再会……?
「おうお待たせ、あったぜかあちゃんの若ぇころのが……」
店主の男が戻って来る。
新聞を見つめて震えるわたくしを見て、深い溜息を吐いている。
「おぅ、大変なことになっちまったよなぁ……和平記念だ神託婚だなんつってさんざん税金搾り取ってったかと思やこれだよ。やってらんねえや」
「そ、そんな言い方……気にするのがそこなの?! 税金だなんて」
神聖な式典とわたくしの死――死んでいませんけれど!?――に対する感想としてはあまりにも不適切ではなくて?
店主はカウンターに古びたエプロンドレスを置いて、代わりにわたくしが置いていた指輪を取り上げ矯めつ眇めつしながら。
「何言ってんだい、税金以上に気にすることなんざあるかよ……あぁ、嫌だねぇ戦争……。お嬢ちゃんは戦後生まれか……平和は儚ぇもんだな」
と心底げんなりしたように息を吐く。
「………………」
わたくしは新聞を見ながら、口を引き結んだ。
何を思えばいいのか、言うべきなのか、ちっとも考えつかなくて。
「着替え、したいのだけれど」
「おう、そっちの物置部屋使いな」
店主は店の奥の戸を差した。
◇◇◇
ドロドロボロボロのドレスから、古くて粗末だけれど清潔なエプロンドレスに着替え終えると、なんだか少しスッキリしてホッとする。
「ほんとはお風呂に入りたいわ……」
はぁ、と思わず溜息を溢す。
狭苦しい物置を出て、店主へ。
「わたくしの着ていたドレスは、処分しておいてちょうだい」
「あぁ……? 指輪といいその物言いといい、どっかのお偉いさんの子か?」
店主の目が、じろりとわたくしを見る。
その視線が、わたくしの足元から頭へ、検分でもするみたいにじっとりして……。
「な、なによ……」
つい足が引ける。
「…………戦争が始まったら、何かと物入りになるからなぁ……」
店主がカウンターから出て来る。
指輪を手の中で弄びながら、ゆっくり向かって来る。
ぞわっとした嫌な感覚が、わたくしの背中を駆け抜けていく。
「そ、そう。大変ね。……それじゃあ、ご馳走様。ご機嫌よう……」
ドレスをつまんで別れの挨拶を残して、わたくしは店の外へ駆け出す。
「――っあ」
「そうはいかねえよお嬢ちゃん……! どこのお貴族さんだ、それとも商家か。家出かなんか知らねえが突き出しゃいくらか入るだろ」
店主の手がわたくしの手首を掴む。
強い力。太い指。とうてい振り払えそうにない。
「ぁ、……っ、は、離し…………」
「お嬢ちゃん、何も売り飛ばそうってわけじゃねえんだおとなしく」
「い、いや、いやよ離して。離しなさい無礼者……っ……誰か……誰かぁ――!」
なんとか扉を開けて外に助けを求めようとして、店主の手がわたくしの口を塞ぐ。
ゴツゴツして毛むくじゃらで、スパイスの匂いがする。
「暴れんじゃねえこの――」
ゴッ――――――
「ぁガッ」
わたくしを押さえ込んでいた店主の力が不意に抜けて床に転がって。
「っ、ぁ、……え、…………え?」
薄く開いた扉の隙間に、体を捩じ込むように入り込んできた男が、
ゴト。
と、床に杖をついた。
「フェ――」
「お怪我はありませんかな――お嬢様――」




