太陽みたいな友達
僕のこと「狙ってる」って言う人がいて、どうしようって思ってたら、木綿花ちゃんが僕のために怒ってくれたって聞いたんだ。
すっごく嬉しかった!
僕には、太陽みたいに明るくて、優しい友達がいるんだ。
穏やかな朝と、小さな波紋
昨日のお母さんとお姉ちゃんの温かいサポートのおかげで、玲央の心はいくらか元気を取り戻していた。今日も頑張ろう。そう心に決めて、少しだけ早めに家を出る。
「おはよーございまーす!」
悠斗の家の玄関先で声をかけると、エプロン姿の悠斗のお母さんが出てきた。
「あら、玲央ちゃん、おはよう!って、まあ!セーラー服!すっごく似合うじゃない!悠斗に聞いてるわよ、悠斗、照れて大変だったんだから。玲央ちゃん、ほんと可愛いわねぇ!」
玲央の制服姿を初めて見た悠斗のお母さんは、手放しで絶賛してくれる。少し面白い人で、隣に立っている悠斗の腕を叩きながら言った。
「もう、悠斗のお嫁さんに来てくださらない?」
「母さん、朝からやめてって!」
悠斗が真っ赤になって制する一幕に、玲央はなんだか可笑しくなって、くすくすと笑って見ていた。
二人で並んで学校へ向かう。悠斗の横顔を盗み見ると、まだ少し頬に赤みがさしているのに気づいた。
「なんだ、悠斗。もしかして、僕の格好にまだ照れてるの?」
「なっ、何でもないよ!」
ぷい、とそっぽを向いてはぐらかす悠斗。そのやり取りが、昔と何も変わらなくて嬉しい。それからは、学校のことや、悠斗がバスケ部に入りたいと思っていることなどをたのしく話して、あっという間に教室に着く。
玲央は、昨日の美優さんや環さんのことは、悠斗には話さないでおいた。もし今日からも何か嫌なことがあれば、悠斗はきっと僕を助けようとしてくれるだろう。でも、それは悠斗が自分で見て、感じた通りにサポートしてくれたら、それが一番嬉しい。そう思ったから。
教室に着くと、心配していたような昨日の重たい空気はぜんぜんない。木綿花ちゃんや彩花ちゃんとも「おはよー」と挨拶を交わし、始業までの時間は悠斗と他愛ないおしゃべりをして、穏やかに過ごすことができた。
だが、お昼休み。ちょっとした出来事から、事態は進展していく。
クラスメイトの男子たちが、悠斗の席を取り囲んでいた。その中心にいる、少しガタイのいい藤沢という男子の声が、やけに大きく響いた。
「なぁ、野々村。お前、水沢とどういう関係なんだよ。俺、水沢のこと、本気で狙ってんだけど」
わざとじゃないのかもしれないが、その声は玲央の耳に、そして間違いなく教室の後ろにいる美優さんや環さんにも届いているはずだ。
(うわ、何かいやな感じの話し方……。悠斗も気の毒だし、きっと田中さんたちが僕に対して嫌な気持ちになるよね。やめてほしいなぁ)
玲央が固まっていると、悠斗が藤沢の言葉を遮った。
「玲央とは、小さい頃からの親友だよ。だからあいつのことよく知ってるけど、そんなデリカシーのない言い方する奴のこと、どう思うか分かるぜ。本気であいつと仲良くなりたいんなら、もっと普通に接しろよ」
「な、なんだよ、説教かよ」藤沢は言葉に詰まったが、すぐにニヤリと笑う。「まあ、野々村があいつと付き合ってないんなら良かったよ。つまり、俺にもチャンスありってことで」
最後まで、少し嫌な感じの言い方を残していく。
玲央は昨日のお姉ちゃんの「目立ちすぎ」という言葉を思い出した。自分の名前で、周りが騒がしくなる。自分に向けられた会話ではないから、なすすべもなく、ただその気まずい時間が過ぎるのを待つことしかできなかった。
友達の反論
木綿花と彩花が玲央の席に来てくれた。
「玲央ちゃん、なんか嫌だったね、今の。気分転換に、ちょっと外、出よ?」
玲央は二人の優しい勧めに頷き、一緒に廊下へ出た。そこで、木綿花が少しだけ真剣な顔で切り出した。
「あのね、玲央ちゃん。朝、玲央ちゃんがまだ学校に来てない時にね、ちょっとあったんだよ」
「えっ?」
「田中さんと田代さんが、玲央ちゃんの悪口みたいなことを言ってて……。わたし、我慢できなくて、反論しちゃった」
「反論……したの?」玲央は、驚いて目を見開いた。
「木綿花、すごかったんだよ。なんか、かっこよかった」彩花が、興奮気味に付け加える。「あのね、二人が玲央ちゃんのこと……その、『気持ち悪い』って言ってたの」
「うん、それは分かるよ。昨日、直接言われたから」 玲央が静かに応じると、彩花はさらに続けた。
「なんか、言いがかりばっかりで、全然ほんとのことじゃないって感じだったから……。そしたら、木綿花がね、二人の前にすっくと立って、こう言ったの」
『玲央ちゃんのこと、何も知らないくせに、適当なことばっかり言わないで!』
