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弁護士は、現代社会に暮らす、悲しみを抱いた魔女達を救いたい  作者: れさ
第二章 最古の魔女と呼ばれし者

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――第8話 原初の魔法使い――

1週間の生活は、驚くほど単純だった。


小屋のまわりで採れる山菜。

わずかな保存食。

川から汲んだ水。

それらを使って、質素な食事を作る。


悠斗は、リハビリを兼ねて、少しずつ歩く練習をし、

エウラは、珍しく甲斐甲斐しく世話を焼いた。


危険も、緊張も、

完全になくなったわけではない。


それでも――

この1週間は、妙に穏やかだった。


そして、この日。


昼食の鍋を、二人でつつきながら、

悠斗は、ずっと胸の奥に引っかかっていた問いを、

ついに口にした。


「なあ、エウラ。

君のリネアって、どんな能力なんだ?」


一瞬、言葉を選び――

続ける。


「……もうそろそろ、

教えてもらってもいいだろ?」


エウラは、

やれやれ、とでも言いたげに肩をすくめると、

ぴっと人差し指を立てた。


「私のリネアはね――

“死”をトリガーにするのよ!」


「……死?」


あまりにも物騒な単語に、

悠斗は思わず言葉を詰まらせた。


「死ぬ、ってことか?

だとしたら……」


思考を整理するように、言葉をつなぐ。


「君のリネアは、一度しか発動しないはずだ。

それなのに、

君のリネアは何度も確認されている」


顎に手を当て、少し考え込み――


やがて、ゆっくりと結論に辿り着く。


「つまり、エウラ。

君は……不死?」


一拍置いて、続ける。


「いや。

何百年も生きているなら……

不老不死、か」


「だいせいかーーい!」


エウラは、満面の笑みで、

小さな手をぱちぱちと打ち鳴らした。


「君は、死ぬことによってリネアを発現し、

死ぬたびに蘇生する。

そして、その回数に上限はない」


悠斗は、ひとつずつ確認するように言葉を重ねる。


「さらに、被害状況から考えると……

君のリネアは

“生き物の思考能力の剥奪”

――そんなところだろう?」


一瞬、視線を落とし、続けた。


「人間だけじゃない。

あの熊にも効いていた。

つまり、

ある程度の知性を持つ生命体なら、すべてが対象になる」


「すごい、すごーい!」


エウラは、心底楽しそうに笑った。

ぱちぱち、と小さな手を打ち鳴らす。


「ほとんど正解よ。

さすが、よく見てるわね」


だが――

悠斗は、そこで止まらなかった。


「ただ……」


声の調子を、わずかに落とす。


「“生き返る”能力については、

それ……

リネアの力じゃないだろ?」


その瞬間。

ぱちぱちと鳴っていた手が、

ぴたり、と止まった。


満面の笑みは、崩れない。


けれど、その奥に――

何かが、静かに滲み出す。


期待。


しかし、それは

無邪気なものではない。

もっと薄暗く、

内側からじわりと湧き上がるような、

歪んだ喜色だった。


「……どうして、そう思うのかしら?」


「リネアの力は、

“理”に干渉する力だと言われている」


悠斗は、感情を挟まずに言葉を並べた。


「世界のルールに触れられる。

けれど、その本質は――

他者への干渉だ」


一度、息を置いて続ける。


「でも、不死性は違う。

それは、“自分自身”への干渉だ」


「確かに、

術理によって肉体を改造し、

不死に近い状態を得たリネア使いは存在する」


「けれど、それは必ず、

外部からの介入――

他者の術理によって成立している」


悠斗は、淡々と断じた。


「にもかかわらず、君の不死は違う。

原初の状態で、成立している」


視線を上げ、エウラを見る。


「最古のリネア使いと呼ばれている君が、

生まれながらに不死であるという事実は……」


「卵が先か、鶏が先か、

そんな循環論の話じゃない」


「――根幹が、違うんだ」


一拍。


すると、エウラが楽しそうに問い返した。


「じゃあ……

私の“不死”は、どこから来てると思う?」


人差し指を顎に当て、

身を乗り出す。


蒼色の瞳は、

もはや無邪気さを装っていない。


それは完全に――

“捕食者”の眼だった。


悠斗は、その“可能性”を、迷わず口にした。


「――“魔法”だ」


「……ん?」


「君のその力は、リネアじゃない。

魔法によるものだと推測する」


一拍置いて、続ける。


「ある家系の秘術を学んだことがあってね。

正確には……

“遺言”に近いものだけど」


「その家系は、

リネアではなく、

“魔法”を目指していた」


「“自分自身への干渉”を可能にする、

唯一の理」


「リネアの外側にある概念。

世界の理から逸脱した――

“外の理”だ」


悠斗は、はっきりと言い切った。


「君の不死性は、

リネアのルールと一致していない」


「というより――

リネアのルールの外側にある性質だ」


静かに、結論を置く。


「つまり君は、

最古のリネア使いであると同時に……」


一瞬、間を置き。


「”原初の魔法使い”なんじゃないかな」


「――――面白い説ね」


エウラは、笑っていなかった。


ただ、


燃えるような興味の色を宿した瞳で、

まっすぐに、悠斗を見つめている。


そして――

ごく自然に、こう続けた。


「――――であるならば」


「どうやったら、

“私を殺す”ことができるのかしら?」


その声には、

ほんのわずかだが、

確かに――“期待”の色が混じっていた。


エウラが、

死を恐れていないことは、悠斗にも分かっている。


だが、この問いは違う。


おそらく彼女自身、

“永遠”という状態に、

とうの昔に疲れ果てているのだろう。


あるいは――

終わりを持たないという事実そのものが、

彼女を、長い年月の中で、

少しずつ狂わせ続けてきたのかもしれない。


悠斗は、目を逸らさず、

正直に答えた。


「それは……分からない」


「……がっくしだわ」


エウラは、心底残念そうに肩を落とした。


(……なんで、そんな顔をするんだ?)


悠斗は思わず眉をひそめる。


どう見ても――

死にたがっているとしか思えない少女。


けれど、エウラはすぐに顔を上げた。


ふっと、

まるで冗談が外れただけだと言わんばかりに、

軽く笑う。


そして何事もなかったかのように、

鍋の中を覗き込んだ。


「にんじん、柔らかくなってるわ。

そろそろ食べ頃よ」


その声音は、あまりにも穏やかだった、


悠斗はなぜか、

胸の奥を小さく掴まれたような感覚を覚えた。


(……この子は、本当に)


今まで、何を抱えて、生きてきたのだろうか。


答えは、

まだ鍋の湯気の向こう側にある。


そんな気がした。



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