いばら姫 3
城の中を全速力で走ると、古びた塔が見えた。
城の敷地内にこんなものがあるとは知らなかった。
中で誰かが啜り泣く声がする。
近づいていくと、シェリーだった。
「シェリー?どうした?」
「お兄様……いえ、なんでもありませんわ」
「なんでもなくはないだろう?泣いているじゃない
か……さぁ、一緒に戻ろう」
「いえ、先に行っててください。もう少ししたら、
いきますわ」
「シェリー?僕は、泣いている妹をおいていくよう
な薄情な兄なのかい?」
シェリーが顔を上げると、首を降った。
「そうですわね。お兄様は……お優しくお強い人で
すわ」
「さぁ、行こう」
「えぇ、お兄様……」
シェリー王女はレオン王子の手を掴むと立ち上が
った。
「こういう優しさが、彼の心を掴んだのね」
「ん?シェリー?」
「いえ、なんでもございませんわ。ちょっとこの
中を探検しても構いませんか?」
「それは……構わないが……」
「なら、いきましょう。久しぶりにワクワクしま
すわ」
シェリーの気の済むまで付き合おうと考えると、
レオンはシェリーの手を握ったまま、古びた塔の
中へと入って行ったのだった。
そこは老朽化で、ドアも腐食しており開けると
ギィギィと音を立てた。
木片がぽろぽろと落ちてきて、蝶番も外れそうな
ほど脆くなっていた。
「いつから建っていたんだろうなぁ〜」
「かなり古いですわね〜。今まで知らなかったわ」
「僕も……でも、なぜか懐かしい様な気が…」
レオンが床に落ちた本を拾い上げると、そこには
日記が綴られていた。
埃をかぶってはいたが、中のページは読む事が出
来そうだった。
『息子が生まれた。嬉しい。可愛い……愛しい子。
名前をレオンと名づける事になった。
元気に育って来れるといいのだけれど。
今日は魔女の祝福をもらうという。
魔女は13人。でも、歓迎の宴で用意出来た金の
皿と金の盃は12人分しかない。
大丈夫かしら?
もし魔女を怒らせてしまったら?
心配だわ。
とうとう、魔女様が来られたわ。
シェリー呪いを、いえ、レオンにも?
私はもう長くないでしょう。
せめて、シェリーとレオンだけでも幸せにした
かった。
これも全部、魔女に頼った私の罪。
私が死んでも、娘の呪いだけは防がなければ。
18歳の誕生日に針に刺されて死ぬという未来だ
けは回避させたい。
どうか我が子レオンとシェリーに幸せな未来を』
最後まで読むと、レオン王子はそれが自分の母の
日記である事がわかったのだった。
「でも、この針で死ぬってどういう意味だろう?」
「針ってお針子さんが使ってるアレの事?」
「う〜ん…どうだろう?父上から何か聞いてるか?」
「何も聞いておりませんわ。今日は特に気をつけよ
と護衛が増えるというくらいですわ」
「一旦ここから出て、護衛を迎えに行こう」
「えー、折角の探検でしたのに…お兄様がいれば
大丈夫なのでは?」
「僕はだけじゃ心許ないよ。それに日々鍛錬はし
ていてもロアには勝てないしね」
自分の親友には、まだ買った事がないのだった。
向こうは騎士団長の息子なのだ。
練習量が違いすぎる。
「そういうお兄様も、剣術大会で優勝なさって
おりましたでしょう?」
「アレは、まぐれだよ。ロアだって出てなかっ
たし」
母の日記を持ったまま立ち去ろうとすると奥の
部屋のドアが風でゆっくりとあいたのだった。
「あら?」
「シェリー、危ないかもしれないから僕から
離れないように……」
言い終わらぬうちに奥からキラッと光りが見
えたのだった。
咄嗟に動くとシェリーを引き寄せると腕にチ
リッとした痛みを感じたのだった。
中には深いローブを被った老婆が立っていた。
『ひっひっひっ、この日を待ち侘びておったわ。
我が魂はこれにて呪いを発動するのじゃ。
この国の血は絶える。王女の死を持って終わ
りじゃぁーー』
大声で叫ぶと、灰になって消えてしまった。
確かに、さっきまでローブを着た老婆がそこに
いたのに……。
咄嗟に庇った腕が痺れて動かなくなっていく。
そして思考さえも回らなくなる。
「シェリー……よく聞くんだ……早く護衛をよ」
「お兄様?………お兄様!!」
ぐらっと身体が倒れ込むと、動かなくなってしま
った。
腕に刺さった針は青くくすみ、腕をも変色させた。
「うそ……嘘でしょ……嫌よ、お兄様……」
シェリーは慌てて塔を出ると、兵士と騎士を呼ん
で戻って来たのだった。
だが、その頃には塔の周りを薔薇の蔓が取り囲み
入口さえも見えなくした。
兵士が剣で切り落とそうとすると、いきなり蔓が
絡まり、兵士に絡まるとその命を奪ったのだった。
塔の上で今でも眠った様になった兄のレオン王子
に会うことも叶わず、ただ外から見つめる事しか
出来なかった。




