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勉強会



「これはこれは、お嬢様。本日は珍しくご機嫌麗しくあられるご様子、よろしいことですな」


 勉強会の始まる時間の五分も前にやってきたフェルダーが、開口一番に言う。

 わたくしには慇懃無礼にしか聞こえない。


「珍しいとはどういう意味かしら。わたくしはいつでもご機嫌麗らかですけれど。……貴方の顔を見ることさえなかったら」


 フェルダーはわたくしの家庭教師で、もっと言えば主治医でもあるのだけれど。

 何を考えているのかわかりにくい眠たげな目や嫌味ったらしい物言いがいや。平民のくせに偉そうで、先生なんて呼ばれてふんぞり返っているところもいや。

 一番上のお兄様とそんなに歳も変わらなさそうなのに黒髪にちらほら白髪がまざっているのもいや。

 ひとには早寝早起きや健康を説くのに、本人は真っ黒な隈に覆われてちっとも健康そうでないところもいや。


「……ククッ」


 なにより、わたくしの言ったことに顔色ひとつ変えないで陰険そうに笑うだけなのが、いや!


「お嬢様の夢見がお悪いのは、私のせいではありませんよ。……またよく眠れるよう特別調合のハーブティーをジーナさんに渡しておきましたので、寝る前にお飲み下さい」

「ばぁやはホットミルクを入れてくれるわ。あのハーブティーは苦いから嫌いよ」

「……ククッ。……お小さいお子様用に甘いシロップ薬にするべきでしたな」

「お子様ではなくってよ、いつもいつも失礼なひとね! もっと敬意を払いなさい、わたくしを誰だと思っていて!?」


 不遜な顔をきつく睨み付けて、わたくしは毅然とした態度を貫く。

 たしかに家庭教師で主治医だけれど、身分低い卑賤の立場だということは弁えるべきなのよ。


 けれどフェルダーは、あろうことかニヤニヤと口を歪ませ、一層笑いを堪えるみたいな顔をわたくしから逸らして。


「ククッ……はい、えぇ、ラトラムの高貴なるお方、麗わしの公爵令嬢様……畏くも国王陛下の孫姫であらせられ……やがてはラトリーナ王子妃ともなられる御方にて……さては、とうとうこの無礼者の首をお刎ねに?」

「……っ、よくもそうスラスラと……滑らかな口だこと」


 わたくしの命を救ってくれた恩人でお父様の信頼も篤いこの男にそんなことできっこないってわかっていて言っているのだわ。本当に腹立たしいこと。

 そもそもそんな野蛮なこと時代錯誤も甚だしいことだし、結局おちょくられただけみたいで不愉快極まってしまう。


 彼はいつもそう!


 せっかくのハルロ様との素敵な時間の思い出も、この男の無礼によってすっかり上書きされた気がしてムカムカしてしまう。


「もういいわ。さっさと今日の分の勉強を終わらせて……!」

「学問に前向きになってくださって嬉しいことですな、お嬢様。では、本日は王国史の142ページから――」


 不愉快も怒りも全て勉強にぶつけて、今日こそ良い夢を見ながら寝ることを心に誓ったわ!

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