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弁護士は、現代社会に生きる、辛い過去を持つ魔女達を自己犠牲も問わず救いたい。  作者: れさ
第4章 旅先で待つもの

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――第8話 落ちてくる白い光――

 ――がぁん!


 轟音とともに、結乃がTIMMA本部の正面玄関を術理で吹き飛ばした。

 重厚な扉は原形を留めないまま弾き飛ばされ、受付の奥まで転がっていく。

 金属とガラスがぶつかり合い、がらんがらんと空虚な音が広いロビーに響き渡った。


「お、おい結乃……人がいたら危ないだろ」


 思わず、悠斗は注意してしまった。


 だが結乃は、そんな声など耳に入らない様子で、静かに周囲を見渡している。

 ただ状況を確認するためだけの、冷えた視線だった。


 悠斗も、その視線に引きずられるように中へ足を踏み入れ、辺りを見回す。


 ――そして、思わず息を呑んだ。


 床に転がっているのは、死体だった。


 上半身のないもの。

 頭にナイフを突き立てられたまま、放置されているもの。


 それらが、十体ほど。

 無造作に、床の上に散らばっている。


 血の匂い。

 硝煙の匂い。

 生き物の気配は、どこにもない。


 だが――

 それ以上に、悠斗の注意を引いたものがあった。


「……これ、ネザーヴェイルだけじゃないな」


 悠斗は、死体の配置を見渡しながら呟いた。


 床に転がる遺体の中には、

 ネザーヴェイルが着用している黒衣だけでなく、

 白い装束をまとった者たちが、はっきりと混じっている。


 ――どこかで、見た覚えがある。


「ええ」


 結乃が、鋭い視線で遺体を睨みつけるようにして言った。


「これは……天啓和合会ね」


 その一言で、記憶が繋がった。


 この装束。

 平田梨花との戦闘の際、

 周囲に立っていた老人たちが身にまとっていたものと、まったく同じだ。


 偶然で済ませられる話ではない。


「……藍だけじゃなく、アーサーもここにいるのかしら」


 エウラは、遺体の配置を一瞥しながら、落ち着いた声で言った。


「でも、あの二人が手を組むなんて……ありえないわね」


 その判断は、感情ではなく、事実に基づいたものだった。


 聞いている限り、

 藍の目的は――理の樹を破壊し、魔法を人類の手に取り戻すこと。

 一方で、アーサーの目的は――理の樹の力によって人類すべてを信者とし、思考能力を奪った上での世界平和。


 方向性は、完全に正反対だ。

 同じ場所に辿り着くことはあっても、同じ道を選ぶことはない。


 協力関係が成立する余地は、どこにもない。


 ――であれば。


「……アーサーが、漁夫の利を狙って襲撃したと考えられます」


 祈が静かに言った。

 その声音に、迷いはない。


 悠斗も、同時に同じ結論に至っていた。


「僕もそう思うよ。ただ……」


 一拍置き、視線を奥へ向ける。


「二人の目的は、どちらも最終的には黒涙に行き着く。油断はできない。気を付けて進もう」


「ええ」


 結乃が、短く答えた。


 悠斗は周囲を見渡し、右手側に非常階段があるのを見つける。

 エレベーターは危険すぎる。待ち伏せも、罠も、どうとでも仕掛けられる。


「……非常階段だな」


 選択に、迷いはなかった。


 外観から見ても、このビルは三十階はある。

 上るのは骨が折れそうだ――だが、そうも言っていられない。


「はい。でも、一階の奥にあるものを使いましょう」


 祈が即座に答えた。


「外来用ではなく、スタッフ用の非常階段があります。そちらは認知されておらず、敵の数も少ないです」


 すでにアナライズは終えているらしい。

 祈は迷いなく進行方向を示し、先頭に立った。


 こういう状況では、本当に助かる。

 悠斗は一瞬、彼女の背中を見てから、無言で頷く。



※※※※※



 二階、三階。

 最初は景気よく、足取りも軽かった。


 だが、階数が増えるにつれて、じわじわと脚に重さが溜まっていく。

 十階を越えたあたりで、悠斗の呼吸が目に見えて乱れ始めた。


「……はあ、はあ……」


 胸が上下する。

 肺に入ってくる空気が、やけに薄く感じられる。


「やっぱり……きついな……」


 弱音が、思わず漏れた。


 階段はまだ続いている。

 上を見上げても、踊り場の先にあるのは、さらに続く灰色の段差だけだった。


 ――三十階。


 そう思っただけで、脚が抗議の悲鳴を上げる。


 一方で、前を行く結乃と祈の足取りは衰えない。

 エウラもまた、呼吸一つ乱さず、当たり前のように階段を上っている。


 その背中を見ながら、悠斗は小さく苦笑した。


 結乃と祈は言うまでもない。

 だが――エウラですら、まったく息切れしていない。


 その事実に、悠斗は思わず舌を巻いた。


「だらしないわね、悠斗」


 案の定、エウラが振り返って言う。

 口調はきついが、どこか世話焼きじみている。


「だから、あれほど屋敷でも運動しなさいって言ってあげたのに」


 まるで母親のような叱り方だった。

 その姿は幼いながらも、不思議と母性を感じさせる。


「……ごもっともで」


 言い返す気力もない。


「――シングル・エンチャント・フェザー」


 エウラがそう唱えた瞬間。


 ふっと、体が軽くなった。


 重力が抜け落ちたような感覚。

 脚も、肺も、さっきまでの重さが嘘のように消えていく。


「おお……エウラ、すごいな」


 思わず感嘆の声が漏れた。


「はいはい」


 エウラはやれやれ、といった様子で手を振る。


「ほら、行くわよ。まだ上があるんだから」


 軽くなった足取りで、再び階段を駆け上がる。

 その背中を追いながら、悠斗は一度、深く息を吸った。


 その勢いのまま、十五階へと差し掛かった――その瞬間だった。



 ――かっ。



 一瞬、世界が白く染まる。


 十六階の上方から、光が落ちてきた。


「――よけてください!!」


 祈の叫びが、階段に反響する。


 それは、ただの光ではなかった。

 熱。

 圧。

 そして、質量。


 まるで太陽の欠片が、そのまま叩きつけられるかのような代物だ。

 避けなければ、押し潰される。焼き尽くされる。


 光は一直線に、

 悠斗たちをまとめて叩き潰さんと、階段を埋め尽くす勢いで迫ってきた。



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