――第14話 たどり着いた先で――
街が完全に破壊され、
人々の叫び声がすべて消え去っても、
エウラは歩き続けた。
王国が滅んだところで、
彼女に行く先などなかった。
死なない自分にとって、
“国”という概念そのものが、
どこか現実味を欠いたものだった。
どの方角へ向かっているのかも分からない。
ただ森を抜け、山を抜け、
風に押されるまま、
流されるように進んでいく。
そして――
気づけば彼女は、
ひとつの小さな農村へ足を踏み入れていた。
ベクトリア王国の片隅にある、
“リルム”という村。
王都の石造りの街とはまるで違う。
見渡す限りの麦畑、
低く素朴な木造の家々。
どこか懐かしく、
穏やかな空気が流れている場所だった。
エウラは村の入り口で立ち止まる。
足元は泥に汚れ、
衣服は破れ、
乾いた血が黒くこびりついている。
髪は絡まり、
顔色には生気がほとんど残っていない。
――どう見ても、異様な姿だった。
それでも。
「ねえ、なにをしてるの?」
透明な声が、
静かな空気を揺らした。
振り返ると、
そこにはひとりの少女が立っていた。
麦の穂のように柔らかな金髪。
あどけない笑顔。
年齢は、エウラとほとんど変わらない。
少女は、
エウラを怖がる様子など、
微塵も見せていなかった。
「私はルイス。あなたは?」
その問いかけに、
エウラは思わず息を飲んだ。
――名前を、聞かれた。
番号ではなく。
命令でもなく。
確認でもなく。
ただ、“名前”として。
「……ごばん、じゃなくて……」
言いかけて、止まる。
喉の奥で、古い呼び名が引っかかった。
「……えっと……たしか……エウラ……」
不確かで、頼りない声だった。
「エウラちゃんね!」
ルイスは、迷いなくそう言って、
にこっと笑った。
「いい名前だよ!」
その笑顔は、
世界に積み重なってきた暴力や死を、
最初から知らないかのように明るかった。
拒絶でも、警戒でもない。
ただの、まっすぐな好意。
「行くところ、ないんだよね?」
当たり前のように続ける。
「だったら、うち来てみる?
お父さんとお母さんに相談してみるよ!」
あまりにも軽やかで、
自然で、
疑うという概念そのものが存在しない声だった。
エウラは――
なぜか、考える前にうなずいていた。
理由は分からない。
信じていいのかも分からない。
それでも。
その瞬間だけ、
“拒まれなかった”という事実が、
胸の奥で、静かに、確かに残っていた。




