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玲央のカラフル・デイズ  作者: ぺへほぽ
第1章:はじまりの季節と、私の選択
3/19

どきどきの入学式

ドキドキの入学式当日。


セーラー服、ちゃんと似合ってるかな…。


周りのひそひそ声にちょっとだけ胸が痛んだけど、悠斗や木綿花ちゃん、彩花ちゃんが同じクラスだって分かって、すっごく安心した!


ここから、僕の中学校生活が始まるんだ!

どきどきの朝

中学校の入学式当日。


ただでさえ緊張するであろう人生の節目は、春休みに女の子になった玲央にとって、巨大なハードルがそびえ立つ試練の場のようにも思えた。


自分のことを知っているのは、親友の悠斗と、この間できたばかりの友達、木綿花だけ。小学校の同級生たちは皆、玲央を「男の子」として記憶している。その視線の中に、たった一人で飛び込んでいかなくてはならない。


「大丈夫よ、玲央。学校にはお母さんから伝えてあるし、先生方もちゃんと配慮してくださることになってるから」

出発前、お母さんが玲央の肩を抱いて、優しく励ましてくれる。


「れーお、いい?早めに学校に着いて、とにかく堂々としてなさい。何といってもあんたは可愛いんだから。『わたしの可愛さを見なさい』って顔してればいいのよ」


ドレッサーの前で準備をする玲央に、お姉ちゃんが檄を飛ばす。

(小悪魔って言ったくせに……)

玲央は心の中で小さく反論しながらも、早めに行く、というアドバイスはいいな、と思った。

挿絵(By みてみん)

試着した日以来、丁寧にハンガーにかけていた真新しいセーラー服を、玲央は少しだけ神聖な気持ちで手に取った。さらりとした肌触り。サイドファスナーを、少しだけぎこちなく引き上げる。ひだがきれいなプリーツスカートに足を通すと、ふわっと空気をはらんで揺れる感覚が新鮮で、それだけで心が躍った。


そこへ、部屋に入ってきたお姉ちゃんが、黒い短いスパッツを玲央に差し出した。


「はい、玲央。これはマストアイテムね」 そう言って、悪戯っぽく片目をつぶる。


「これはね、万が一スカートがめくれても大丈夫っていう実用的な意味と……その下にはいてる『かわいいもの』がちらっと見えちゃって、玲央の中に眠る小悪魔性が加速しないようにっていう、お姉ちゃんなりの愛よ」


「またその話……」

挿絵(By みてみん)

玲央は呆れたように小さくため息をついたが、素直にそれを受け取って履いた。確かにこれなら、自転車に乗る時や、階段を上る時も安心かもって思ったけど、おねえちゃんがさっそくめくってきて…


「きゃっ」 玲央が自分でも驚く、かわいい声が出てしまう。「なんでめくるの?」 って抗議すると、おねえちゃんは思慮深げにあごに手を当てながら、「うーん、これでもかわいすぎる。」 玲央はあきれてしまう。


おねえちゃんはそのあとも制服の着こなしを細かく教えてくれて、玲央はその通りに整えていく。胸元のリボンをきゅっと結び、校章のバッジをつけると、背筋がすっと伸びた。


やっぱり、綺麗な制服をきちんと着られると、すごく気分が上がる。鏡の前でくるりと回ってみると、鏡越しにお姉ちゃんがニヤニヤしているのが見えたけど、あえて何も言わないでおいた。


「行ってきます」


玄関のドアを開けると、少しだけ冷たい春の空気が頬を撫でた。その心地よさに、玲央の心は不思議と凛としてくる。不安よりも、これから始まる中学校生活への楽しみな気持ちが湧き上がってくるのを感じた。


ささやき声と、春の体育館

それでも、学校の校門をくぐり、受付の列に並ぶと、高揚していた気持ちは急速にしぼんでいった。やっぱり少し動揺してしまう。

受付にいた上級生らしい人が、名簿を確認してにこやかに言った。


「水沢玲央さんですね。1年3組です」


そのすぐ後ろから、ひそひそ声が聞こえてきた。小声のつもりだろうけど、玲央の耳にはっきりと届いてしまう。


「あの子、男の子から女の子に春休みに変わったらしいよ」


やっぱり、興味本位で見られるんだ。胸がチクリと痛む。


「でも、すっごいかわいい子じゃん」 続けて聞こえてきた言葉に、痛みは少しだけ和らいだ。嬉しい、と思ってしまう自分がいた。


早めに到着したおかげで、体育館の「1年3組」という立て札の周りには、まだ玲央以外に三人の女子生徒しかいなかった。軽く会釈をして、少し離れた場所に立つ。すぐに担任らしき先生がやって来て、「出席番号順の席に座っていてくださいね」と案内され、玲央は自分の席に腰掛けた。

[pixivimage:131804786-3]

