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玲央のカラフル・デイズ  作者: ぺへほぽ
第1章:はじまりの季節と、私の選択
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砕け散った平穏

悠斗が、僕のために怒ってくれた。


でも、藤沢くんも…。ドンッて音がして、僕の頭は真っ白になった。


せっかくみんなと仲良くなれたのに、どうして…。


僕のせいで、全部めちゃくちゃになっちゃった…。

最後の引き金

あれから数週間。玲央は、すっかりクラスに溶け込んでいた。美優や環とも、今ではすっかり打ち解け、休み時間には五人で集まっておしゃべりするのが当たり前の光景になっていた。あの嵐のような数日間が、まるで嘘だったかのように、玲央の中学校生活は、穏やかで輝かしいものになるはずだった。


その日も、昼休みになれば、玲央の周りには自然と友人たちが集まっていた。


「――でね、その時の玲央ちゃんが、また可愛くって!」


木綿花の言葉に、みんながどっと笑う。玲央が頬を膨らませて「もう、悠花ったら!」と返す。そんな、ありふれた、幸せな時間。


その輪に、すっと近づいてくる人影があった。藤沢だった。


「よお、水沢。ちょっといいか?」


以前のような、嫌な感じはない。ごく普通の、クラスメイトとしての口調だ。玲央は、少しだけ警戒しながらも「うん、何?」と応じた。


「今度の日曜、暇ならさ、駅前のゲーセンとか行かねえ?何人か集めてさ」

「え……」


玲央が返答に困っていると、その間に、すっと悠斗が割って入った。

挿絵(By みてみん)

「藤沢、わりいけど、玲央はそういうの、あんま興味ねえと思うぜ」

「あ?なんだよ野々村。お前、水沢の彼氏かなんかなのかよ」


藤沢が、挑発するように笑う。そして、悠斗の肩を馴れ馴れしく掴むと、その耳元で何かを囁いた。


その瞬間、悠斗の顔から、すっと表情が消えた。


玲央に関する、あまりにも下劣で、気持ちの悪い言葉。藤沢の、歪んだ独占欲と汚い心根が凝縮されたその一言が、悠斗の中で、最後の引き金を引いた。


玲央を、こんな汚い考えを持つ人間のそばに、一秒たりともいさせてはいけない。その強い思いと、親友を侮辱された激しい怒りが、悠斗の理性を焼き切った。


ドンッ、という鈍い音。

挿絵(By みてみん)

悠斗の拳が、藤沢の頬にめり込んでいた。


悲劇の連鎖

一瞬の静寂。


次の瞬間、教室の空気は凍りついた。


藤沢が、床に倒れ込む。


その光景を見て、最初に反応したのは男子たちだった。


「うお、野々村マジか!」

「やれやれー!」


面白がって囃し立てる声。それに呼応するように、女の子たちの甲高い悲鳴が上がる。


「きゃあああ!」

「やめて!」


違う。違う、こんなこと、望んでない。


僕のせいで、僕がここにいるせいで、悠斗が……。


玲央の頭は真っ白になった。考えるより先に、体が動いていた。


「悠斗、やめて!」


悠斗の腕を掴んで、止めようとする。その背中に、憎悪の表情で立ち上がった藤沢が、リベンジの拳を振りかぶっていた。


「てめえ、野々村ぁ!」


悠斗に狙いを定めた拳が、唸りを上げて迫る。


その軌道上に、割って入った玲央がいた。


「え……」


ゴッ、という、先ほどよりも生々しい、鈍い衝撃音。

挿絵(By みてみん)

悠斗の驚愕の表情。藤沢の、信じられないものを見たという顔。


玲央の華奢な体は、為す術もなく、床に崩れ落ちていた。


静寂と後悔

玲央が倒れた瞬間、世界から、音が消えた。


囃し立てる声も、悲鳴も、何もかもが止まった。教室にいる全員が、息をのんで、床に横たわる小さな姿を見つめている。


一番早く我に返ったのは、悠斗だった。


「玲央っ!」


藤沢のことなど、もう彼の頭にはない。血の気の引いた顔で、悠斗は玲央のそばに駆け寄った。


「玲央!おい、しっかりしろ!玲央!」

「あ……う……」


玲央の口から、か細い声が漏れる。唇の端が切れ、じわりと血が滲んでいた。


「ご……め……、ゆう……と」

「喋るな!俺の方こそ、ごめん、ごめん玲央……!」


悠斗の声は、恐怖と後悔で震えていた。


「俺が……殴ったのは、玲央ちゃん……?」


藤沢も、自分の拳を見つめ、呆然と立ち尽くしている。その顔には、先ほどまでの怒りはなく、恐怖と混乱だけが浮かんでいた。

挿絵(By みてみん)

「玲央ちゃん!」

「しっかりして!」


木綿花と彩花が、泣きそうな顔で駆け寄ってくる。美優と環も、青ざめた顔で立ち尽くしていた。


そこへ、騒ぎを聞きつけた村山先生が、血相を変えて教室に飛び込んできた。


「何があったんだ!……水沢!?」


床に倒れる玲央の姿を見て、先生は即座に状況を判断する。


「七瀬、文野、水沢を保健室へ!他の誰か、保健の先生を呼んでこい、早く!」

「野々村、藤沢!お前たちは職員室だ!今すぐ来い!」


先生の怒声が、静まり返った教室に響き渡る。


木綿花と彩花に両脇を支えられ、玲央はゆっくりと立ち上がった。意識は朦朧としている。痛みと、ショックと、そして、自分のせいで親友を、クラスを、めちゃくちゃにしてしまったという罪悪感で、胸が張り裂けそうだった。


悠斗と藤沢は、どちらも俯いたまま、動けないでいる。


玲央は、保健室へ連れていかれる途中で、一度だけ振り返った。


悠斗の、絶望に染まった顔が、涙で滲んで見えた。

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