ゆめと、げんじつ
リン――ゴォン――
リン――ゴォン――
鐘が――鳴っている――
色とりどりの鮮やかな旗が翻る――
人々の歓声――喝采――
でも空は生憎の雨模様。
隣には、綺麗な横顔。
紫水晶のような瞳。
「みんな、祝福してくれている……」
そう言って、わたくしの手を取る……誰……
いいえ。
……知っているわ。
ハルロ様。
「さぁ、バルコニーへ。国中から王子妃の君を見ようと人々が集まっているんだ」
彼に手を引かれ導かれる先で。
割れんばかりの祝福の歓声に迎えられて。
ぽんっぽんっと祝砲が打ち上がって、色とりどりのガーランドが煽られ揺れて。
地上では手旗を振る人々。
わたくしは……
ヴェール越しに微笑みながら、民衆にその手を振って……。
ワッと高まる歓声と――
パンッと弾けるような祝砲の音――
きゃあっと聞こえた甲高い悲鳴――?
――あっ
――――熱い
――――――痛いっ!
不意に。
◇◇◇
「いやぁぁぁぁぁぁた…………!!」
悲鳴に目を覚ます。
ガタガタと震えている。
カチカチと歯の根が噛み合わない。
「はっ……ぁ……はぁ……ぁ、……あ、い、……いま、の……は……」
悲鳴は、わたくしの口から出ていたもの。
身を起こし、震える体を抱きしめる。
「ゆめ…………?」
パタパタと廊下を渡る足音が聞こえて、コンコンと控えめなノック。
「お嬢様……! お嬢様、大丈夫でございますか……」
ばぁやだ。
わたくしの悲鳴がばぁやの部屋まで聞こえてしまったのね。
「大丈夫よ……なんだか……嫌な夢を、見たみたい……」
「お嬢様……フェルダー先生が仰った通り! 熱のせいでしばらく変な夢を見るだろうって。また薬湯をお入れしましょうか」
フェルダー……。
ばぁやの言葉に、わたくしはうまく言えない嫌な予感を覚える。
まるで先回りしているみたいに、フェルダーは準備がよくて……。
「いいえ、もう大丈夫よ。薬湯は、いらないわ」
ばぁやはそうでございますか、と言いながらもまだ心配そうな気配をさせて扉の外に控えているよう。
「ホットミルクがいいわ、作ってちょうだい」
「えぇ、はい! お嬢様、お待ちくださいませね」
ばぁやはそう言ってキッチンの方へ行くのだろう、離れていく足音が聞こえる。
わたくしはベッドから降りて、鏡の前に立った。
じっと鏡を見つめる。
特に変わったことはない。
髪はつやつやと輝いて、顔にもどこにも傷ひとつない。
当たり前だわ。
どうしてそんなことを思うのかしら。
わたくしは頬に手を当て、肌を撫でていく。
いつもと同じ、きめ細かい肌。
「どうして……なんだか、おかしな感じがするわ……何か、とても……大変なことを、わたくしは……」
傷ひとつない肌、綺麗な髪、シルクのネグリジェ。
どれもひとつも不思議なことなんてないはずなのに……。
「……っ、う、っぁあ……! 痛い……頭が……胸が……苦し……っ」
急にズキズキと頭が痛んで、胸がカァッと熱くなる。
息苦しさと、異様な寒さを感じて立っていられなくて……。
「お嬢様……ホットミルクが……ぁあ、お嬢様……!」
ばぁやがホットミルクを運んで来る。
わたくしは、ばぁやの声に少しだけホッとして……目の前が真っ暗になった。




