話題持ち切り
冬季休暇明けのアカデミーでは、先日大々的に公表されたわたくしとハルロ様の神託と婚約成立の話題で持ちきりだった。
会うひと会うひと、にこやかに、あるいは羨ましそうに、祝辞をくれて。
わたくしは一生分のおめでとうを聞いたかもしれないわ。
「ルティカ様!」
「ミレイさん……! お久しぶりね」
アカデミーの休暇前に会ったのが最後だから、ミレイさんとはおよそふた月ぶりかしら。
辺境の小国のなけなしの爵位持ちなミレイさんは新年祝賀にもお出になれない。
いつもおとなしくお淑やかな彼女にしては珍しい小走りでわたくしのところへ駆け寄ってくると、少し息を整える間を置いて。
「ルティカ様……おめでとうございます! まさか、神託を受けてのご婚約だなんて……! 神託婚だって持ちきりですよ」
ミレイさんの浅黒い肌が微かに上気して、興奮しているのがわかる。
わたくしは立派なおとなのレディらしく余裕のある態度を心掛けて、ふふりと笑ってみせた。
「えぇ、おかげさまで。わたくしもびっくりしましたの……えぇ、新年祝賀に参列を許されたかと思いきや、あのような神託を賜って……」
「本当に、驚きですね……。ねえルティカ様、その場にはハルロ様もおいでだったのでしょう? ハルロ様とはどのようなお話しをされたのですか?」
「……え?」
ミレイさんの瞳はキラキラと輝いて、絢爛豪華な上流貴族の世界を夢見ているよう。
わたくしたちのやり取りを聞きつけてほかの生徒たちも集まってきて。
「おめでとうございますルティカ様!」
「私も聞きとうございます、おふたりのお話!」
「ルティカ様がハルロ様のお国に嫁がれる形で成立したと聞いておりますが……」
新年祝賀の式典がどんな雰囲気だったかだの、ハルロ様はどのようなご様子だったかだの、好き勝手にみんな次々と問うてくる。
くるけれど……。
話してない……!
わたくし、まだあれから一度もハルロ様とお話ししていないわ……!?
それどころか今までだって。
アカデミーで顔を合わせたらご挨拶や二言三言交わすくらいで……。
ちゃんとお話ししたこと……ない……。
愕然。呆然。なんたる失態なのでしょう。
でもレディから軽率に殿方に話しかけるのははしたない気がするわ。
ハルロ様はアカデミーの運営理事会にも名を連ね学生でありながらもお忙しいご様子だし……。
いつも周りに取り巻きの方々がいらっしゃるし……。
「ルティカ様……?」
わたくしがいつまでも答えないでいるからか、みなさんの視線が刺さる。
何か言わなくては。
「そ、そうね。それはそれは、もう。ハルロ様もたいそうお喜びで……わたくしたち、小さい頃から何度かお会いしてよく遊んでいたから……その頃の懐かしい思い出語りなども交えてそれはそれはもう! 結婚したら夫婦円満は間違いのないことでしてよ……!」
ほわぁ、とみなさんの様子が蕩けていく。
素敵。羨ましい。私も祝福された婚約したいわ。などと口々に言い合う。
わたくしはひとまずホッとした。
なんとか体裁は保てたもの。
でも――。
このままではいけないわ。
やっぱり、勇気を出してハルロ様とお話ししなくては。
だって、わたくしたち、夫婦になるんだもの!
神託がくだったのだもの!
ふたりの相性は抜群なはずだもの!
「あ、いけない、もう始業の時間ですわ! みなさん、授業に遅れてしまいますわよ!」
いつまでもその場で集まって語り合う人たちに、手を打ち合わせて夢から醒ませて差し上げて。
「行きますわよミレイさん」
「あ、は、はいルティカ様……!」
夢見心地なミレイさんに声を掛けて、わたくしは教室へと向かう。
でも頭の中では授業なんてどうでもよくて。
ただ、どうしたらハルロ様とゆっくりお話しできるのかをずっと考えていた。




