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玲央のカラフル・デイズ  作者: ぺへほぽ
第1章:はじまりの季節と、私の選択
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「小悪魔」ってどういう意味

お姉ちゃんの言う「小悪魔」って、どういう意味なんだろう…?


よく分からないまま、制服を受け取りに行ったら、木綿花ちゃんっていう、初めての「女の子の友達」ができたんだ!


すっごく嬉しいけど、やっぱりお姉ちゃんは僕をからかってきて…。もう、ひどいよ!

夕食の後、自分の部屋のベッドに寝転がりながら、玲央は今日の昼間に家族から言われたことをぼんやりと反芻していた。


「お姉ちゃんが言ってた『小悪魔』って、どういう意味なんだろう?」 気になってスマホを手に取り、検索窓に打ち込んでみる。すぐに検索結果が表示された。


『小悪魔:男性の心を翻弄する、魅力的な若い女性』

「だ、男性の心を翻弄……?そんなすごい意味なの?なんだか、わけわかんないよ」 玲央はスマホを放り投げた。


「……あれだ。お姉ちゃん、すぐ僕をからかうから、わざと大袈裟な言い方するんだ。きっと、そうに違いない」

一人でそう結論づけたものの、玲央は一応、言われたことは守ってみよう、と心に決めた。


お姉ちゃんのファッションチェック

数日後、制服のお店から「セーラー服ができましたので、取りに来てください」と連絡があった。


玲央は自転車で行くつもりだったので、動きやすいスウェットのハーフパンツにTシャツ、スニーカーという、これまで着慣れた「男の子」の時の定番スタイルで玄関に向かった。すると、リビングからお姉ちゃんの鋭い声が飛んできた。

挿絵(By みてみん)

「ストーップ!玲央、そんな格好ダメ!せっかくの可愛い玲央が台無しでしょ。もっとかわいい格好しなきゃ!」


「だって、自転車だし……。それにこの前、僕が悠斗にしたこと、小悪魔だって言ったじゃないか」


「それとこれとは別なの!」


そう言うと、お姉ちゃんはお母さんと買い物に行った時に買った服一式を持ってきて、有無を言わさず玲央に着せつけ始めた。ふんわりしたシルエットのベージュのキュロットスカート。淡いピンク色のパーカー、少しだけ厚底のスニーカー。納得いかないまま、玲央はようやく解放された。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

玲央は(何が別なの?)と不満気。


同級生との遭遇

自転車を走らせてお店に着き、受付で順番を待っていると、不意に聞き覚えのある声がした。


「あ……」 そこにいたのは、6年生の時に同じクラスだった木綿花ゆうかと、そのお母さんだった。


まずい。悠斗以外、誰にも女の子になったことは知らせていない。玲央は急に全身が熱くなるのを感じ、とっさに顔を伏せた。だが、時すでに遅し。木綿花のお母さんが玲央に気づき、にこやかに話しかけてきた。


「あら、水沢玲央君?だよね。君も制服の受け取り?」 そう言いながら、玲央の服装と、受付票に書かれた「セーラー服」の文字を見て、「???」という顔になっている。


「ん?……セーラー服、なのね?」


「……はい」


どうしよう。自分の体の変化のこと、ここで言わなきゃいけないんだろうか。でも、同じ中学校に進むんだから、すぐに分かっちゃうことだし……。玲央が迷っていると、隣で木綿花が目を丸くしていた。


意を決して、玲央は恥ずかしさを押し殺しながら言った。


「あの……最近、女子になっちゃって」 その一言に、場の空気が一瞬止まった。


最初に口を開いたのは、木綿花だった。


「え、玲央君、女の子になったの!?それすごいじゃん!じゃあ、玲央ちゃんだね!」

挿絵(By みてみん)

ぱあっと顔を輝かせた木綿花は、ずいっと玲央に詰め寄る。6年生の時はほとんど話したこともなかったのに、その距離の近さに玲央はたじろいだ。


「玲央ちゃん、女の子すごく合ってると思う!なんか、私まで嬉しいな!」


「あ、うん……よろしく…ね」


突然のことに頭が追いつかず、なんとかそれだけ返事をするのが精一杯だった。逃げ出したいような居心地の悪さで、玲央はただうつむくしかなかった。


はじめての「女子会」

玲央も木綿花もセーラー服を受け取り、一緒にお店を出たところで、木綿花のお母さんが言った。


「玲央ちゃん、もしこの後、時間ある?良かったら、そこの喫茶店でちょっとおしゃべりしない?」


特に断る理由もなかったので、玲央は「あ、はい。時間あります」と答えて、二人についていった。


喫茶店では、木綿花がマシンガンのように喋り続け、玲央はそれに相づちを打つのがほとんどだった。でも、女の子同士がどんなふうに話すのか全く分からなくて不安だった玲央にとって、それはとてもありがたかった。


「それでね、私、サッカークラブの長谷川って子が気になってて…」


「うん、知ってるよ。よく遊ぶもん」 玲央は答えながら(女の子って、お母さんの前でも普通に恋バナとかするんだ……)


一つ一つが新しい発見だった。


だんだんと場の雰囲気にも慣れてきた玲央は、思い切って話を切り出してみた。


「僕、まだ女の子になったばっかりで、分からないこと、たくさんあるんだ。だから、いろいろ教えてくれたら、嬉しいな」 すると、木綿花はぱっと目を輝かせた。


「もちろん!うわー、それってすっごく嬉しい!玲央ちゃん、めっちゃ可愛いから、一緒におしゃれとかメイクとか、いろいろしようね!」 その勢いに、玲央は少し圧倒されてしまった。


