小悪魔になっちゃう?
悠斗が、なんだかすごく真剣な顔で「話がある」って…。
お姉ちゃんは「告白かも!」なんて大はしゃぎで、僕にすっごく可愛い服を着せてくれた。
可愛い格好は嬉しいけど…。悠斗、いったいどんな話があるんだろう。
悠斗の真剣な顔
その日の放課後、玲央が教室を出ようとすると、部活のジャージに着替えていない悠斗に呼び止められた。
「玲央、今日、顧問の先生が連絡会で部活休みになったんだ。よかったら……」
何やら、少し言い淀んでいる。話したいことがある、という雰囲気が、その表情からありありと伝わってきた。
「うん、いいよ。一緒に帰ろう」 玲央は、にこりと笑って応じた。
帰り道、最初は他愛もないおしゃべりが続いた。
「部活、たのしい?」
「うん、今のところはな。先輩たちもやさしいし、いい感じだよ」
「そっか、いいね」
そんな会話も、二人にとって共通の通学路の終わりが近づくにつれて、少しずつ途切れていく。いつもの分かれ道で、玲央が「じゃあね」と言おうとした瞬間、悠斗が「あのさ」と切り出した。
「今日、一旦家に帰ってからでいいんだけど……うち、来ねえ?」
「いいけど、なんで?」
「ちょっと……話しておきたいことがあってさ。ゆっくり、話したいんだ」 そう言う悠斗の顔は、どこか不安げで、真剣だった。
心臓、止めちゃうくらい可愛く
家に帰り、普段着に着替えようと部屋に向かうと、またしてもお姉ちゃんが引き留めた。
「どこ行くの、玲央」
「悠斗の家だよ。話したいことがあるんだってさ」
それを聞いた途端、お姉ちゃんの目がキラリと光った。
「なんですって!?だったら、中途半端な格好で行くのは許しません!お姉ちゃんが、完璧にかわいくしてあげるから!」
玲央は「ええー」と抗議の声を上げたが、一度こうだと言い出したら聞かないのがお姉ちゃんだ。玲央は、諦めてお姉ちゃんにすべてを任せることにした。
「今日の玲央は、お姉ちゃんに任せなさい!悠斗の心臓、止めちゃうくらい可愛くしてあげるから!」
クローゼットからお姉ちゃんが選んだのは、一枚で主役になる白のドッキングトップス。身頃は肌触りの良いカットソー素材で、袖の部分がふんわりとしたパフスリーブのシアー素材に切り替わっている。動くたびに、肩から腕にかけての華奢なラインが上品に透けて見え、清潔感とほのかな色気が同居していた。
「ボトムスはこれね。甘くなりすぎないように、ちょっとだけクールダウンさせるの」
そう言って合わせられたのは、くすみブルーとグレーのチェック柄が知的な印象を与えるプリーツスカパン。一見スカートに見えるが、実は内側がパンツになっているため、活発に動いても安心だ。絶妙な丈感が、すらりと伸びる脚を綺麗に見せてくれる。
「髪、ちょっと貸して」
ドレッサーの前に座らされた玲央の、少し伸びてきたサラサラの髪を、お姉ちゃんは手際よくアレンジしていく。サイドの髪を細くツイストして耳の後ろへ流し、小さなシルバーの星のピンで留める。たったそれだけなのに、顔周りがすっきりと華やかになり、玲央の大きな瞳がより一層強調された。
「仕上げは、秘密の魔法」
お姉ちゃんは、透明なリップグロスに、ほんの少しだけコーラルピンクのティントを混ぜて玲央の唇に乗せた。ぷるんと潤った唇は、もともとの血色が良いかのように自然に色づいている。頬にも同じ色のクリームチークを指でぽんぽんと薄く馴染ませると、内側から上気したような、あどけない表情が完成した。
足元は、白いレースのフリルがついたショートソックスに、コロンとしたフォルムが可愛い厚底のストラップシューズ。最後に、お姉ちゃんは「おいで」と玲央を手招きし、その髪にシトラス系の爽やかな香りのヘアミストをふわっとひと吹きした。
「うーわ!わが妹ながら、かわいすぎる。よし、完璧。行ってらっしゃい」
女の子の「備え」
鏡に映った自分の姿に、玲央自身が一番驚いていた。
カジュアルさと可愛らしさの絶妙なバランスが取れたコーディネート。ふとした瞬間に揺れる髪や袖、近くに寄らないと分からないくらいの、ほんのりとした甘い血色感と爽やかな香り。これではまるで、「親友の家に行く」というよりは――。
「……やりすぎだよ、これって。悠斗は親友なのに、ほんとに小悪魔になっちゃわない?」と玲央が抗議して、やり直したいと言うと、
「やりすぎても、それに負けないで可愛くなれちゃう玲央が、すごいんじゃない」 そう言ってお姉ちゃんは、満足そうにスマホで写真を何枚も撮っている。
「悠斗ね、学校帰りに、なんかゆっくり話したいことがあるって、少し不安げだったんだよ。こんなおしゃれして行ったら、僕がふざけてるみたいに思われないかな……」
玲央が心配を口にしても、お姉ちゃんは「それって告白かもよ?だとしたら、その服装、ぴったりじゃん」と茶化すばかり。玲央が、もう少しだけでも普段着っぽくしたいと懇願するも、「お姉ちゃんの見立てに間違いはないの!」と言って聞かない。
お姉ちゃんは、玲央を手鏡を持たせると、玲央は斜め後ろからどんなに見えてるか、など確認し始める姿を見て、お姉ちゃんはにんまり。
「見てごらんなさい。玲央の、女の子の部分が『嬉しい』って、喜んでるよ」
その言葉に、玲央はもう何も言えなくなった。
「……もう分かったよ。これで行く!」
最後に、玄関でお姉ちゃんから小さなミントグリーンのポーチを手渡される。
「玲央はまだだけど、女の子は『備え』が必要なのよ」
その意味を察して、玲央は顔を真っ赤にしながら家を飛び出した。
それでも、可愛い格好ができるのは、やっぱり嬉しい。
玲央は、少しだけ弾む心で悠斗の家へと向かう。だけど、ふと、去り際に悠斗が見せた、あの不安そうな表情を思い出すと、玲央の心にも同じ色の不安が、じわりと広がっていくのだった。




