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弁護士は、現代社会に暮らす、悲しみを抱いた魔女達を救いたい  作者: れさ
第三章 信じる心と過去の罪

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――第4話 調査委員会からの依頼――

東條に案内され、悠斗たちは二階の客間へ通された。


TIMMA日本支部の二階にあるその客間は、

公的施設らしい簡素さと、来客を迎えるための落ち着きを併せ持った空間だった。


部屋は長方形で、天井はやや高い。

一面に設けられた大きな窓が、外の林を切り取るように景色を取り込み、

直射日光を避けた柔らかな自然光が室内に広がっている。


床は落ち着いた色合いの木材。

壁は白を基調としているが、ところどころに木目のパネルが使われ、

無機質になりすぎないよう配慮されていた。


中央には低めのテーブルが置かれ、

その周囲に、ゆったりとしたソファが向かい合う形で配置されている。

柔らかすぎず、長時間座っても疲れにくそうな造りだ。


壁際には簡素な書棚とサイドボード。

装飾品はほとんどなく、並んでいるのは資料ファイルと、

来客用の湯飲みやティーカップ程度だった。


空調の音はほとんど感じられず、

人の声が自然と落ち着く静けさがある。


正式な場に入る前、

あるいは一段落ついた後に話をするための場所――

そんな位置づけの部屋だと、ひと目で分かる空間だった。


部屋に入ると、すでに一人の男がソファに腰を掛け、悠斗たちを待っていた。


「初めまして、真神さん」


三十代前半ほどの男だった。

背は高すぎず低すぎず、姿勢がいい。

黒に近いスーツをきちんと着こなしているが、目立つ装飾はない。

髪は短く整えられ、表情は穏やかだ。


一見すると物腰の柔らかい人物だが、

目だけは常に相手を観察しているような静けさを帯びていた。


「私は調査委員会の委員長を務めております。

伊藤祐樹いとうゆうきと申します。よろしくお願いいたします」


そう言って、名刺を差し出してくる。


「僕は、一応ですが弁護士の真神と申します。

いろいろありまして、今は調査委員会には――

とりあえずオブザーバーという形で参加できればと考えています」


「ええ、かまいませんよ」


即答だった。


「調査委員会は、いつでも人手不足です。

真神様が協力してくださるのであれば、大変ありがたい」


それから、伊藤は少し表情を改めて続けた。


「それと……結乃さん。

ご両親のことは伺っております。ご冥福をお祈りいたします」


そう言って、深々と頭を下げる。


結乃は、特に何も言わず、

ぺこりと軽く頭を下げるだけだった。


(……?)


悠斗は、その反応に小さな違和感を覚える。


(結乃は……TIMMAの職員と、あまり仲が良くないのか?)


「それで……」


伊藤は視線を戻し、悠斗を見る。


「真神さんは、リネア使いだと所長から聞いていますが?」


その目が、わずかに鋭さを帯びる。


「ええ。一応。

それと……この子もです」


そう言って、悠斗はエウラの背中を、とん、と軽く押した。


「おっとと」


エウラがよろける。


「……その子は?」


伊藤は怪訝そうに、エウラを見つめる。


「“日”のリネア使い、エウラです」


「……」


「……」


伊藤と――ついでに東條も、言葉を失う。


一拍、間が空いた。


「「どえーーーーーーーー!?」」


二人の叫びが、二階の客間に響き渡った。


※※※


少し落ち着いた伊藤と東條、

そしてエウラ、結乃、祈、悠斗は、

テーブルを囲むようにして腰を下ろした。


「……真神さん。

その、本当に……その子が“日”なのですか?」


伊藤は恐る恐る、エウラのほうを見る。


当のエウラは、

差し出されたジュースをストローでちゅー、と吸っていた。


「ええ。話せば長くなりますが、そうです」


悠斗は頷く。


「僕がTIMMAに所属すると決めたのも、

この子の存在が大きいですね」


「ふむ……」


伊藤は顎に手を当て、少し考える素振りを見せる。


「分かりました。

そちらの事情については、深く追及しません」


そう前置きして、穏やかに続けた。


「TIMMAは基本的に、相互扶助の組織ですから」


それで、と伊藤は話題を切り替える。


「なぜ、調査委員会に?」


「“黒涙”について調べようと思っています」


その言葉に、東條がうーん、と唸る。


「黒涙……久我家の秘宝ですね。

藍との因縁の火種になっているとか、なんとか」


「ええ」


悠斗は肯定する。


「黒涙の発生原因と、発生場所。

その二点を重点的に調査したい」


そして、はっきりと言った。


「そのために、ご協力をお願いしたいのです」


「ええ。それはもちろん、かまいません」


伊藤は即答する。


ただし、と少し申し訳なさそうに眉を寄せた。


「こちらも、調査対象が多くてですね。

正直なところ、人手が足りていないのも事実です」


「真神さんたちにも、

こちらの調査に協力していただくことになると思いますが……

よろしいでしょうか」


悠斗は一瞬だけ考え、すぐに頷いた。


「それは……当然ですね。

ええ、構いません。協力しましょう」


伊藤は、にこりと微笑む。


「ありがとうございます。

これから、どうぞよろしくお願いいたします」


「こちらこそ」


そう言って、二人は軽く握手を交わした。


※※※


「じゃあ、僕はこれで」


そう言って、東條は席を立ち、客間を後にした。


扉が閉まると、

伊藤が改めて口を開く。


「真神さん。

実は私たちが、今まさに進行形で追っている“事件”があるんです」


(……いきなりだな)


