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弁護士は、現代社会に生きる、辛い過去を持つ魔女達を自己犠牲も問わず救いたい。  作者: れさ
第4章 旅先で待つもの

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――第7話 燃える本部――

 TIMMAの本部は、火に包まれていた。


 ロンドンの町の中心部。

 金融街からもほど近いその場所にそびえ立つ、現代的な三十階建ての高層ビル。

 ガラス張りの外壁は夜景を映すはずだったが、今は違う。赤黒い炎と、濃密な黒煙が、無数の窓という窓から噴き出している。


 ――燃えている。


 それだけで異常だった。


 TIMMA本部。

 術理情報管理相互扶助機構の中枢。

 世界中の術理士の情報が集約され、最高練度の術理士が常駐し、幾重にも張り巡らされた防衛結界に守られている場所。


 屋上も例外ではなかった。

 かつてヴォルクハルトと会議を行った場所。

 あのときは静寂と風だけがあったはずの空間が、今は炎に舐め尽くされている。


 爆発――。

 それも、単なる事故やガス漏れではあり得ない規模だ。


「……先生!」


 横で声を上げたのは、結乃だった。

 視線をビルに釘付けにしたまま、明らかな動揺を隠しきれていない。


「TIMMAの本部を襲撃だなんて……いったい、誰が……?」


 当然の疑問だ。

 そして、その答えが「あり得ない」ことも、彼女は分かっている。


 TIMMA本部への直接攻撃は、自殺行為に等しい。

 本部には熟練の術理士が多数在中している。仮に一般人がテロを仕掛けたところで、術理による逆探知で即座に位置を捕捉され、反撃を受ける。


 それ以前に――

 本部全体を覆う強力な術理結界がある。


 外部からの物理攻撃も、術理攻撃も、基本的には遮断される設計だ。

 あんな“爆発の仕方”は、本来あり得ない。


「……わからない」


 悠斗は、正直にそう答えた。


 現時点で確定できる情報は、ない。

 だが、推測ならできる。


「でも、TIMMAを襲撃するなんて……僕には、ネザーヴェイル以外の選択肢が思い浮かばない」


 言葉にした瞬間、空気が一段重くなる。


 ネザーヴェイル。


 ホテルでの襲撃。


 さっきのは偶発的なテロじゃない。

 狙いは明確だ。


 ――時間稼ぎ。


 エウラ。

 結乃。

 そして、自分。


 リネア使いと魔法使いが現場に揃っている状況を、相手は嫌っている。

 だから、足止め要員として送り込まれた術理士は、間違いなく精鋭だったはずだ。


 だが――


(……結乃は、一人で全部吹き飛ばしてたんだよな)


 脳裏をよぎる、少し前の光景。

 結界も、迎撃も、強引に突破したあの力。


 もしかして。

 いや、もしかしなくても。


(……この子、結構やばいのか?)


 戦力的な意味で、だ。


「真神様」


 祈の声が、思考を引き戻す。

 彼女はすでに解析を終えたらしく、目を細めて状況を報告してきた。


「アナライズを使用しました。かなりの数の術理士同士が戦闘を行っています。……今も、です」


 今も。


 つまり、これは一発限りの爆破ではない。

 本部内部、もしくは周辺で、現在進行形の戦闘が続いている。


「なるほど……」


 息を整える。


「わかった。みんな、気を付けて突入するぞ」


 軽く言ったつもりだったが、実際には全員が緊張しているのが分かった。

 相手は未知数。

 味方も敵も、内部で入り乱れている可能性がある。


「ええ、大丈夫よ」


 そんな空気を切り裂くように、エウラが自信満々に言った。


「私の魔法があれば、問題ないわ」


 ……本当に、そうだろうか。


 エウラの魔法は強力だ。

 発動すれば、戦況を一変させるだけの力がある。


 だが。


(発動までが、致命的に長い)


 詠唱中は完全に無防備。

 あの規模の戦場で、悠長に詠唱していれば、八つ裂きにされる未来しか見えない。


 だから――

 その時間を稼ぐ役目は、必然的に自分になる。


 リネアの制御。

 それも簡単じゃない。


 使えば使うほど、体に負荷がかかる。

 それでも、やるしかない。


「エウラ」


 悠斗は、彼女の方を見て、はっきりと言った。


「あんまり先行するな。僕が守ってやれるとは限らない」


 一拍。


「無茶をしたら――全員、死ぬぞ」


 冗談じゃない。

 警告だ。


「……分かってるわよ」


 エウラは、肩をすくめて答えた。


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