「ねえ、水沢君だよね?女の子になったの?すごいかわいいんだけど」


さっそく、近くの席の女子が屈託なく話しかけてきた。


「う、うん。これからよろしくね」


少し躊躇しながらもそう答えると、彼女はにこっと笑った。なんだか、思っていたよりも雰囲気がいいかもしれない。玲央は少しだけ安心した。


キセキだらけの1年3組

式の時間が近づくにつれて、1年3組になる子たちが次々と集まり、体育館は期待と不安のざわめきに満たされていく。玲央は、心配していたような奇異の視線を感じることもなく、落ち着いてその場に座っていた。


「玲央ちゃん!」


不意に背中をトントンと叩かれ、振り返る。そこにいたのは、満面の笑みを浮かべた木綿花だった。


「玲央ちゃんも3組!わーい!彩花も3組だったんだよ。これってキセキじゃない!?」


「ほんと!?良かった~、なんかすごく安心した」


思いがけない幸運に、玲央も自然と笑顔になる。木綿花は、いたずらっぽく小声で言った。


「セーラー服、すっごく似合ってるね☆」


「木綿花ちゃんだって」


二人で顔を見合わせて、にこにこと笑い合う。少し離れた席にいる彩花も、玲央に気づいてにこりと微笑み、小さく手を振ってくれた。


「玲央」


今度はすぐ耳元で、聞き慣れた声がした。


「俺も3組だったよ。これからもよろしくな」 親友の、悠斗だった。


「わあ、すごい!悠斗も!?今日はキセキだらけだ!」 嬉しさのあまり、玲央の声が少しだけ大きくなってしまい、周りの生徒たちが何事かとこちらに注目する。悠斗は、そんな玲央を見て可笑しそうに笑いながら「しずかにしろよ」と軽く頭を小突いた。

心強い仲間たちに囲まれて、玲央の心はすっかり晴れやかになっていた。


涙のわけ

厳粛な雰囲気の中、新入生入場が始まった。クラスごとに立ち上がり、ゆっくりと指定された席へ向かう。玲央は、保護者席にいるはずのお母さんの姿を探した。


すぐに見つかった。お母さんは、ハンカチでそっと目元を拭いながら、真っ直ぐに玲央のことを見ていた。


(うわ、泣いてる……)


周りを見渡しても、入学式で泣いている親なんてほとんどいない。少し恥ずかしいな、と思いながらも、玲央にはお母さんの涙のわけが分かった。


僕が、こうして「普通」に、みんなの中にいられること。そのことに安心して、嬉しくて泣いてるんだ。


そう思うと、恥ずかしさよりも、お母さんを安心させてあげられたことが、自分のことのように嬉しかった。


初めてのホームルーム、そして

式が終わり、それぞれの教室へ移動する。保護者も教室の後ろで見守る中、担任の先生の話が始まった。


(ここで、僕のことが話されたりするのかな……)


玲央は少し身構えたが、先生は自己紹介と中学校生活の心構えについて話すだけで、玲央のことに触れることは一切なかった。ほっと胸をなでおろす。


あっという間に最初のホームルームが終わり、「今日はこれで下校です」という先生の言葉で、クラス中ががやがやと席を立ち始めた。その時だった。


「水沢さん。お母様も、少しこちらへ」


先生が、玲央を手招きした。お母さんと一緒に教卓へ向かう。


「事情は校長先生から聞いています。今日はどうでしたか、玲央さん」


「はい。最初は少し心配だったんですけど、大丈夫でした」


「うん、そんな感じがしました。先生も、安心して見ていましたよ。これから、いろんなことがあると思うけど、何かあったら、いつでもお母さんや先生に話せるといいね」


「はい」


「この子は何でも話してくれるので、大丈夫だと思います。もし何か心配なことがありましたら、こちらからも先生にご相談しますね。どうぞ、よろしくお願いいたします」 隣で、お母さんが頼もしい声で言った。


先生とお母さんのやり取りを聞いていて、玲央は心の底から安心した。


未来へ続く帰り道

桜の花びらが舞う帰り道、玲央はお母さんに話しかけた。


「お母さん、入学式の時、泣いてたね」


「うーん……周りの人あんまり泣いてないから、少し恥ずかしかったわよ」 お母さんは、照れくさそうに笑う。


「でもね、僕、お母さんが安心して泣いてるのかなって思ったら、なんだか少し嬉しかったんだ」


「もう、玲央ったら。かわいいこと言わないで」 お母さんはそう言うと、帰り道だというのに、玲央の肩を優しく、ぎゅっと抱きしめた。


桜の木の下でおかあさんとのツーショットもきれいに撮れて、思い出いっぱいの入学式。


家を出る時の、不安でいっぱいだったきもちが、とっても軽くて、明日がたのしみと思いながら、その日は早めに眠った。

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