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淑女病

 聖都カールナベルの中心、大神殿で新年祝賀の式典。


「おい見ろよルティカ! あちらにおわすのはファースのお姫様だぞ。小麦色の肌が神秘的でたまらんよなぁ」


 クロスお兄様が相変わらずの軽薄さであちらこちらの姫君や令嬢を品定めする。頭の痛くなるような時間。


「やめてくださらない? わたくしまで品性下劣な女と思われてしまいますわ」

「なにぃ~? ルティカ、おまえなぁ。……そんなぷんすかするなよ、相変わらずだな。ほら、あそこにおわすは愛しのハルロ殿下じゃないか?」

「――っ!」


 ハルロ殿下。


 わたくしの心臓がドクンッと跳ねる。

 鼓動は早鐘のように激しく打って、呼吸のしかたも思い出せなくなって……。

「っ、あ――――」


 全身が――!

 熱い――! 痛い――! なにもかもバラバラに引き千切れるみたいに……たまらなく……痛……


 ふいに………………


 真っ暗になる。


◇◇◇


「あら……?」


 目を開けたら、見知らぬ天井……。


「ルティカ……!」


 酷く焦ったような顔をしてわたくしを覗き込むお兄様。

 

「……ぁ、…………おに……さま……?」

「はぁ~おまえな、びっくりさせるなよ。いきなりぶっ倒れたんだぞ。おかげで神託を聞きそびれたじゃないか」


 お兄様はそう言うと、ベッドの脇の椅子から立ち上がる。

 まぁ、わたくしベッドの上だわ!?

 まさかお兄様、ずっと着いていてくれたの?


「医務室かしら……わたくしのことなんて、置いて出席なさればよかったじゃない……」

「……そういうわけにいかないだろ、ばぁか」


 医者を呼んでくるから待ってろとお兄様は医務室を出て行く。

 しんと静まり返った部屋の中。

 ばぁやも居ない。

 寂しい……。

 もしかしたらわたくしが思っていたより、クロスお兄様はお優しいところがあるのかもしれない。

 しばらくしてお兄様がお医者様を連れて戻って来る。

 フェルダーみたいな不気味で怪しくて無礼な男ではなくて、礼儀正しく身なりも整ったベテランのお医者様だわ。


「……ふむ。脈は異常ありません。おそらく極度の緊張による失神でしょう。珍しいことではありません、毎年おられますよ、こういう場ですからね」

「はぁ~出たよ失神(淑女病)


 お兄様が呆れたようにわざとらしく溜息を吐く。さっきはさんざん淑女を前にはしゃいでいたくせに……!


「まぁまぁ。……少し貧血もあるかもしれません。念のため血を作る薬をお出し致しましょうか。……普段なにか薬は飲まれていますか?」

「えっ……ぁ、はい。えぇ。主治医が調合した薬湯を……突然胸が苦しくなることがありますの、それを和らげる……」


 お医者様はふむと言いながら何かを考えるように立派な髭を撫でて。


「なるほど。ではあまり滅多なものをお出しするのもよくない……主治医殿に相談を。いま便りを書きますので、お渡しください」

「ま、まぁ……そんな……」

「先生、そんな大層な話じゃありませんよ、どうせ初めての式典に興奮して眠れなかったとかなんだから」

「お兄様……!」


 ほんとに失礼だわ!


 お医者様は困ったような顔で笑って、すぐにお手紙を書いて渡してくれた。


 医務室を出て広間に戻ると、式典の終わった後の立食会が行われていて。


 ――ざわ!


 どよめきと共に、一斉に視線がわたくしたちに向けられて。


「!?」

「うぉ、なんだなんだ……」


 品の良い足音。 

 わたくしの前に……

 立つ……


「ご機嫌ようレディ・ルティカ。こうしてお話しするのはいつ以来だろう。倒れられたと聞いて心配したよ、もう大丈夫なのかい」

「は、ハルロ様………………」


 また。

 ハルロ様を見ると、ドキドキと鼓動が早まる。

 体が痛む。

 どうして。


「そのうちきっと改めて正式に取り決めがあると思うけど……僕たちに結婚をせよと神託が下されたよ」

「――!!」


 喉がきゅっと締め付けられるような圧迫感。

 体が震える。

 

「マジかよ! おい、やったなルティカ! 素晴らしい名誉だぞ。やったじゃないか、憧れの殿下と結婚だってよ!」


 お兄様がわたくしの肩をバシバシ叩く。

 ハルロ様は。


「……ふふ。そうなのかい? 光栄だよ。レディ・ルティカ、神の思し召しだ……良い未来を共に築こう」


 素敵な微笑み。

 わたくしを見つめる紫の瞳は優しくて。


「……は、…………はい……」


 なのに。

 どうしてこんなに哀しいの…………。

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