雲ひとつない晴れた日に
土曜日、わたくしはルンルン気分で邸を出る。
空は雲ひとつない良い天気。
一層春めいた暖かな陽気。
まるで世界中がわたくしを祝福してくれているみたいではなくて……!?
それもそのはず。
今日はハルロ様とのお茶会なのですもの!
◇◇◇
「申し訳ない、レディ・ルティカ。今日の予定は延期させてくれないか。……すぐに使いの者をやったのだが、どうやら行き違ったらしい」
「え、どういうことですの!?」
ハルロ様のお邸に赴いたわたくしは、慌てて出かけて行こうとするハルロ様その人と危うく正面衝突しかけた。
ハルロ様は驚いたように目を見開いて、それからハッとしたようにわたくしに向き直っての延期の申し入れ。
「申し訳ない、本当に……」
なぜなのかは何も言われないまま、ハルロ様はただただそう繰り返すばかり。
その間も、落ち着かなげな……焦っているような、それとも怯えているような……? そんなご様子で、爪先がコツコツと石畳を叩いている。
「……わかりましたわ。急用ができてしまったのなら仕方ありませんもの。またの機会にはきっと……ですわよね?」
駄々をこねても困らせるだけ。そんな聞き分けのない愚かな女だなんて思われたくなくて、わたくしはハルロ様が気を病まれぬよう微笑んだ。
ハルロ様はホッとしたようにわたくしを見つめて。
「ありがとう、レディ・ルティカ。この埋め合わせは必ず……」
ハルロ様はそう言って、待たせていたらしい馬車に乗り込んで走り去ってしまわれた。
わたくしはただそれを見送る。
きっと次の機会を信じて。
けれど、この後ハルロ様とのそうした機会は一度も持つことはできなかった。
なぜなら……。
◇◇◇
この日の夕刻。
リーシャが変わり果てた姿で運河に浮かんでいたのが発見されて……。
平民特待生のリーシャの突然の不幸はアカデミーを一時騒然とさせたけれど。
それはほんのわずかのこと。
誰も、一平民の娘の死をいつまでも気にかけることなどなくて。
皆、何事もなかったように笑って。
ただ。
ハルロ様だけはそうではなくて。
それから、わたくしとハルロ様は一度もゆっくり言葉を交わす機会もないまま、婚礼の日を迎えた――。




