――第2話 隠されている謎――
──仕事を受任して、数日後。
悠斗は各種書類に目を通していた。
いつも通りの案件のはずだった。
しかし、ふと手が止まる。
(……おかしい)
戸籍を遡る。
両親の欄に記された記録──
久我正義 死亡日:推定2025年10月28日
久我成子 死亡日:推定2025年10月28日
ともに38歳。同日死亡。
一瞬、偶然だろうと思った。
だが、その上の世代を確認すると、
正義方の祖父母。
死亡時年齢、41歳と35歳。
死亡日、同日。
成子方の祖父母。
死亡時年齢、46歳と36歳。
こちらも、同日死亡。
嫌な予感を振り払うように、さらにページをめくる。
その前の代も、さらにその前の代も——。
同じ日。
同じような年齢。
悠斗は、書類から視線を外し、思わず深く息を吐いた。
「……50歳まで生きた人が……一人もいない……?
それに、“推定”……か」
静まり返った事務所に、低い独り言だけが落ちた。
戸籍に記載される"推定"という言葉は、
孤独死や災害などにより、
具体的な死亡日時を特定できない場合に用いられる表現だ。
結乃の両親は同居しているはず。
高校生の一人娘を残して、そろって死亡日時不詳になる状況は、あまりに不自然だった。
考えられる可能性は限られている。
両親が旅行中、仕事中の事故。
それとも――誘拐。殺人。
胸の奥に、嫌な冷たさが広がる。
これを、単なる偶然の事故として片付けるには、無理がありすぎた。
しかも、さらに奇妙なのは——
久我家は総資産が数百億にも及ぶにもかかわらず、
毎代、相続人は必ず一人に限定されていることだった。
戸籍を遡っても、血縁関係はことごとく整理され尽くしている。
家系図は不自然なほど“綺麗”だった。
(こんな整った相続関係……逆におかしい)
資産規模を考えれば、
大量の親族がいても不思議ではない。
争いが起きない方が、よほど珍しい。
それなのに——誰もいない。
そして、どの代も例外なく、40代前後で死亡している。
偶然と片づけるには、あまりにも揃いすぎていた。
(……明らかに、何かを隠している)
悠斗はペンを指先で転がしながら、思考を巡らせる。
職業柄、怪しい案件には慣れているつもりだった。
だが、これはその中でも群を抜いて異質だ。
(……この家には、確実に“何か”がある。
結乃が、たった一人で背負ってきたこの重荷は、一般家庭で育った自分には想像も及ばない。)
書類を閉じながら、悠斗は小さくつぶやいた。
「……奇妙だ。本当に奇妙すぎる」




