別離、そして再会。
アキラ「よっ、ちょっと待たせちゃったか?」
アイナ「15分遅刻。」
アキラ「すまん。怒ってる?」
アイナ「別に。」
アキラ(やっぱ怒ってんな)
アキラ「いやぁ、なんか最近、コーチがやたら気合い入っててさー」
アイナ「あー、軍曹」
アキラ「そうそう、その軍曹がよ、日曜だっていうのに朝から晩までみっちり練習させんのよ。」
アイナ「サッカー部の試合近いし、県選抜に選ばれた、大変だね」
アキラ「おっ、わかってくれるか、って選ばれたの知ってたんだ、アイナ」
アイナ「うん、それより早く受付しないたと歌う時間短くなる。」
アキラ「ありゃ、オレの癒しの時間がもったいない、さっさと歌おうぜ。」
受付を済ませる二人
アキラ「今日はオレの奢り」
アイナ「当然」
アキラ「選曲は任す。」
アイナ「OK。」
アイナはおもむろに歌い出す。
初っ端は激しいロックチェーン
アキラ(やっぱ怒ってんな)
続いてミディアムテンポのバラード
アキラ(おっ、オレの好きなワイルドスプリング)
美声が響き渡る。
アキラ「あー、なんちゅう贅沢な時間」
アイナ「アキラも歌えば」
アキラ「んー、オレはいいや」
アイナの美声は続く
そして、10分前を知らせる無常なコール
アイナが最後の曲に選んだのは、頑張る人を応援する珠玉の大ヒットソング【生きろ】だ。もちろんワイルドスプリング。
アキラ(なんだかんだで応援してくれるんだな)
曲が終わると一瞬の静寂、そして、盛大な拍手。ん?
アイナ「誰か盗み聞きしてる」
アキラ「そいつはラッキーな奴だな」
ドアを開けると見知らぬ20代中盤くらいのお姉さん。
見知らぬ女性「すごいわね、あな…」
アイナは女性に見向きもせず、そそくさと受付へ。
アキラ「盗み聞きは良くないですよ」
女性「ご、ごめんなさい」
アキラはアイナを追って受付へ
会計を済ませて店から出ようとする二人に再び女性「ちょっとお願いなんだけど」
アキラ「なんすか、ほっといてください、行こ」
自動ドアが開くと同時に逃げ出すように走り出すアイナ
追うアキラ
10分ほど走ったら、辺りは人気もまばらな駅前広場
アイナ「はぁ、はぁ」
アキラ「ふぅ、ここまで来れば大丈夫か」
アイナ「アキラ、全然、息切れてない」
アキラ「伊達に10年間、サッカー続けておりません。」
アイナ「体力バカ」
アキラ「そう言うアイナは歌バカ」
アイナ「ぷっ、どっちもバカだね」
アキラ「ギャハハ、だな」
アイナ「ぷっ、馬鹿な笑い方」
アキラ「なんだよー、いいじゃんか、笑い方なんてよー」
アイナ「ふふ、あー、おかしい。あと、練習きついのにダッシュで来てくれたの嬉しかった。」
アキラ「ぶっ、何改まって言ってんだか」
アイナ「ふふふ」
アキラ「ぶっ、ははは」
人目も気にしない二人の笑い声が静まり返った夜の駅前広場に響き渡る。
翌日、学校にて
クラスの連中が動画を見て盛り上がっている
「見てみろよ、今日の街角スター発見」
「それにしてもこの子、激ウマ」
聞き覚えがある歌声が聞こえる。
アキラ「ちょっとお前らその動画なんだよ」
「おう、アキラ、お前も見るかー」
その動画には顔は隠されているとはいえ、アイナの姿が…
ふとアキラはアイナを見る。
そこには青ざめたアイナが…
アキラ「大丈夫か、アイナ」
アイナ「私帰る」
逃げるように教室から出るアイナ
黙って追いかけるアキラ
アイナとは保育園から一緒だが、昔から注目を浴びることを極端に嫌がる。
アイナとオレは境遇が近く、お互い父親から虐待を受けていて見かねた母親は離婚。
お互い母親に女手一つで育てられてきた。
特にアイナは心的トラウマが酷く、人と関わることに恐怖心を持っている。
そんなアイナだからオレは妙なシンパシーを感じていた。
アキラ「なあ、アイナ、カラオケでも行くか、今から」
オレたちはいつも何かあったらカラオケだ。楽しいときも悲しいときも。
アイナ「うん、行く」
いつものカラオケ屋にて
アキラ「えっ、満室?まだ昼前なのに」
店員「なんかうちのカラオケ屋の動画がバズってるらしくて」
アキラ「まさか、その動画って」
店員「確か、街角スター発見とか言ってたかな」
客の一人「あの子、なんか動画の子に似てね?」
アキラはアイナの手を取り、急ぎ店を出る。
アキラ「家まで送るよ」
アイナ「うん」
アイナの家に着くと訪問者がお母さんと話している。
アイナandアキラ「えっ、ワイルドスプリングのコージ」
コージ「おっ、俺のこと知ってくれてるのは光栄だね。」
アキラ「なんでコージがここに?」
コージ「率直に言うけどスカウトです。」
アイナはみるみる青ざめていく。
お母さん「ごめんなさい、この子人前とかそういうのは無理なんです」
コージ「いや、聞いてください、お母さん。アイナさんははっきり言って歌うために生まれてきたと言っても過言ではありません。私に任せてはくれませんか?」
お母さん「そんな、急に」
コージ「お願いします」
お母さん「今日のところは帰ってもらえますか」
コージ「わかりました。また来ます。良い返事お待ちしております。」
アキラ「アイナ、すげーよ、プロにも認められてる」
青ざめながらアイナ「…プロなんて無理だよ」
あの動画のお陰であの子誰状態のアイナの周囲はアイナを見つけ出そうとする連中で溢れていた。
それ以来、アイナは学校にこなくなり、連絡も取れなくなった。
それから3ヶ月後、世界中から注目される歌唱力を持つ天使のマスクの歌姫【ミラージュ】がデビューした。
さらに数年後
オレは空調設備の会社に就職していた。
車で出先に行く途中の車内にてミラージュの曲が流れる。
同僚「なぁ、新藤くん、この曲知ってる?」
アキラ「いやー、そんな興味ないんで。」
同僚「えーそうなん。この曲、今かなりきてるらしいよ」
本当はわかってる。オレがこの声をわからない訳がない。
同僚「この声いいねー」
アキラ「オレもそう思います。あ、着きました。このビルですよね」
「ちわー、神田空調でーす。」
女性の声「ああ、エアコンの。じゃあ、よろしくお願いします。」
えっ、この声?
扉が開き、そこにはアイナが…
アキラ「アイナなのか?」
アイナ「久しぶりだね。」