お店を出て、それぞれの自転車に向かう。別れ際、


「玲央ちゃん、これからも木綿花と、よろしくね」 木綿花のお母さんが優しく微笑んだ。


「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」 玲央は深々と頭を下げた。


初めての女友達

こうして、玲央にとって初めての「女の子の友達」ができた。


家に帰り、ソファにごろんと寝転がっていると、ポケットに入れていたスマホが「ピコン♪」と軽やかな音を立てた。画面を見ると、さっき交換したばかりの木綿花からのLINEメッセージだった。


【木綿花】「玲央ちゃん、今日、めっちゃ楽しかった!ありがとう!玲央ちゃん、すごくかわいいし、今日のこともっと話したいから、彩花にも話していい?」


彩花……。確か、小学校3、4年生の時に同じクラスだった子だ。背が高くて、いつもニコニコしている、優しい感じの女の子。そんなにたくさん話したことはなかったけど、いい子だなっていう印象がある。


玲央はすぐに返信を打ち込んだ。


【玲央】「いいよ。今日はこちらこそありがとう!パフェごちそうさまですって、お母さんにも伝えて」


新しい友達とのやり取りに、自然と頬が緩む。こんな何気ない会話が、くすぐったくて、嬉しい。


姉との衝突と涙

そんな玲央の様子を、お姉ちゃんが見逃すはずもなかった。


「れーお、すっかりかわいくなっちゃって。どれ、お姉ちゃんがたしかめ…」


ニヤニヤしながらそんなことを言い、ソファに寝そべる玲央の、細い腰をぐいっと掴んでくる。何だかいやな感じがして、玲央は思わず体をひねった。


「やめてよ、お姉ちゃん!」


飛び起きたその拍子に、スマホの画面がお姉ちゃんの目に留まってしまった。


「おっ、もう女の子の友達できたのか。早いじゃない。玲央、やっぱり小悪魔だな」


またその言葉だ。玲央はむっとして言い返した。


「お姉ちゃん、小悪魔って女の子の友達には関係ないでしょ。僕、ちゃんと調べたんだから!」


「玲央の場合は特別。男の子も女の子も誘惑できるから、最強の…」


お姉ちゃんが言い終わる前に、玲央の中で何かがプツンと切れた。もう我慢できなかった。


「お姉ちゃん!ひどい!」


そう叫ぶと、視界がじわりと滲む。半泣きのまま、玲央はキッチンにいるお母さんのところに走っていった。


「玲央、どうしたの?」


夕食の準備をしていたお母さんが、驚いて振り返る。玲央はしゃくりあげそうになるのを必死でこらえながら訴えた。


「お姉ちゃんが……っ、小悪魔小悪魔って昨日からずっと!今日なんて、僕が男の子も女の子も誘惑できるからって、ひどいの!」


それを聞いたお母さんの表情が、すこし険しくなった。そして、玲央の頭を優しく撫でてくれた。


「そう……。それはお姉ちゃん、良くないわね。玲央が嫌がってるのに、何度も気持ちを逆なでして。悲しかったわね」


お母さんがちゃんと自分の気持ちを分かってくれた。その事実に、高ぶっていた気持ちが少しずつ落ち着いていく。


でも、もう少しお母さんが気づくのが遅かったら、きっと声を上げて泣いていたと思う。玲央は、お母さんのエプロンをぎゅっと握りしめた。


涙のあとの陽だまり

玲央を追ってキッチンにやってきたお姉ちゃんは、その光景を見てぴたりと足を止めた。


弟……いや、妹になったばかりの玲央が、お母さんのエプロンに顔をうずめて、小さな肩を震わせている。その足元には、ふんわりとしたフリルのついた、女の子らしい靴下。かわいらしく履いている。その健気な姿が、どうしようもなく愛しくて、お姉ちゃんはつい、空気が読めない言葉を口にしてしまった。


「玲央、かわいい〜……」


その瞬間、お母さんの厳しい声が飛んだ。


「美咲」


お母さんは玲央の背中を優しく撫でながら、お姉ちゃんをまっすぐに見据える。


「あなた、玲央にしつこくひどいことを言ってるでしょ。玲央は、そんな子じゃないわよね」


最後の言葉は、慰めるように玲央に向けられたものだった。お姉ちゃんは、しまったという顔で慌てて言い訳をする。


「だって、玲央があんまりにも可愛すぎて……」


「もう本当に玲央をからかうのはやめなさい」 お母さんの声は、静かだが有無を言わせない響きを持っていた。


「玲央が『辛い』って言ったら、そこでやめないとダメ。お姉ちゃんでしょ」


はっきりとそう言われ、お姉ちゃんはバツが悪そうにうなだれた。しゅんとうなだれる姉の姿を見て、今度は玲央の心がチクリと痛んだ。


お母さんのエプロンからそっと顔を上げた玲央は、まだ涙の膜が張った瞳でお姉ちゃんを見つめた。


「お姉ちゃん……かわいがってくれてるんだよね。分かってるよ。ごめんね、言いすぎちゃって」


その一言に、お姉ちゃんの顔がくしゃり、と歪んだ。


「玲央〜!」


次の瞬間、お姉ちゃんが玲央に突進してきて、ぎゅっと抱きしめる。その大きな愛情に、お母さんも思わず笑みをこぼし、二人をまとめて抱きしめた。


キッチンで、三人でぎゅうぎゅうにくっついて、まるでお団子みたいになりながら、いつしかみんなで笑いあっていた。


お姉ちゃんのからかいは、まだしばらく続くかもしれない。でも、この家には、どんな悲しい気持ちも溶かしてくれる、温かい陽だまりのような愛情がある。玲央は、そのことがたまらなく嬉しかった。

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