◇◇◇
それは光だった。
ただひとつ世界を照らすものだった。
あの鮮やかな光が。
消えた。
……また、だ。
もう何度目かわからない。
数えることに意味はないだろう。
今度こそ今度こそと信じ……
どうしてもまたここまで来る。
違う。
ここまでしか来れない。
いつもここで終わってしまう。
だが。
だとしても。
次こそは。
今度こそは。
◇◇◇
「ぁぁああああああああ――――!!!!」
暗闇から絞り出すような悍ましい悲鳴が聞こえた。
「あっ――――――――!?!?」
それは、わたくしの喉から出ていて……。
「お、お嬢様……! あぁ、お嬢様……!」
聞き覚えのあるその声は涙に濡れて。
わたくしの体をひしと抱き締めるふくふくした体は温かくて。
「ぁ――わ、わたくしは……」
瞬く。
見覚えのある、そこは、わたくしのいつもの寝室……。
「ジーナさん、お気持ちはわかりますが少し離れてくださいますかな。診察をさせてくださらんと困りますな」
聞き慣れた低い嫌味ったらしい声。
「フェルダー先生! はいはい、それはもう。すみません、お嬢様が突然目を覚まされたもんだからついつい」
「えぇ、そうでしょうな。構いませんよ、一応診ますがね……わかっておりますのでな」
フェルダーの筋ばった手が、わたくしの手首に触れて脈を測る。
どういうことかしら? まだ頭がちっとも働かない。
「お嬢様……ルティカ様? ご気分いかがですかな」
フェルダーが様子を窺うようにわたくしの顔を覗き込んでくる。
重たい目蓋が相変わらず眠たげで、隈はますます濃くなっているよう。
それに……。
「……あなた、なんだか……白髪が増えたのではなくて?」
黒髪に混ざる白い色の配分が、以前より増えたような。
以前……?
いつと比べてのことだったかしら。
やっぱり頭がぼんやりしているわ。
「なに――?」
フェルダーの声が尖って聞こえた。
なんということのないわたくしの、なんならいつもの憎まれ口と流されて終わると思っていたのに。
なんだか表情も強張って険しいみたい。
「まぁ、もしかして気にしていて? あなたにもそんな可愛いところがおありなのね!? てっきり頓着していないのかと思っていたわ」
「お、お嬢様……!」
わたくしの言葉に、ばぁやが嗜めるように呼びかけてくる。
フェルダーは怖い顔でしばらくわたくしを睨んでいたかと思うと、重々しい溜息を吐いて立ち上がった。わたくしの診察は一通り終わったみたい。
「熱はすっかり下がりましたな……口もよく回りいつも通り。ジーナさん、お嬢様のご容態はもう心配いりませんよ」
「あぁ――! よかった……よかった……お嬢様……あたしゃお嬢様がずぅっと高熱にうなされてる間、この世の終わりみたいな気持ちでございましたよ」
涙でぐしょぐしょの顔でばぁやが言う。
わたくしは、なんだか。
何かがとてもおかしな気がするのに、それがなんだかわからなくて……。
「そ、う……心配をかけたわね……? ……」
なんと返せばいいのかわからず困惑する。
ぼんやりと靄のかかる頭が、なんだかとても重い。
「熱は下がったとはいえ、まだ病み上がりですからな。消化に良いスープなどを食べさせて、少しずつ回復を」
コツ、と硬い靴音が床を打つ。
フェルダーの足音。
「さて……お嬢様……」
「え、な、なによ……」
改まった呼びかけに、わたくしは身構えた。
フェルダーの暗い赤の瞳が、じっとわたくしを見据える。
「いえ……。いまはただ、ゆっくりお休みください……悪い夢を見たりせぬよう祈っておきましょう」
「……? え、えぇ。そうね。なら、あなたの顔が夢に出てこないように祈っていてちょうだい」
「――ククッ! えぇ、そのように。では、また参ります」
フェルダーはいつもと同じように笑うと、さっと踵を返して出て行く。
「さ、お嬢様。何かお召し上がりになりますか。その前に汗を拭いてお召し物を換えましょうかね」
フェルダーが出ていくのを深いお辞儀で見送っていたばぁやが、ぱっと振り返りわたくしに笑いかける。
その顔に、なんだかとってもホッとして。
奇妙な安堵感に包まれると、途端に体がカタカタと震え出した。
「え……?」
思わず自分で自分を抱き締める。
体の震えは収まる気配もなくて、心臓がドキドキと激しく打ち据えて痛いくらいで。
「お嬢様……!? お嬢様、どうなさいました。お嬢様」
ばぁやが走り寄ってきてわたくしを抱き締めてくれる。
なのに震えはちっともおさまらなくて。
「ばぁや……ばぁや……わ、わたくし……」
「お嬢様……お嬢様……先生を呼び戻しましょうか」
「い、いいえ。違うの、違う……お願い、少しこのままでいて。このまま……このままで……」
「お嬢様……。大丈夫、大丈夫ですよ。ばぁやはどこにも行きやしませんからねぇ」
ばぁやの手が優しくわたくしの背中を撫でてくれる。
その温かさに、安心する。
そのまま、わたくしは。
眠りに身を任せることにした……。
わたくしはギュッと目を閉じた。




