ときおり振り返り見る山は確実に小さくなり、それにともない落ちてくる粉塵も薄くなっていた。


「それは……長い時を経た物や道具に思いや縁が染みついて下位の神様が宿り神格化したものね、

おもに野良神と言われるけど、稀に中位の神様が宿ることもあるわ」


「そうなのか……伊織はなんでも知っているんだな」


「神憑きの巫女だからね、たくさんいる巫女の中でも、ほんの一握りしかいないの」

ムサシの前に出て、緋袴をつまんで巫女の衣装を見せつけるように回って見せる。


「神憑きの巫女って?」


回った拍子にムサシの背後の異変に気づく。

「ムサシ!なにかが来る、後ろ!!」

背の低い草を掻き分け、3本の筋を引きながら背の黒い生き物が2人を目指し駆けてくる。


「速いな!?野犬か?」

伊織の前に立ち、腰の一振りを抜き放つと正眼に構える、先頭を走っていた草が弾ける。

額についた角をムサシへと向け飛び掛かってくる。

咄嗟に刃先を下ろし、喉元へと向かい斬り上げる。

“ズザッーザザーッ゙ザー”まるで若竹の束を切ったかのように体毛で刃が滑り、角の生えた野犬は頭を跳ね上げ

られ後方に一回転しながら着地する。


「野犬じゃない!?刃も通らない……?」

ムサシの知る狼より大きく、なんと言っても角の生えた犬など聞いたこともない……


「ムサシ、こいつらは魔獣”バルホーン”……強いわ気をつけて!」

そう言う伊織の右方の草むらからバルホーンが飛び出し伊織に襲いかかる。

左肩で伊織を突き飛ばす。


「えっ!?きゃっ~!」

お尻から地面に落ち、その勢いのまま後ろに一回転して止まる。

ムサシは打刀を横にして支えバルホーンの右前脚の一撃を止めるが、刃の上からのしかかる様に牙を剥き

“ガチッガチッ”とムサシの眼の前で鋭い牙が噛み合わされる。

後方からもう一匹が近づいてくるのを察し、両腕の力を緩め打刀を捨てるとバルホーンの腹の下をかい潜りながら

大谷吉継より授かった打刀を抜き、横腹に突き立て全体重を乗せながら少しでも深くと捻り抉る。


「刺突は通るのだな……命を取るまでは届かないか?」

獰猛な唸り声を上げ、ムサシへと身体を捻り牙を剥く……そのバルホーンの上を迫っていたもう一匹が飛び越え

ムサシの喉元へと牙を剥いたまま迫る、右腕で打刀を抜きながら身体を反らし躱すが、左前脚の爪で左肩の肉を

深々と抉られる。


獲物が予想以上の抵抗を見せたことに慎重になったのか、3頭のバルホーンが伊織を背に立つムサシへと

正面と左右の三方から、姿勢を低くしてじりじりと距離を詰めてくる。


「そういえば伊織……御左口神の言っていた俺には付喪神の加護が憑いているって何のことだ?」

まさに藁にもすがる思いで聞いてみる。


「ムサシには器の付喪神が憑いているわ……名は九十九茄子つくもなすという白髪のお婆さんね」


「九十九茄子?器なのか?茄子なのか?何の役に立つんだ!?」


「怒らないでよ!ムサシが聞くから……わたしも知っていたけど言いたくなかったのに、わたしたち死ぬのね?」

腰が砕けたのか、ムサシの腰ひもを持ちながらその場に座り込むーー伊織


「心配するな……お前だけでもなんとか守ってみせる。それで俺は器なのか?何かを入れる?」

バルホーンの間合いとなったのか3匹が一斉に牙を剥き低く唸る。

その唸り声を聞いていると、昨年の今頃のこと村の裏手の城山に狼が住み着き、道場のみんなで退治に行った

ことを思い出す。

彼らは速く強くそして賢かった。父·新免二無斉だけが数頭を仕留め、追い払うことはできたが……


「みんな……俺に力を貸してくれ……」

そう独り言ちり、わずかに腰を落とすと打刀を右手に、左肩の痛みを堪え腰の鞘を抜き構える。

幼き頃より何万回も構えてきた新免流の極意“二天戴断”。


「器……何かを入れる……?」

伊織のムサシの腰ひもを握る手に力が籠もる。

「今のわたしが入れることができる物……」


正面のバルホーンが短く吠える、それを合図にして左右のバルホーンがムサシへと飛び掛かる。

それを確認した正面のバルホーンが地を蹴り、草むらへと潜り込んだ。

ムサシの右腕の打刀が弧を描き、左手の籠手に吸い付くように添えられた鞘が壁となる。


「「器よ……“器よ”……

    満たされるがいい……“満たされるがいい”……」」



“シャリーーンッ”

伊織からムサシへとなにかが渡った。 足元の草むらが一陣の風に揺れる。


異変に気づいたムサシにもバルホーンにも引き返すという選択肢は存在しない……

ムサシの左腕にバルホーンの重さが伸し掛かる、鞘を噛み砕き籠手まで貫通した牙が皮膚を破る。

打撃を目的とした打刀の振り下ろしはバルホーンの頭頂部をなんの抵抗を感じることもなく両断した。

左手に噛み付いたままのバルホーンを正面に投げ捨てると、打刀を両手で持ち直し草むらから飛び出してきた

バルホーン共々上段からの振り下ろしで纏めて両断する。


ほんの瞬きほどのできごと……周囲の草むらには血が飛び散り、獣の匂いが充満する。

何が起こったのか……?伊織と並んで尻もちをつくーームサシ。




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