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街路灯の下で



 街灯に照らされた帰路、五分程度の道のりが今日はいつもより楽しく感じられる。

 小さな頃以来のスキップだってできそうで。


 誰も居ない……?


 ちょっとやってみようかしら……?


「今頃お帰りですか、お嬢様」

「ひっゃぁ!?!?」


 街灯の光の届かない暗がりから、突如ぬっと出てきたその大きな影にわたくしは悲鳴を上げて飛び上がった。


 あ、着地がうまくいかない……!


 このままでは転んでしまいそう……!


「おっ……とぉ……!?」


 影からぬっと伸びた腕が、わたくしの体をすんでのところで捉えて抱き止める。


「怪我をしますよ、そのように迂闊なことをなさっては……」

「っ……ふ、ふぇ……フェルダー……! なんなのあなたは!」


 怒りと驚きで心臓がまたもや激しくドキドキした。

 どうしていつもいつもわたくしが良い気分の時に現れては不愉快にさせるのかしらこの男は!

 街灯に照らし出されてうっすら浮かび上がるフェルダーの顔は、さすがに少しバツが悪そうに見える。


「ジーナさんに、お嬢様のお帰りが遅いと相談されまして……お迎えにあがろうかと……ね、えぇ……まさか、驚かすつもりは……」

「ばぁやが……? ……それは……心配をかけてしまったわね。ちょっと……いろいろあったのよ、わたくしだっていろいろ忙しいんですから」


 遅刻の罰に追加課題を受けたなんて知られたら、また嫌味だの言われそうだわ。絶対に知られたくない。


「……然様でござりましょうな。……いえ、何事もなければ構いませんとも。また怖い夢を見て飛び起きたなんて話も聞きましたが……」

「それもばぁやが!? もう。……そうよ、あなたのハーブティーなんてちっとも効かないんですから」

「それは……申し開きのしようもなく……。次はもっと違う調合でお持ちいたしますよ」


 わたくしはフェルダーの手をぱしっと払って、しっかり自分の足で立つ。

 少しは思うところがあるのか、いつもより歯切れの悪いフェルダーの口振りに気分は少しよくなったみたい。


「結構よ。わたくしわかったの……これって、婚姻前のちょっとした憂鬱……マリッジブルーというものなのだわ。でも、わたくしがこの結婚を憂う理由なんてひとつもないのよ。そうでしょ?」

「……そう、まぁ、そうですかな」

「なによ! 歯切れの悪いことね。そうなのよ。ハルロ様はお優しく誠実で、わたくしたちは神に祝福された仲で、その上この結婚は両国の更なる平和に繋がるわ!」


 堂々と胸を張り宣言するわたくしに、フェルダーは何も言わなかった。

 いっそ不気味なほどに、今夜のフェルダーは口数が少ない。

 いつもなら立板に水のように皮肉や嫌味が流れ出てくるのに。


「どうなさって? らしくないわ」

「ククッ……」


 フェルダーは不意に肩を揺らして笑った。


「なんなの……!?」

「いえ……いえ……然様に御座りますな。お嬢様のご結婚は……お嬢様のみならず、両国の民にもっても喜ばしく希望で……何も……ご心配には及びませんとも」


 フェルダーは頷いてみせて、あと少しの距離にあるわたくしの住まいの方を見た。


「ジーナさんが首を長くしてお待ちですので……帰りましょう、お嬢様」


 そうだった。

 ばぁやにはきっとさぞかし心配をかけているわ!


「そのつもりだったのに、あなたが邪魔したんじゃないの……。もうっ!」


 わたくしは急いで邸に向かっていく。

 走るのは淑女らしからぬことだけれど、今日まけは解禁よ。


 フェルダーはわたくしが邸に入るまでずっとその場に居たんでしょうけれど。

 知らないわ、あんな人のことなんて!


「ただいまばぁや」

「まぁまぁお嬢様! おかえりなさいませ、心配致しましたよ……!」


 わたくし、今夜こそ久しぶりに良い夢を見ながら寝られそうな気がしたの。

 

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