お姉ちゃんが四人もいるみたい
みんなで初めての女子会!
お姉ちゃんが選んでくれた服、すっごく褒められちゃった。
でも、アクシーズファムっていうお店で、みんなに着せ替え人形にされて…。
もう、恥ずかしすぎるよ!なんだか、お姉ちゃんが四人も増えたみたいだ…。
玲央の登場
次の日、玲央は約束の場所であるイオンモールへと向かった。待ち合わせは、午後二時にフードコート。少し早めに着いて辺りを見回すと、すでに四人はもっと早くに集まっていて、玲央に気づいて大きく手を振っていた。
「玲央、おそーい!」
「ご、ごめん!」
駆け寄った玲央の姿を見て、四人は一瞬、息をのんだ。
「うわ……」
「玲央ちゃん、今日、めっちゃくちゃ可愛い……!」
「ちょっとスカートの横、つまんでカーテシーしてみ!」 美優が玲央にリクエストするが、はずかしがって不完全な形ながらかわいくお辞儀する。
「「「「うーわ」」」」
今日玲央が着ているのは、昨夜お姉ちゃんが「明日はあんたが主役なんだから!」と、半ば強引にコーディネートした、とっておきの服だったからだ。
オフホワイトの柔らかなブラウスの襟元には、繊細なフリルがあしらわれている。その上に重ねたのは、淡いミントグリーンの、少しだけ肩が落ちたデザインの春ニット。そして、歩くたびにふわりと揺れる、三段ティアードの白いロングスカート。可愛らしさの中に、どこか儚げな雰囲気が漂うその姿は、フードコートの喧騒の中で、ひときわ目を引いていた。
「これ、僕じゃなくて、お姉ちゃんが全部決めたんだよ……」 玲央は、四人の視線に耐えられず、真っ赤になって俯いた。
「こんなかわいいの着こなせるって、ちょっと嫉妬する」 美優が言うと、環が 「また嫉妬しちゃうね。」と笑う。
木綿花が切り出す。「とりあえず、何か食べよっか!」
「だね!ポテトとか食べながら、今日の作戦会議しよ!」
玲央もフードコート内のショップに食べ物を取りに行きます。
席に着いて、おしゃべりが始まる。見たいお店、買いたいもの。アイディアを出し合いながら、自然と会話が弾んでいく。
「ねえ、提案なんだけど!」木綿花が、パン、と手を叩いた。「せっかくこうやって一緒に遊んでるんだし、苗字で呼ぶの、やめない?下の名前で、呼び捨てにしようよ!」
「あ、それ、いいね!」
「さんせーい!」
その提案に、みんながすぐに同意した。玲央、木綿花、彩花、美優、環。新しい響きが、少しだけくすぐったくて、五人の間の距離をぐっと縮めてくれた気がした。
「でさ、わたし、玲央にかわいい服、着せてみたい!」 木綿花がそう言うと、彩花も「わたしも着せてみたい」と同意する。
「木綿花も彩花も、ほんと玲央のこと好きだね〜」美優は、呆れたように言いながらも、その口元は笑っていた。「まあ、いいよ。わたしも玲央を着せ替え人形にするの、ちょっと興味あるから。行こ」
「じゃあ、決まりね!」環が、スマホで何かを検索しながら言った。「アクシーズファム、行かない?玲央に絶対似合うと思うんだけど」
アクシーズファム?玲央の頭の上には、大きな「???」が浮かんでいた。なんだか分からないけど、よくないことが起きそうな予感だけはする。でも、昨日まであんなにギクシャクしていたみんなが、自分のことを話題に、一つになってくれている。名前も呼び捨てになった。その嬉しい気持ちが、玲央の背中を押した。
「……うん」 玲央は、にこりと笑って頷いた。
アクシーズファムの洗礼
案内されたお店は、玲央が今まで足を踏み入れたことのない、レースとフリルと花柄に満ちた、甘いお城のような空間だった。
「うわ、玲央!これとかどう!?」
「こっちのワンピースも、絶対似合うって!」
四人は、きゃあきゃあと歓声を上げながら、次々と服を見繕ってくる。玲央は、されるがままに試着室へと連れていかれた。
最初に着せられたのは、生成り色の生地に、細かい刺繍が施された、まるでお嬢様のようなワンピースだった。
試着室から出てきた玲央を見て、四人から変なコメントが連発される。
「うわ……なにこれ、天使?食べちゃいたい」
「やば。わたしが男だったら、絶対ほっとかないんだけど」
「ねえ、玲央、くるって回ってみて!うわ、かわいい光る鏡が歩いてる!」
次々と繰り出されるからかいの言葉に、玲央は顔から火が出そうだった。
続いて渡されたのは、膝上20cmはあろうかという、チェック柄のプリーツミニワンピース。
「ひゃっ!み、短いよ、これ!」
「いいからいいから!」
恥ずかしがる玲央の裾を、美優と環が「きゃー!」と言いながらめくろうとする。玲央が本気で真っ赤になって抵抗するのを見て、二人はお腹を抱えて笑っていた。その笑顔は、もう意地悪なものではなく、ただただ楽しそうな、友達の笑顔だった。
そんな騒ぎに、一人の店員さんが目を輝かせて近づいてきた。
「お客様!そちらのお連れ様、本当に、本当にお似合いです!ですが、この子に本当に似合うのは、これしかありません!」
そう言って店員さんが持ってきたのは、さらに装飾が豪華なドレスだった。そこからはもう、店員さんの独壇場だ。玲央を完全に自分の作品として捉え、「この角度がいい」「このポーズをしてみて」と、完全に二人の世界に入っている。
その様子を見て、四人は「あはは……」と笑いながらも、少しだけ玲央を気の毒に思った。
人生で一番、頑張った日
さんざん楽しんで(玲央は、いじられまくって)、結局、玲央が買ったのは、断りきれなかった蝶の形をした可愛すぎるバレッタ一つだけだった。「ぜひ、またいらしてくださいね!」という店員さんの熱烈な言葉に、玲央はたじたじになりながらお店を後にした。
しばらく無言で歩いていた玲央は、やがて、はぁ〜……と深いため息をついた。
「今日の僕、人生で一番、頑張ったかもしれない……」 その、あまりにも可愛い感想に、四人がどっと笑う。
「何言ってんの、まだ始まったばっかだよ!」
四方から飛んでくる言葉に、玲央はもう降参するしかなかった。
「もう……なんだか、お姉ちゃんが四人もいるみたいだよ。こんなの、僕の体がもたないってば……」
その弱音さえも、五人の楽しい笑い声の中に、幸せに溶けていった。




