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弁護士は、現代社会に生きる、辛い過去を持つ魔女達を自己犠牲も問わず救いたい。  作者: れさ
第3章 信じる心と過去の罪

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――第24話 少女の記憶――


◆◆◆◆◆


平田梨花。

当時、11歳。


京東都出身。


父親の名は、平田周助ひらた・しゅうすけ

警視庁本部に所属する警察官で、捜査一課の刑事だった。


若く、優秀。

判断は的確で、仕事も早い。

部下からの信頼も厚く、上司からの評価も高かった。


家では、少し不器用な父親だった。


忙しい合間を縫って、

たまの休日には遊園地に連れて行ってくれる。

ファミレスで、少し高いデザートを頼んでくれる。

帰りの車では、必ず「楽しかったか?」と聞いてくる。


梨花は――

そんな父親が、大好きだった。


世界は、

まだ安全で、

まだ正しくて、

まだ信じられるものだった。


しかし。


――がぁん。


一発の銃声が鳴った。


それは、

夜の街を切り裂く音であり、

同時に――


平田梨花の世界が、音を立てて壊れた瞬間だった。


その銃声は、

父親を奪い、

日常を奪い、

そして――

彼女の“未来”の向きを、決定的に変えた。


◆◆◆◆◆


2019年11月21日 午前2時42分


京東都 某所


 その夜、都会は眠っていなかった。


 ネオンの残光が濡れたアスファルトに滲み、

 終電を逃した人間たちの笑い声が、繁華街の裏路地に漂っていた。


 ――銃声が鳴り響いたのは、その最中だった。


 乾いた破裂音が、狭い路地の壁に跳ね返り、

 一瞬遅れて、悲鳴ともつかぬ声が夜気を裂いた。


 殺人事件。


 被害者は、刑事・宮原真一みやはらしんいち

 当時28歳。


 将来を嘱望されていた若手刑事であり、

 水面下で、ある“案件”を追っていた男だった。


 容疑者として名前が挙がったのは――

 鷹宮将人たかみやまさと


 政界では知らぬ者のいない、有力政治家。

 当時、彼は「絶対的な支持」を誇っていた。


 清廉、実直、改革派。

 表向きには、非の打ちどころのない人物像。


 だが一方で、

 彼が巨額の汚職に関与しているという噂が、

 闇の中では囁かれていた。


 宮原真一は――

 その“証拠”を掴みかけていた、とされている。


 事件は、あっけなく、幕を下ろされた。


 宮原の遺体のそばに立っていた男。

 血に染まった拳銃。

 そして、その場に現れた一人の証人。


 宮原の上司であり、

 現場に居合わせたとされる刑事――

 平田周助ひらたしゅうすけ(当時36歳)。

 梨花の父親だった。


 彼はその場で鷹宮将人を現行犯逮捕した。


 誰もが、そう思った。


 ――これで、終わりだと。


 鷹宮将人の政治生命は、ここで断たれる。

 疑いようもなく。

 救いようもなく。


 テレビの速報テロップ。

 新聞の号外。

 ワイドショーで踊る断定的な言葉。


 誰もが胸の内で、同じ感情を抱いた。


 ざまあみろ。


 口には出さずとも、

 その言葉は、確かに共有されていた。


 権力者が墜ちる瞬間。

 それは、いつだって甘美だ。


 正義が勝った気がした。

 世界が少しだけ、きれいになった気がした。


 動機も明白。

 証拠を掴まれ、口封じに走った。


 筋書きは完璧だった。


 まるで――

 出来の悪いミステリー小説のように。


 あまりにも出来すぎていた。

 しかし――

 宮原が集めたはずの“証拠”は、

 事件後、完全に消えていた。

 公式には、すべてが「解決済み」だった。


 そしてこの夜、

 一人の刑事の人生と、

 そして――その家族の人生もまた、

 静かに壊れ始めていた。


◆◆◆◆◆


2020年8月5日


 殺人事件の裁判が、開かれた。


 ――もっとも、

 その法廷に「結論」を期待している者など、最初からいなかった。


 どうせ有罪だ。

 やる意味があるのか。


 そんな空気が、傍聴席にも、記者席にも、

 そして法廷そのものにも、重く垂れ込めていた。


 誰もが、鷹宮将人を犯人だと決めつけていた。


 断罪せよ。

 断罪せよ。


 声に出さずとも、

 その無言の合唱は、確かに響いていた。


 それでも――

 法は形式を守らねばならない。


 たとえ、最初から「悪者」が決まっている裁判であっても、

 被告人には弁護人が必要だ。


 そして、その役目を担うことになったのは――

 あまりにも場違いな存在だった。


 若干22歳。


 真神悠斗まがみゆうと


 21歳で司法試験に合格し、

 22歳で京東都内の大手弁護士事務所に所属。


 その年の四月に入所したばかりの新人でありながら、

 彼が担当した訴訟は、すべて勝利。

 誰もが”天才”だと彼を評価した。


 敗色濃厚。

 いや、敗北が前提とされていた事件ですら、

 ことごとく逆転させてきた。


 いつしか、こう囁かれるようになっていた。


 ――真神が担当する事件は、”結果”が決まってから始まる。


 大手企業。

 政治家。

 芸能人。


 「負けられない者たち」から、依頼が殺到する若き弁護士。


 その彼が――この事件を引き受けた。


 周囲の制止も、

 「勝ち目はない」という忠告も、

 すべてを聞き流しながら。


 まるで――

 初めから、何かを知っているかのように。


 この裁判が、

 ただの断罪劇では終わらないことを。


 そして、

 この法廷が、

 誰かの人生を“本当の意味で”壊す場所になることを。


 彼だけが、

 理解しているかのようだった。


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