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玲央のカラフル・デイズ  作者: ぺへほぽ
第1章:はじまりの季節と、私の選択
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悪意の棘

やっと少しだけ慣れてきたと思ったのに…。


『気持ち悪い』って、そんなふうに思われてたなんて、知らなかった。


頭が真っ白で、何も考えられないよ…。


僕、何か悪いことしちゃったのかな…?

教室での対立

LHRが終わり、教室がにわかに騒がしくなる。生徒たちは三々五々、帰宅の準備を始めていた。玲央は一人、自分の席でじっと動けずにいた。さっきクラスの前で話した自分の声が、まだ耳の奥で反響しているようだ。重たい空気に押しつぶされそうになっていると、木綿花が心配そうに駆け寄ってきてくれた。


「玲央ちゃん、なんか……大変だったね。大丈夫?わたし、絶対に玲央ちゃんの味方だからね」


その言葉は嬉しかった。嬉しかったけれど、なぜか玲央の心は晴れなかった。まるで分厚い雲が、心の上を覆ってしまったみたいだった。


木綿花や彩花が下校しても、玲央はまだそのまま席から立てずにいると、すぐ近くで、聞きたくない話し声が耳に届いた。


「よく堂々とあんな恥ずかしいこと話せるよね。気持ち悪いったら」 田中美優さんの声だ。


「ほんとそれ。野々村(悠斗)に早速色目使っててさ、信じらんない」 田代環さんが、吐き捨てるように言う。


玲央は「えっ?」と息をのんだ。色目なんて、そんなつもりじゃ……。


このまま黙って俯いていたら、自分の中の何かが壊れてしまう気がした。玲央は意を決して顔を上げ、二人の方をまっすぐに見た。

「田中さんと、田代さん?……僕のこと、だよね」


美優さんが、挑戦的な視線で玲央を睨みつける。


「そうだよ。今日あんた見てて、すっごく気持ち悪かったんだけど。何、あの我が物顔。恥ずかしいこと次から次へって、マジでびっくりする」


「そうだったんだ……」 玲央は、こみ上げてくる感情を必死に抑え、言葉を続けた。


「ごめん。僕、LHRの時も言ったけど、まだ女子として生活する常識とか、よく分かってなくて……」

挿絵(By みてみん)

「はぁ?そういう問題じゃないし」環さんが、心底うんざりしたという顔で言う。「てか、水沢みたいなのがクラスにいると、こっちが気持ち悪くて落ち着かないんだよ。なんで女に変わろうとかしたわけ?」


「女に変わったっていうか……」玲央は、自分の心を伝えるために、必死で言葉を探した。


「自分はもともと女子だったって分かって、僕だって、どうしようってすごく悩んだよ。でも、その時一生懸命考えて、これが本当の自分なんだから、もともとの女っていう性別を、これからはちゃんと生きようって思っただけなんだ。だから、みんなから見たら見た目が急に変わったように見えるかもしれないけど、僕の気持ちとしては、やっと正しいところに戻ってこられた、っていう感じなんだ」


「ふーん」美優さんは鼻で笑った。「じゃあ、やっぱり野々村に色目つかってたのは認めるんだ。朝、抱きついてたじゃん。マジ、きっしょ」


「色目とか、全然そんなことないよ!悠斗は昔からの親友で、それは僕が女の子になっても変わらないって思ってるけど……」


玲央が言い終わる前に、美優さんは興味を失ったようにふい、と顔をそむけた。そして、玲央を完全に無視するように環さんと視線を交わし、二人で教室を出て行った。


どうしたら、よかったのかな

教室にはまだ何人かの生徒が残っていたが、誰もが居心地悪そうに、玲央と視線を合わせようとしなかった。


玲央は一人で、震える手で帰り支度を急いだ。鞄を肩にかけ、早足で教室を出る。不思議と、涙は一滴も出なかった。ただ、胸の上の方まで息がうまく吸えないような、苦しい感じがずっと続いていた。早く学校から出たい。その一心で、校門までの道を急いだ。


家路も、周りの景色を見る余裕なく駆け抜けるように帰った。


「ただいま……」


返事はない。お母さんもお姉ちゃんも、まだ帰ってきていないようだった。


玲央は、鞄を放り出すようにしてリビングのソファに倒れ込んだ。制服のまま、うつ伏せになる。

挿絵(By みてみん)

(今日、いろいろあったなぁ……)


楽しかったこと、嬉しかったこともあったはずなのに、頭にこびりついて離れないのは、美優さんたちの冷たい声だった。


(田中さんや田代さんは、本気で僕のこと、気持ち悪いって思ってた。僕の、何が悪かったんだろう。どうしたら、よかったのかなぁ……)


考えても、答えは出ない。ぐるぐると同じ問いが頭を巡るだけだ。じわ、と目の奥が熱くなるのを感じ、玲央はソファのクッションに顔を強く押し付けて、涙がこぼれ落ちるのを必死に堪えた。


もう少ししたら、お母さんとお姉ちゃんが帰ってくる。


二人が帰ってきたら、今日のことを全部話して、どうしたらいいか、相談してみよう。玲央は、そう決心した。

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