悠斗は内心そう思いながらも、表情には出さない。


「なんですか?」


伊藤は一拍置き、重々しく言った。


「今、このTIMMA日本支部が置かれている銀沢市――

その市長が、どなたかご存じですか?」


「ええと……」


悠斗が考え込むより早く、結乃が答える。


斎藤宗利さいとうむねとしですね」


「え?」


伊藤が少し驚いた顔をする。


「よく知ってるね」


「その人の長女が、

私の学校の一個先輩にいるんです」


「ああ、なるほど」


悠斗は小さく納得する。


伊藤は説明を続けた。


「斎藤宗利氏は、去年の十月に初当選したばかりの新人市長です。

若く行動力があり、就任からまだ四か月ほどですが、

かなり積極的に改革を進めている」


「地方創生、財政改善、宗教整理、

それに癒着企業との関係整理……」


結乃が補足する。


「動きが激しい分、反発も相当大きいそうです」


「そうです」


伊藤は頷いた。


「なお、斎藤市長とTIMMAは、

現在、協力関係にあります」


「えっ?」


悠斗は思わず声を上げる。


「まあ……行政と協力しなければ、

私たちも動けませんからね」


伊藤は苦笑する。


それから、本題に入った。


「そこで――

斎藤宗利氏の娘さん、

斎藤美沙さいとうみささんについて、

ご相談があるんです」


(さっき、結乃が言ってた……)

聖嶺高校三年生の、あの子か。


「今年に入ってから、

最近、誰かに付きまとわれているという報告がありまして」


ストーカー被害――

そんな言葉が、悠斗の頭に浮かぶ。


「それは……TIMMAの仕事なんですか?」


悠斗はすかさず問い返す。


「いえ。それだけなら、まだいいんですが……

どうも、術理をかけられているようなんです」


「どういう?」


結乃が短く聞く。


「分かりません。

ただし、美沙さん本人の身体に直接的な影響は出ていない」


伊藤は淡々と続ける。


「ですが、身に着けている電子機器類が、

たびたび機器不良を起こすそうです。

スマートフォンの電源が入らなくなったり、

腕時計が突然止まったり」


「……あと、手紙が届くそうなんです」


「手紙?」


悠斗が眉をひそめる。


「ええ。

美沙さんの家の家具の配置、

押し入れにしまってある、誰にも見せていない恋文、

美沙さん以外、外部の人間が知るはずのない情報が

書かれた手紙です」


「住居侵入の可能性は?」


「ないそうです」


伊藤は首を振る。


「現職市長の家ですからね。

防犯カメラもSPも付いています。

監視カメラの設置どころか、

侵入者の形跡すら確認されていません」


「そのせいで、美沙さんはかなり参っているようです」


「それで、市長からTIMMAに調査依頼が来た、

というわけですね」


「その通りです」


悠斗は小さく頷く。


「それで……何か分かったんですか?」


「いえ」


伊藤は、あっさりと答えた。


「市長からの依頼ですから、

こちらも気合を入れて調査したんですが……

これが、なーんにも異常が見つからない」


そう言って、両手を上げて降参のポーズを取る。


「術理士の専門家が集まって、原因不明。

本来、あり得ない状況です」


そこで、と伊藤は身を乗り出した。


「リネア使いである真神さん。

そして、到達不可能とされた“魔法”を扱う結乃さんに、

ぜひ調べていただきたい――というわけです」


結乃は、不機嫌そうに足を組む。


「私、調査委員会所属じゃないんですけど」


「あちゃー……」


伊藤は、分かりやすく残念そうな顔をした。


「僕が“協力してほしい”って言ったら、

協力してくれるかい? 結乃」


「え、ええ……いいわよ」


結乃は、少し顔を赤らめながら答える。


「祈。

結乃って、いつもあんなにちょろいの?」


エウラが首をかしげて聞く。


「ええ。

真神様にかかれば、結乃様はいちころです」


「……エウラにだけは言われたくないわ」


結乃は、冷静に言い返した。


それから、少しだけ真面目な声になる。


「まあ……

私の学校の生徒が、そんな目に遭ってるって聞いたら、

放ってはおけないわ」


伊藤の目が、ぱっと輝く。


「本当ですか?

いやあ、うれしいなあ。さすが結乃さんです」


(こいつ……)


(最初から、私が協力するって分かってて、

同席させたわね)


(食えない男……)


「こちらが、斎藤宗利さんの連絡先です」


そう言って、伊藤はメモを差し出す。


「宗利さんには、

真神さんから連絡があることを伝えておきます。

日程を合わせて、一度会ってみてください」


「何か分かるかもしれません」


「分かりました」


悠斗は受け取り、頷く。


「協力すると言った以上、

できることがあれば力になります。

その代わり……黒涙の情報収集の件、

よろしくお願いしますね」


伊藤は、にこりと笑った。


「ええ。こちらこそ」


こうして――

銀沢市市長からの依頼を、

悠斗たちは正式に引き受けることになった。



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