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玲央のカラフル・デイズ  作者: ぺへほぽ
第1章:はじまりの季節と、私の選択
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僕の決意、クラスの空気

体育の着替えのこと、勇気を出して先生に相談しに行ったら、木綿花ちゃんと彩花ちゃんも一緒についてきてくれたんだ。


三人なら大丈夫!って思えたよ。


LHRでは、みんなの前で僕の気持ちを話したんだ。ちゃんと、伝わったかな…。

三人なら大丈夫

休み時間、玲央は教室の隅で楽しそうに話している木綿花と彩花の姿を見つけ、そっと近づいていった。


「彩花ちゃん、これからよろしくね」


玲央が声をかけると、彩花はにこりと微笑んで「うん、よろしくね、玲央ちゃん」と返してくれた。その自然な響きが嬉しい。玲央は二人に、少しだけ不安な気持ちを打ち明けた。


「僕、今日のお昼休み、職員室に行くんだ。ちょっと緊張する…」


「え、何で行くの?」 木綿花の問いに、玲央は少し声を潜めて答える。


「うん。今朝家で話になったんだけど、『体育の着替えってどうしたらいいですか?』って、先生に聞きに行こうと思ってるんだ」


それを聞いた彩花が、きっぱりとした口調で言った。


「え、そんなの、私たち全然いいけどね。玲央ちゃん、いっしょに着替えよ?」


「そうだよ!」と木綿花も力強く同意する。「もともと女の子だったっていうんだから、当たり前じゃん!全然OKだよ!」


そして二人は顔を見合わせると、玲央に向かってにっこり笑った。


「心配だったら、わたしたちも一緒についてくよ。三人で行けば心強いでしょ?」


その言葉に、玲央の心に灯っていた不安の炎が、すっと和らいでいくのを感じた。


友情と、先生の提案

昼休みになり、三人で職員室のドアをノックしようとした時だった。中から二人の女子生徒が出てきた。田中美優さんと、田代環さんだ。二人は玲央の顔を見るなり、すっと表情を消し、値踏みするような、どこか冷たい視線を向けてきた。玲央は、その視線に気づき、心臓が小さく跳ねた。

挿絵(By みてみん)

三人が入れ替わりで職員室に入ると、担任の村山先生が「お、どうした?」と迎えてくれる。


「村山先生。おたずねしたいことがあります」


玲央は勇気を出し、まっすぐに先生を見た。


「僕は、体育の授業を女子として受けることでいいのかということと、その前後の着替えはどうしたらいいか、ということです」


「そうだな。大事なことだ」村山先生は頷き、玲央に問いかけた。「まず、水沢はどうしたい?何か考えがあるか?」


「はい。僕はもともと女子だったという診断があって、それなら女子として生きていこうと決心しました。なので、体育も女子として受けたいです。着替えのことは、みんなの気持ちがあるし、学校としての考えもあると思います。それに従います。でも……個人的には、どちらでも、というか……やっぱり、女子のみんなと同じがいいのかなぁって……思います」


最後は少し恥ずかしくなって、声が小さくなる。


先生は、玲央の後ろに立つ二人に目を向けた。


「七瀬と文野は、ついて来てくれたんだな。二人はどう思う?」


「はい!」木綿花が元気よく一歩前に出る。「私はちょっと前に玲央ちゃんの話を聞いて、そしていろいろおしゃべりして、玲央ちゃんがすごいかわいくて、もう大好きな友達です。もともと女の子だったって分かったんだから、当然、女の子と全部同じでいいと思います!」


続いて彩花も、落ち着いた声で言った。


「わたしは、まだあまり玲央ちゃんのこと知らないんですけど、昨日と今日、玲央ちゃんを見ていて、完全に女の子だし……。これからだんだん慣れていくと思うので、最終的にはやっぱり、全部女子として生活するのが、玲央ちゃんにとって一番いいと思います」


「そうか」村山先生は深く頷いた。「二人とも、いい友人になってくれてるんだな。ありがとう。これからも水沢のこと、よろしくな」


そして、先生は再び玲央に向き直った。


「水沢。二人の話にもあったが、この問題には二つのポイントがある。まとめを話すぞ」


「はい」玲央は真剣に先生の言葉を聞く。


「お前のことを親友だと言ってくれる七瀬は、『最初から全部一緒がいい』と言った。少しだけ知っている文野は、『だんだん一緒になっていくのがいい』と言った。おそらく、その通りなんだ。つまり、クラスのみんなが、お前のことをしっかりと知って、理解してくれた時、なんのわだかまりもなく、女子としてすべてを受け入れてもらえるようにする。この考え方、水沢、どう思う?」


「はい。ありがとうございます。僕も、それが一番いいと思います」


「ありがとう。……実はな、君たちが入ってくる前にすれ違った二人は、お前のことをほとんど知らない。知らないから、不安に思う気持ちがある。その気持ち、水沢、分かってもらえるか」


