青い空の下で
空は――
青く晴れ渡っている。
わたくしはホッと息を吐く。
あの夢とは、やはり違う。
バルコニーから見下ろす城下の広場にはたくさんの観衆が押し寄せている。
彼らの割れんばかりの祝福の歓声に迎えられ、わたくしはヴェールを上げて顔を見せる。
歓声は一層高まる。
ぽんっぽんっと祝砲が打ち上げられ、飾られた色とりどりのガーランドがはためく。鮮やかな色が晴れ渡る青空によく映えた。
そして地上では手旗を振る人々。
夢の情景によく似て、けれども違う。
夢の中では今にも雨が降りそうだった空も今は青く、手を繋いで隣に立ってくれたハルロ様も居て。
ハルロ様と繋いだ手、触れ合う二の腕。
確かにいまここに居てくれる。
嬉しい。
ちらりと横顔を盗み見る。
通った鼻筋も、長いまつ毛も、優しげな少し垂れがちの目尻も、これからはずっとこの距離で見て良いのだわ。
これからこの方と、わたくしは夫婦として生きていく。
ふたりで外遊に出かけたり、アカデミーの課題を助け合ったりもするのかしら。
そんな未来を思い描くと、それだけで胸がいっぱいに満たされていくよう。
旗を振る観衆に向け、わたくしは幸せいっぱいににこりと微笑む。
空いた方の手を上げて緩やかに振って見せる。
隣でハルロ様も同じように手を振っていて……。
それを見た人々からの歓声は更に高まり、一瞬空気が揺れ地面が割れたかのように思えた。
眺め下ろす観衆の中に、もしやあの子が居ないかと少しだけ目を細める。
もし見つけられたなら、特別に手を振ってあげたくて。
わたくしを励まして勇気づけてくれたリーシャ……。
あの子もラトリーナの民だから、ここに来ていてもおかしくはないはずで……。
「どうしたの、誰か探しているみたいにキョロキョロして」
ハルロ様がこそっと耳打ちで尋ねてくる。
「い、いいえ。ただ、ここに集まった人々の顔を、見ていただけですわ」
あの子と話したことは秘密にしておきたくて、わたくしは慌てて言った。
ハルロ様は首を傾げて、少し訝しむようにわたくしを見たけれど。
「皆、君を歓迎してくれているんだよルティカ。……これからの、未来とね」
ハルロ様が観衆の方に視線を戻して言う。
わたくしはこっそりと安堵の息を吐いて。
「ぁ――」
それは偶然?
ふいに。
バサバサと飛び交った鳥に意識を取られ動いた視線の先、何かがキラリと光ったような気がしてそちらを向いた。
そこに。
あの子によく似た子を見た気がして。
商店の屋根裏部屋の窓辺、そこからバルコニーを見据える人影――。
「リーシャ……?」
本当に来てくれたの?
窓辺で、短く切り揃えられた栗色の髪が風に靡いたように見えて。
ひら、と手を振られたような気がして、そちらに体ごと向き直った。
応えようと手を振り返し…………
――――パァン
て。
打ち上がる祝砲の音に紛れた、いつか聞いたことのある気がする破裂音。
「――――ぇ」
バサバサとまた鳥たちが飛び交う。
あの窓辺に――
居たのは――――
――――――――――――――あぁ
――――――――――――――――熱い
――――――――――――――――――痛い
嘘。
どうして。
あの夢と……
同じ…………?
「は――ロ……ル――――」
お願い……。
どうか……。
手を…………。
空を掴むようにもがいた手。
真っ暗な闇の底に沈んでいくよう。
いや、いや。
そんなのはいや。
寂しくて……冷たくて……
――――――――――――――…………。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
幸せな情景の中で、
「何かおかしい」と感じた方は、どの辺りからだったでしょうか。
リーシャの存在、祝砲の音、空の色――
もし印象に残ったものがあれば、一言だけでも教えていただけたら嬉しいです。




