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弁護士は、現代社会に生きる、辛い過去を持つ魔女達を自己犠牲も問わず救いたい。  作者: れさ
第3章 信じる心と過去の罪

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――第31話 エウラのとっておき♪――


「殺す……殺す殺す殺すッ!!」


 梨花の叫びが、空間そのものを引き裂いた。


 天使が、膨張する。


 光が肉体を内側から押し広げ、輪郭が歪む。

 翼とも刃ともつかぬ構造が、無秩序に展開していく。


 もはや人の姿ではなかった。

 それは神話に描かれる“裁き”――その概念そのものが、現実へと溢れ出した姿だった。


「死ね……」


 声は低く、感情を削ぎ落とした命令に近い。


「――テオス・エイミ」


 次の瞬間、世界が白く染まった。


 “光”だった。

 だが、温もりも救いもない。


 ――死の光。


 術式としては、あまりにも単純。

 膨大なエネルギーを、一直線に叩きつけるだけ。


 しかし、その単純さこそが、最大の暴力だった。


 技巧も、理屈も介在しない。

 質ではなく、量。

 量の暴力が、すべてを押し潰す。


 リネアの力の、ほんの一部。

 それだけで、世界は悲鳴を上げていた。


 その光が――悠斗へと迫る。


「先生!!」


 結乃が叫び、即座に魔法を展開しようと身構える。


 だが――


「結乃!!」


 悠斗の声が、鋭く空気を裂いた。


「黙って、僕とエウラに任せてほしい!!」


「……え?」


 一瞬、結乃の思考が止まる。


「……エウラ?」


 理解が、追いつかない。


 次の瞬間――


 がああああああああああああああん!!


 轟音とともに、光が正面から衝突した。


術理士では、防げない。


 ――“格”が違う。


 爆風が吹き荒れ、視界は完全に白へと塗り潰された。

 音も、距離感も、上下の感覚さえ失われる。


 粉塵の奥。

 白い闇の、その向こうに――


 立ちふさがる、人影があった。


 悠斗だ。


 その身体を、黒いイバラが覆っている。


 一本一本が生えたのではない。

 最初からそこにあったかのように、皮膚の内側から滲み出るように現れている。


 自分に降りかかるすべての“結果”。


 痛み。

 破壊。

 死に至る未来。


 それらを、悠斗は拒まない。

 消しもしない。


 ただ――

 今この瞬間から、未来へと送り続ける。


 今日ではない。

 いつか、その先へ。


(守りに徹すれば……)


 イバラが、わずかに軋む。


(……負けることはない)


 死は、未来へ。


 世界が壊れるまで。

 ――あるいは、自分が壊れる、その時まで。


 “守る者”として、悠斗は立っていた。


 誰かを裁くためではない。

 誰かを倒すためでもない。


 ただ、ここを越えさせないために。


 その静寂の中で――


 声が、聞こえた。


 落ち着き払った、声。


 エウラだ。


爆風の中心にいたはずなのに、衣服の裾一つ乱れていない。


 エウラは、ゆっくりと息を吸った。

 周囲の喧騒が、そこで一度、途切れる。


 そして――

 世界そのものに向けて、静かに告げた。


「我は命じる」


「一つの術を」


「千に分けよ」


 足元の空気が、わずかに震えた。

 淡く光る円が浮かび上がる。


 一つ、二つではない。

 瞬きの間に、数十、数百の術式陣が次々と生成されていく。


「千の守りを」


 円は重なり、ずれ、回転しながら増殖する。

 幾何学模様が空中に描かれ、それは平面を超え、立体へと変わっていった。


「万に連ねよ」


 視界が、完全に“術式陣”に覆われる。

 数を数えるという行為そのものが、意味を失っていた。


「ただ在れ」


「ただ重なれ」


「世界が壊れる、その時まで」


 エウラの瞳が、静かに光を帯びる。




「―ー《賦律ハイペリオンーー》」




その言葉が落ちた瞬間。


 巨大なドームが形成された。

 半球状の防壁。

 だが、それは単なる壁ではない。


 内も外も区別なく、

 全方向に、数え切れないほどの術式陣が刻まれている。


 何層あるのか。

 ――誰にも、分からない。


「……な……」


 結乃は、言葉を失っていた。


 術理士として積み上げてきた常識が、

 耳元で、ばらばらと音を立てて崩れていく。


 一人で展開できる術式陣の限界。

 同時詠唱の数。

 維持できる演算量。


 そのすべてを、

 この光景は、前提から否定していた。


「……これは……」


 佐橋も、目を細める。


「これはこれは……」


 感嘆とも、嘲笑ともつかない声音。

 その口元が、わずかに歪んだ。


「エウラの……術理…か?」


 だが、すぐに首を振る。


「いや……違う…」


 小さく、息を吐く。


「魔女の“もう一つの力”……か!」


 その顔は、笑っていた。

 楽しげに。

 だが、その奥には、初めて見る異常への警戒がかすかに滲んでいる。


 そして。


 その守りの中心で――


 エウラは、静かに立っていた。


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