『わたし、玲央ちゃんと親友になってそんなに経ってないけど、玲央ちゃんはすごくいい子だよ。人のこと、絶対に悪く言わないし。だから、話しててすごく気持ちいいの。二人も、一回玲央ちゃんとおしゃべりしてみなよ。絶対、好きになるって!』
「……ありがとう。木綿花ちゃん、そんなに、僕のこと良く言ってくれたんだ」 玲央の目頭が熱くなる。木綿花は、少し照れくさそうに「親友なら、当然だよ」と言った。その強さに、玲央は衝撃を受けた。
「すごいよ……。僕も、木綿花ちゃんみたいになりたい」
「えーーっ!?わたしこそだよ!玲央ちゃんみたいに、こんなにかわいくなれたら、幸せすぎてどうしようって感じだよ!」 木綿花の言葉に、今度は玲央の顔が熱くなった。
的はずれな「反論」
「あ、そうだ」彩花が思い出したように言った。「5時間目は体育だね。先生が許可してくれたから、多目的トイレで着替えよう。その分、少し早くいかなくちゃね。遠いし」
「だね。でも、なんだか楽しみだな。みんなでお着換え」
玲央が素直にそう言うと、木綿花が「かわいい……」と小さく突っ込んだ。
5時間目の体育の授業を前に、玲央と木綿花、彩花の三人は連れ立って、教室から少し離れた多目的トイレへと向かった。がらんと広い空間は、本来の女子更衣室の賑わいとは無縁で、少しだけ寂しいけれど、三人だけの秘密基地のようでもあった。
「じゃ、着替えよっか」
木綿花の声に合わせて、三人はそれぞれセーラー服のブラウスに手をかける。玲央も、少しだけ緊張しながら、サイドのファスナーをそっと下ろした。
ブラウスを脱ぎ、ハンガーにかけようとしている、その瞬間。木綿花と彩花の視線が、玲央の上半身に注がれていることに気づいた。
「わ……」
「玲央ちゃん、それ……」
二人が見つめていたのは、玲央が身に着けているキャミソールだった。お母さんが「これなら、体育の時にもいいわね」と選んでくれた、清らかな白。つやつやとしたすこし光沢のある滑らかな生地で、華奢な肩から伸びるストラップは、レースのように繊細だ。胸の部分には、柔らかなカップが内蔵されており、まだささやかな玲央の体のふくらみを、優しく包み込んでいる。そのデザインは、玲央の線の細いシルエットを、驚くほど可憐に見せていた。
玲央自身は、自分のが特に可愛いデザインだとか、そういうことは全く分からなかった。だが、二人の感嘆の声で、それが特別なものであることを知る。
「玲央ちゃん、そのキャミソール、めっちゃ綺麗!なんか、大人っぽくて、すごく素敵!」
「ほんと……。デザインが繊細で、玲央ちゃんの華奢な感じが、もっと引き立つね。すごく似合ってる」
「いいなー、それどこの?今度教えて!」
次から次へと飛んでくる誉め言葉に、玲央の顔は見る見るうちに熱くなっていく。
「そ、そんなことないよ!普通のやつだって……!もう、二人とも、やめてってばぁ!」 恥ずかしくて、玲央は両手で顔を覆ってしまった。
そんな玲央の姿を見て、木綿花が「あ!」と何かを思い出したように手を叩いた。
「そうそう!朝、田中さんと田代さんにはカッとなっちゃって言えなかったんだけど、本当はこう言いたかったんだった!」 木綿花は、にっと笑う。
「『あんたたち、玲央ちゃんが可愛いから嫉妬してんでしょ!』ってね。いまの玲央ちゃん見てたら、思い出しちゃった」 そのストレートな言葉に、玲央はもう何も言えなくなってしまう。そして、しどろもどろに言葉を返した。
「で、でも……木綿花ちゃんも彩花ちゃんも、すっごく可愛いのに……。僕、それをいつ言えばいいのか、反論するタイミングが分からなくて……」
「え?」
一瞬きょとんとした木綿花は、次の瞬間、お腹を抱えて笑い出した。
「『可愛い』って、反論なの!?あはは!玲央ちゃん、面白すぎ!」
その突っ込みに、玲央は自分がとんでもなく的はずれなことを言ったのだとようやく悟る。二人の楽しそうな笑い声に包まれて、玲央は完敗を認め、ただただ顔を真っ赤にするしかなかった。
その日は、木綿花と彩花という、太陽みたいに明るくて強い味方がいてくれたおかげで、玲央はとても幸せな気分で下校時間まで過ごすことができた。二人の友情に、玲央は心の中で何度も「ありがとう」と繰り返した。
帰宅して、おかあさんに、キャミソールのこと、大人っぽいって言われた。これで良かったの?と気にかかっていることを聞くが、おねえちゃんが、玲央が着たからだよ。玲央はそれぐらい美人!かわいい!って色々言い出して、何か全然分からなかった。校則違反ではないということで、これからも着ることになったけど、おねえちゃんが、「もっと攻めろ」とかわけわかんないこと言い出して、今度こういう相談するときはおかあさんだけのときにしようと、誓う玲央だった。




