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後遺症……?



 ラトラムの実家から届いた封書を開くと、そこには新年祝賀の式典への招待状が同封されていた。


【ルティカへ。


 今年の新年祝賀の式典におまえも同行することを父上がお許しになったぞ。

 ちょうど十八になるからちょうど良い頃合いだろ。

 もしかしたら、巫女様から神託を授かる栄誉に浴するかもしれないしな。


 わざわざ父上に直訴してやったんだ、感謝しろよ。


 かっこよくて偉大な兄 クロスより】



 その文面を読んで、わたくしは目眩を感じた。それに頭痛も。


 我が兄ながらなんて軽薄な手紙かしら……!


「新年祝賀の式典なんて……今回が初めてでもないのに……」


 変なお兄様ね。


 ………………。


 ??????


「え???」


 いまわたくし自身の口から出た言葉に、混乱する。


 わたくし、なんて言いましたの?


 もう一度、お兄様からの軽薄な手紙の内容を読み返す。

 部屋に飾ってあるカレンダーを見る。


 季節は秋、十一月。

 わたくしの誕生日はまだ少し先だけれど、今度十八歳になる。


「うん……。そう、ね。そう。当たり前だわ」


 なぜかしら。

 もうわたくしはとっくに十八で、新年祝賀の式典に出たことがある……なんて。


「何をどうしたらそんな勘違いができるの……」


 なんだか、最近そういうことが多い気がするわ。

 確か、そう。

 高熱で三日三晩うなされて目が覚めた、あの日くらいから。


「高熱の……後遺症……?」


 診察が終わってフェルダーが帰ったあと、しばらく体の震えが止まらなかった。

 ばぁやが相談して、フェルダーからは特別調合のハーブティーを処方されて。


『特別に甘くしてありますよ、お嬢様。ククッ』


 なんて!

 まるで人を甘いシロップ薬でないと飲みたがらない子供みたいに!

 思い出したら腹が立ってきたわ。


 ハーブティーのおかげかどうか、それ以来似たような症状が出ることはなかったのだけれど。


「なんだか……奇妙なことね……」


 お兄様からの手紙を文箱にしまって、わたくしは教科書を手に取り直す。

 今日は水曜日で、フェルダーとの勉強会の日。


「よね?」


 思わずカレンダーを確認してしまう。

 まさかこんなに自分の記憶が疑わしくなるなんて。

 なんだか怖いわ……。

 気は乗らないけれど、やっぱりフェルダーに相談するべきなのかしら。


 ばぁやには心配をかけたくないから言えないわね。

 ミレイさんはどうかしら?

 あの子も心配性だから、よくないかしらね。


 あとは……。


 ………………。


 びっくりした。

 ひとりも思い付かないわ!?


「な、なんてこと。……でも、淑女たるもの軽率に悩みや心配事を他人に漏らすべきではないって……お父様も、仰っていたし……」


 どこにどんな敵が潜んでいるとも限らないのだから、簡単に他人を信じて秘密を打ち明けたりしてはならない。

 お父様は常々、わたくしたちにそう言って聞かせてきたのだわ。

 

 わたくしも、やはり軽率に誰かにこのことを話すべきではないかもしれないわね。


 嗚呼! だってそうだわ!

 もしそれで、頭のおかしな女だと思われたら、結婚の相手も見つからないかもしれないもの!


「やっぱりダメ、後遺症なんてないわ。わたくしは、健康そのものなのだから!」

「どうやら、そのようですな」

「きゃぁぁあ!? あなた、フェルダー! 誰の許しを得てわたくしの独り言に応える権利を得たのかしら!?」


 いつからそこに居たというの!?

 勝手に淑女の部屋に入ってくるなんて信じられないわ!


 わたくしの怒りの眼差しを受け止めながら、フェルダーはちっとも悪びれる様子もなくニタリと口角を吊り上げた。


「ジーナさんが普通に招き入れてくれましたぞ。今日は水曜日……勉強会の日……に加え、最近お嬢様のご様子がいささかおかしいような、と相談も……」


 まぁ、ばぁや。

 やっぱりばぁやに隠し事は難しいのね。もうとっくに心配をかけていたなんて。


 フェルダーも真面目な顔をしてわたくしをじっとりと検分するような目を向けてくる。

 

「あ、あまりジロジロ見ないでくださる? 失礼でしてよ」

「は――これは失敬。ククッ。どうやらジーナさんの思い過ごしのようですな、お嬢様がおかしいのは今に始まったことではない」


 …………。


「し、失礼でしてよ!?」


 一瞬、何を言われたのかすぐにはわからなくて怒るタイミングもズレてしまう。

 全くなんて不愉快な方。

 平民のくせにちっとも弁えない。

 確かにわたくしの恩人ではあるけれど……。


「まぁ、なんですな。……新しいハーブティーを追加で処方しましたのでね、そのうちすっかりよくおなりになりますよ」

「それって……やっぱり熱の後遺症があると言っているのかしら?」


 わたくしの疑問に、フェルダーは真面目な顔に戻る。


「かもしれません。なにせ酷い高熱が続いたわけですからな……。ですが、とはいえ……なんのご心配にも及びませんよ」


 フェルダーがまっすぐわたくしを見て、珍しくなんの含みもなさそうな声音で言う。

 それがなんだか逆に深刻な気がして怖いのだけれど。


「もう。いいわ。……わたくしは健康そのものよ! さぁ、さっさと勉強会を終わらせましょ」

「そうですな。……終わらせるためにも、まず始めなくてはなりませんがね」

「わかっていてよ!」


 またニヤニヤと意地悪く笑い出すフェルダーに、わたくしは教科書を開いて頷いた。

 

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