くるい
「お嬢様……今日はまだお休みして、フェルダー先生に診ていただきましょう」
朝の身支度をしながらも、ばぁやはもう何度目かわからない言葉を繰り返している。
昨夜、ホットミルクを頼んでおきながら気を失ったわたくしにも落ち度はあるのだけれど。
「大丈夫よばぁや。あんまりアカデミーを休むと、課題がたくさん出て大変なのだから」
話によればわたくしは三日三晩高熱にうかされて眠っていたということだもの。
その間にもアカデミーでは様々な授業が進んでしまっているわ。
ミレイさんがきっとわたくしのためにノートを纏めてくれているかもしれないけれど……課題が減るわけでなし。
「ですが……昨夜の様子はとても……。ばぁやは心配ですよ……お嬢様……」
しゅんとするばぁやの様子に、わたくしの胸がチクンと痛む。
心配させているのは悪いと思うわ。
でも。
不思議な……怖い……というよりは、痛くて哀しい夢を見た。
わたくしは、何度も……何度も……その熱と痛みを感じる。
ただの夢にしては、いつまでも残る感覚。
なぜかわからない。
ただ、フェルダーに言ってはいけないと、そう直感している。
ばぁやはフェルダーを信じているから、こんなことを言えばますます心配して、それにきっと悲しむわね。
「とにかく……わたくし、今日はアカデミーへ行くわ。無理はしないから、心配しないで」
髪を整えてくれているばぁやに、わたくしは鏡越しに微笑んだ。
◇◇◇
「ルティカ様……! おはようございます、もうお身体の方は?」
アカデミーに着くと、ミレイさんがわたくしに気付いて駆け寄ってきた。
その瞳には心配の色が浮かんでいる。
「ありがとう……もう、大丈夫よ」
「そう……びっくりしましたわ。ルティカ様がお倒れになったと聞いた時は……」
ミレイがホッと息を吐く。
「ハルロ様も心配していらっしゃいましたよ……」
「え……」
なぜ、ハルロ様が……?
「神託による婚姻は、ルティカ様にもきっとすごい心労があるだろうからって。ハルロ様ってほんとにお優しくて素敵なお方。おふたりが神託で結ばれるなんて……御伽話みたいで素敵ですわ」
「………………」
わたくしは。
言葉を失っていた。
ミレイさんは何を言っているの。
わたくしがハルロ様と婚姻……?
神託によって……?
「わ、わたくしは……ハルロ様、と……」
「ルティカ様……? どうされたんですか。もう、正式な婚約発表から一週間も経つんですから、そろそろ慣れないと」
ミレイさんはクスクスと笑っている。
わたくしは未だに混乱している。
何か……。
何かが、狂った。
そう、理由もなにもわからないのに。
わたくしは、確かにそう感じていた。




