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弁護士は、現代社会に暮らす、悲しみを抱いた魔女達を、自己犠牲も問わず、救いたい  作者: れさ
第三章 信じる心と過去の罪

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――第15話 獣の影――


「――結乃!!」


カシウスの叫びが、礼拝堂に響く。


その声に呼応するように、

結乃も、即座に踏み込んだ。


迷いはない。

それ以上の言葉は、もう不要だった。


「「――カルテット・ブレイク・ライトニング・レイン!!」」


二人の声が、完全に重なった。


息の合った同時詠唱。

一拍のズレもなく、術式が起動する。


結乃とカシウス、それぞれの足元に展開された術式陣が、

まるで引き寄せられるように重なり合い、

四つの位相を束ねた四重奏術理へと昇華する。


人が放つことのできる――

最大火力。


思考も、肉体も。

すべてを削り取って初めて成立する、限界点の術理。


空気が、裂けた。


雷鳴が生まれる前に、すでに空間そのものが悲鳴を上げている。

黒い稲妻が幾重にも絡み合い、

一本一本が「死」を内包した刃となって、

アールティの立つ一点へと収束していく。


――当たれば、終わりだ。


リネア使いであろうと例外ではない。

直撃すれば、肉体も術理核も、存在そのものが粉砕される。


熟練の術理士ですら、

一人ではプロテクトが成立しない。


それが、この術――

死の雷。


その最奥が解放された瞬間、

巨大な稲妻の嵐が、矮小な人間を押し潰すように降り注いだ。


ばり、

ばり、

ばり、ばりばり――!!


鼓膜を引き裂く轟音。

光が視界を焼き、床と壁が同時に砕け散る。


粉塵が爆発的に舞い上がる。


――普通の人間なら、

原型すら残らない。


人一人を殺すのに、

本来、こんな大規模術式はまったく必要ない。


だが。


相手は――ガイアのリネア使い。


初手で決めなければ、

術理士側に勝ち目はない。


だからこそ。

カシウスと結乃は、

リネア使いと遭遇した場合、最大火力で殲滅する

――そう、事前に決めていた。


迷いはない。

慈悲もない。


あるのは、生き残るための選択だけだ。


稲妻が地を穿き、

衝撃が波となって広がる。

それはまるで、

交通事故のように――

圧倒的で、一方的な破壊だった。


アールティは、動いた気配すらない。


当たった。

確実に、直撃した。


手応えも――ある。


「……」


「……」


だが。


粉塵がまだ宙を漂う中、

結乃とカシウスの表情は――硬いままだった。


勝利を確信した顔ではない。

安堵の色も、ない。


(――おかしい)


二人とも、同じ違和感を抱いていた。


これで終わる相手ではない。

そんな確信めいた予感が、胸の奥で重く沈んでいる。


粉塵の向こう側。

視界の先で、

“何か”が――まだ、立っている。


「……」


「……」


「……」


誰も、何も言わない。

粉塵が完全に収まり、

アールティの“屍”をこの目で確認するまでは、

一切、気を緩められなかった。


身構えたまま、時間だけが流れる。


やがて――

粉塵が、ゆっくりと地に落ち始める。


その奥から、影が現れた。


……大きい。


人影ではない。

三メートルはあろう、異様に巨大な輪郭。


「……!」


カシウスが、誰よりも早く反応する。


影が、粉塵を押しのけて前に出る。


ズゥン……ッ


ズゥン……ッ


床が、鳴った。

いや――揺れた。


人の足音ではない。

巨大な石像が歩くような、

腹の底に直接響く地鳴り。


(――あれは……)


悠斗の喉が、ひくりと鳴る。


姿を現したのは――

一見すれば、ライオン。


だが、決定的に違う。


尾は、二本。

その毛皮は、獣のものとは思えないほど金色に輝き、

まるで金属と生命の中間のような質感を放っている。


爪は異様に長く、

あれに引き裂かれれば――

その瞬間で即死だと、本能が告げていた。


そして、目。


こちらを睨みつける瞳は、

六つ。


ギラリ、と同時に光る。


「……っ」


かはぁ、と吐き出される呼気。

その口から覗くのは、

二本の、異様に長い牙。


まるで、サーベルタイガー。


「結乃……!

あれは、何だ……?」


悠斗は、思わず声を落とした。


結乃は即答しない。

視線を逸らさず、獣を見据えたまま、慎重に言葉を選ぶ。


「……分かりません」


だが、次の言葉は、重かった。


「ただ――

カルテットの術理を受けて、耐えていられる生物はいません」


汗が、結乃の横顔を伝って落ちる。


「……であれば、あれは」


視線をずらすと、

カシウスもまた、険しい表情で獣を見据えていた。


ガイアのリネア……

曼蛇幻獣召(まんだげんじゅうしょう)の、半物質生物か」


低く、噛みしめるような声。


「――そうさね」


粉塵の奥から、

今度は“人”の影が現れる。


アールティだ。


傷ついた様子はない。

楽しげですらある。


「この子は、“マカラ”さ」


獣の頭を、愛でるような視線で見やる。


「……まあ、ライオンちゃんってところかな」


くすり、と笑う。


「どうだい?

なかなかのもんだろ?」


誇らしげに、胸を張る。

「あたしのリネアで召喚した――

半物質生物」


指先で、空をなぞる。


「術理で倒すのは、

なかなか骨が折れる相手さね」


倒すのが、難しい。

――無理ではないということ。


だが。


カルテットですら倒せなかった“幻獣”。


(……難易度、高すぎだろ)


悠斗の胸に、

新たな緊張が、重くのしかかる。




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