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新年祝賀の式典


 聖都カールナベルの中心、大神殿で新年祝賀の式典は執り行われる。

 参列者の数は多く、この時ばかりは戦争中の国同士ですら一旦矛を収めて一時的休戦をする。

 そんな神聖な場。


「おい見ろよルティカ! あちらにおわすのはファースのお姫様だぞ。小麦色の肌が神秘的でたまらんよなぁ」


 そんな神聖な場だというのに、このお兄様は!


「クロスお兄様……! ちょっと黙っていてくださる? はしたなくて恥ずかしい一家だと思われてしまうわ! そもそもなぜこんな大切な場に来るのがクロスお兄様なの?! お父様やグレンお兄様は?!」


 わたくしの隣でさっきからもうずっと、ずうっと! やれどこそこのご令嬢は赤い髪が神秘的で良いだのあの姫は切れ長の目がセクシーだだのそんな話ばかり。

 こんな軽薄でちゃらんぽらんで品のない方がわたくしのお兄様だなんて。この世に生きて息をすることを許されているなんて……信じられない……。


「なんだなんだ、おまえは相変わらず怒りっぽいな。……お、あそこにいるのはおまえの愛しのハルロ王子じゃないか?」


 わたくしの怒りをさらっと受け流しながら、お兄様が言ったその名に、わたくしの心臓がどきりと強く跳ねる。


「い、愛しのって……な、な、な、な、なんで」


 急激に、頭のてっぺんまでジュワッと熱くなったよう。

 頬が火照る。


「なんでってそりゃ……俺はおまえのお兄様だぞ。お兄様というのはな、妹のことはなんでも知っているものさ」


 ふふんと鼻を鳴らし勝ち誇るお兄様の顔が腹立たしい。

 フェルダーといいお兄様といい、この世にはどうしてこうも失礼で不愉快な殿方が存在するのかしら!

 せめて身内や身の回りにいるのでなかったらまだよかったのに。


「お兄様って……ほんと、ハルロ様とは大違いだわ」

「ふん、そりゃな。どう考えても俺の方が偉大でカッコイイだろ」

「ハルロ様の方がお優しくて誠実でハンサムで素敵よ! お兄様とは大違い!」


 わたくしの剣幕に、お兄様は面白がるような顔をしてニヤリと笑う。

 嫌な予感だわ。


「へぇ。知った風な口を。いったいハルロ王子の何を知っているんだ? アカデミーで少しはお近づきになれたのか?」

「っ、げ、下世話な話をしようとしないで。だってハルロ様は……手をっ……」


 手を。

 取って。指先に……。


 え……?


 また。

 混乱する。


 ハルロ様とは、小さい頃に何度かお会いしたけれど。アカデミーではたまにご挨拶をする程度。だった、はず。


 指先に視線を落としたまま黙り込んだわたくしに何を思ったのか、お兄様がぽんと肩を叩いてきた。


「そうだな。小さい頃、迷子のおまえの手を引いてくれたお優しい王子様だな。もう何百回も何千回も聞いたぞ」


 ぽんぽん、と。まるで慰めるようにそのまま数回。

 事実だけれど腹立たしい。


「お、そろそろ式典が始まるな。良いなルティカ、式典中はシィ~っだぞ」


 お兄様は口の前に人差し指を立てて言う。

 わたくしを幾つだと思っているのかしら!?


「うるさいのはお兄様じゃないッ」


 本当に腹立たしいったら!


 もっと何か言ってやりたかったけれど、ジャァン! と鳴る音が巫女様の訪れを知らせて荘厳な空気が広がる。

 わたくしはギュッと口を噤んだ。


 少し離れたところに佇む、ハルロ様を窺い見る。ラトリーナの錚々たる顔ぶれの中でも、堂々と存在感を示していてさすがの風格がおありだわ。


 ハルロ様の横顔を見ていると、わたくしの胸の奥がザワザワと騒ぎ出す。

 なんだか落ち着かない。

 怖いような気持ち……。

 今にも足元が、崩れてなくなってしまいそうな心細さがあって。


 でも、どうして……。


 わたくしは、祈るようにギュッと手を組み目を瞑る。

 きっと、慣れない場所と空気に呑まれているだけ。

 

 そうしているうちにも、新年祝賀の式典はつつがなく進んでいく。


 とん、とお兄様に肘でつつかれて思わず顔をあげた。


 お兄様が、もうすぐ神託の時間だぞ、と口だけを動かして言ってくる。


 神託……。


 新年祝賀の……。


 わたくしは。

 

《佳日

 神よりの託宣賜る。


神 曰く。


 ラトラム王国公爵の娘ルティカ! 

 ラトリーナ王国国王の息子ハルロ!


 両名に神の名のもとに婚姻の使命と祝福を与えん!》


 大神殿の満場の中、朗々と告げられた神託。


 静かなままに、ざわりと人々の空気が揺れて。


「ヒュウ♪」


 すぐ隣でお兄様が感嘆の口笛を吹いて。


 ハッとしたように顔を上げたハルロ様が辺りを見渡し、そして。


 わたくしを見つけて。


 目が、合って。


「ぁ………………」


 わたくしは、なんだか胸がいっぱいになって。

 じわりと涙が溢れて。

 それを誰にも見られるわけにはいかなくて。

 

 頬に手を当てるそぶりで顔を隠して。

 

 微かに震える体を、誰にも知られないように自分で抱き締めるしかなかった……。

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