さっきの冷たい視線を思い出し、玲央はこくりと頷いた。「……分かります」


「それで、だ。みんながお前のことを理解してくれるまでの期間、更衣室は職員室の横にある多目的トイレを使うのはどうだろう。ちょっと教室から遠いが、どうかな」


「分かりました。それで大丈夫です。ありがとうございます」


玲央がそう答えた時、木綿花が声を上げた。


「でも、先生!玲央ちゃんがかわいそうです。それに、いつまでかも分からないんですよね?」


先生は「うーん」と腕を組む。(田中たちから『正直、気持ち悪い』と言われた手前、彼女たちの意見も無視はできないしな……)心の中でそう葛藤しながら、口を開いた。


「そうだなあ。みんなの気持ちを、これから少しずつ確かめていくことになるかもしれないな」


すると、木綿花が、ぱっと顔を上げて言った。


「じゃあ、先生!その期間、私も玲央ちゃんと一緒に多目的トイレで着替えていいですか?そうやって、玲央ちゃんのことを、みんなに女子として受け入れてもらえるようにしたいです!」


その言葉に、先生も、そして玲央も目を見開いた。


「そっか……。七瀬がいいなら、先生は構わんが……。水沢は、それでいいか?」


「木綿花ちゃん……」玲央の目頭が熱くなる。「ありがとう。何か、とっても嬉しい。でも、無理してない……よね?」


「全然っ!玲央ちゃんは、めっちゃ女の子じゃん。私が、それをみんなに知ってもらえるようにするんだから!」 木綿花は、力強く笑ってくれた。


「あの、わたしもいいですか?」 彩花も木綿花に続く。


「分かった」先生は決心したように言った。「このことは、まず今話し合った通りにしよう。そして、今日のLHRで、このことを議題にしていいか。先生がきちんと取り仕切る。そして、時々状況を確かめるために、こうやって職員室に来てくれるか?」


「「「はいっ!」」」

挿絵(By みてみん)

三人は声を揃えて答え、職員室を後にした。


ひとりの決意

教室に戻ると、空気が変わっていることに玲央は気づいた。気のせいではない。朝までの、どこか浮かれたような歓迎ムードは消え、さっき感じたような冷たい視線が、クラス中に広がっているような気がする。玲央は、息苦しいような居心地の悪さを感じながら、LHRの時間を迎えた。


「――クラス委員は津田、稲田、山口に決まったな。各係もこの表のとおり、放課後進めてくれ」


先生はそう言うと、パン、と手を叩き、少しだけ神妙な面持ちになった。


「さて、今日はもう一つ、議題がある。みんな、真剣に聞いてくれ」


クラスの視線が、一斉に先生に集まる。


先生は、一度玲央に視線を向けた。


「水沢。お前のことについて、先生から全部話してもいいが、もし水沢から伝えられることがあるなら、まず話してもらってもいいぞ。どっちがいい?」 その問いに、玲央はすっと息を吸った。


「……僕から、話します」 そう言うと、玲央は席を立った。先生は「では、前に来るか」と促し、玲央は教卓の横に招き入れられた。クラス全員の視線が、突き刺さるように玲央に集まっている。


玲央は一度だけ目を閉じ、深く息を吸い、そして、前を向いた。


よく通る澄んだきれいな声だったが、その語り口は、少しだけ躊躇いがちだった。


「皆さんが、僕のことを男の子として知っているのは、当然だと思います。僕自身も、この冬まで、ずっとそう思っていました。でも、病院の検査で、僕の体は生物学的に女の子の体だということが分かりました。春休みに、服装をもともとの女子の性別に合わせたんです。」


ざわ、とクラスが小さく揺れる。


「最初は、頭が真っ白になって、どうしたらいいか分かりませんでした。でも、お母さんやお姉ちゃんが『本当の玲央でいられるね』って喜んでくれて……僕も、これからは本当の自分で生きていきたい、そう思いました」


玲央は、ぎゅっと拳を握りしめる。


「だから、僕は、この中学校では女の子として、皆さんと一緒に過ごしたいと決心しました。まだ女の子の常識も、分からないことばかりで、たくさん迷惑をかけてしまうかもしれません。でも、一生懸命がんばるので……どうか、よろしくお願いします」


玲央は、深く、深く、頭を下げた。


しん、と静まり返った教室で、先生が口を開いた。


「水沢が、全部話してくれた。ありがとう。……実は、昼休みに、水沢が体育の着替えについて相談に来てくれた。先生は、まずはクラスのみんなに水沢のことをしっかり知ってもらうまで、ということで、特別に多目的トイレでの着替えを勧めた。水沢も、そのことを受け入れてくれた」


クラスは神妙に話を聞いている。だが、それは肯定とも、否定とも取れない、重たい沈黙だった。


玲央は、田中さんや田代さんのことが気になったが、怖くてそちらに視線を向けることができない。


「水沢、席に戻っていいぞ」


先生に促され、玲央は自分の席に戻った。自分の心臓の音が、やけに大きく聞こえていた。

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