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弁護士は、現代社会に暮らす、悲しみを抱いた魔女達を救いたい  作者: れさ
第一章 世界の裏側に触れた日

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――第24話 開幕の鐘――


「そこまでよ」


凛とした声が、空気を切り裂いた。

赤茶色の長い髪が、ふわりと宙を舞う。

次の瞬間、水野が――藍と結乃のあいだに、静かに立っていた。


「水野……!」


結乃は、思わず声を上げる。

なぜ彼女が、ここにいる?

それも――まるで当然のように、藍を制する位置に。


藍は一瞬、言葉を失った。


整った顔に、わずかな怪訝さが浮かぶ。

じっと、水野を見つめる。


「……君は」


記憶の奥を探るように、目を細めて。


「どこかで、会ったことがあるかい?」


水野は、肩をすくめて答えた。


「さあね。私、記憶力が悪くてさ。

 百年以上前のことは、あんまり覚えてないんだ」


「……」


藍の表情が、わずかに引き締まる。


その瞬間だった。


さあ、と――


水野の足元から、淡い青の霧が立ちのぼる。


森の空気が変わる。

湿り気を帯びた冷気が、肌にまとわりつく。


「……っ!」


藍は、はっきりと何かを悟った。


「き、貴様……その青い霧」


視線が、空間全体をなぞる。


「そうか。この空間そのものが――」


低く息を吐く。


「最初から、私に有利な環境が整えられていると分かっていたが……」


唇を歪め、問い詰める。


「そこまでお膳立てして――

 魔法を、見たかったのか?」


一拍置いて、視線を結乃へ投げる。


「それとも……

 そこの小僧を、助けたかったのか?」


「……」


水野は答えない。


ただ、不敵な笑みを浮かべたまま、沈黙する。


「――答えろ」


「――【アクア】の」


藍の声が、かすかに震えた。


「リネア使い……」


言葉を選ぶように、喉を鳴らす。


水主みずし――

 霧羽乃命きりはのみこと……!」


※※※


……。


沈黙が、しばらく流れた。


その張り詰めた空気を、まるで意に介さず――

水野は軽く肩をすくめて言った。


「その名はやめてくれよ。古臭くて、あんまり好きじゃないんだ」


青い霧の中で、彼女は気楽に笑う。


「今は――水野洋子で通ってる」


ふん、と。

藍は鼻を鳴らした。


「吸血鬼め。

 ずいぶんと……人間らしく振る舞っているじゃないか」


その言葉と同時に、藍の瞳に――

これまで浮かぶことのなかった感情が、はっきりと宿った。


苛立ちか。

それとも、懐かしさか。

あるいは――

消しきれなかった恐怖か。


「消えろ。今回は見逃してやる」


藍は、冷たく言い放った。


「悪いが――君の出番は、もう終わりだ」


水野は即座に言い返す。


「消えるのは、君の方だよ」


一瞬の間。


「……いや、助かった」


水野は、くすりと笑った。


「私の予想どおりに動いてくれてね。

 君は本当に、行動原理が分かりやすい」


ははっ、と軽く笑い飛ばす。


そして、まるで厄介な虫でも追い払うかのように、

しっし、と手を振って見せた。


「では――」


一拍。


「死ね」


藍は、感情の温度を感じさせない声で言い放った。


「結乃ちゃん!」


水野の叫びが、森を裂く。


「――っ!」


突然名を呼ばれ、結乃は息を呑んだ。


「この空間の縛りは、解除した!」


水野の声は鋭い。


「転移術で――三人まとめて帰りな!」


間髪入れず、畳みかける。


「早く!」


一瞬、言葉が切れる。


「死ぬよ!」


「――無為むい……」


藍は、すでに詠唱に入っていた。


空気が、わずかに歪む。

それに呼応するように、水野も口を開く。


水霧すいむ……渇餓かつが……」


二つの力が、衝突寸前まで高まる。


「祈! 先生を!」


結乃の叫びが走った。

祈は迷わない。

悠斗が握っていた転移石に刻まれた術式を――強制発動させる。


かっ――!


白い閃光が弾け、三人の視界を塗り潰す。


次の瞬間。


しゅん、と空気が抜ける音。


世界が裏返り――

三人の姿は、虚構の果てへと消えていった。

我が家である久我家の屋敷へと向かうために。


転移が終わる、その刹那。


「――無為停流むいていりゅう!!!!」

「――水霧渇餓呑滅すいむ・かつが・どんめつ


ほぼ同時に、二人はリネアの真名を解き放った。


人ならざる者たちの力が、世界の境界で激突する。

その衝突は、やがて後世に語り継がれることになるだろう。


――リネア同士が正面衝突し、歴史的転換点と位置づけられる事件として。


2026年1月1日 0時32分。


新しい年の始まりとともに、

術理士たちの教科書には、新たな一行が刻まれた。


それは、始まりを告げる記録だったのか。


それとも、終わりへの予兆だったのか。


この出来事は、まだ――

これから始まる激動の人類史において、

鳴り響いた“開幕の鐘”に過ぎなかった。


一帯は、ブラックホールと濃霧に包まれ、

その内側に存在したすべてのものを――


完全に、“消滅”させた。


________________________________________

第1章 完



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