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転生令嬢は、ゲーム世界をひっそり生き延びたい  作者: あきづきみなと


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20/20

転生モブ令嬢は、辺境の地で忙しい・4

魔法使いたちに女性はいないが、傭兵団には僅かながら女性がいる。護衛などには、両性がいた方が都合がいいそうだ。

「これまでは無理をしないで領内を動いていたけど。全く無理をしない、と言うわけにもいかないからねえ」

エリックは基本手柄を立てたがるタイプの指導者では無い。安全第一で人命を優先しているが、それでもごくまれには危険を冒しても必要な対応があることもある。

今回も、まずは拠点の整備から始める辺りが彼らしいが、最低限必要な措置でもある。

「近隣の集落では、宿もないからな」

「かと言って、野営地から作るとは」

まあ、マリエルにとっては容易い作業で、彼女や他の地魔法が得意な者がいるからこそ可能な手段でもある。

「しばらくは逗留するんですよね、じゃあどちらにせよ手近な村に一報は入れておきませんと」

ある程度こうした場合の行動指針もできている、こうしたインフラ担当の魔法使いたちはその業務故に不便な土地での立ち回りに慣れていた。そしてそのことが、傭兵たちとのやりとりにも上手く作用しているようだった。

「良くやるわねー」

「私はまだ経験も浅いですが、皆さんはそれなりの期間をこなしてますから」

感心する女傭兵にマリエルは苦笑で応じる。

「いやー、あなたもよ。領主様の身内なんでしょう、よく野営まで付き合えるわ」

「でもさすがに皆さん方がいなければ、私は宿がある集落まで返されたと思いますよ」

「……ん?……あたしらがいるから?」

「一応は貴族令嬢ですからね。男性の中一人なら宿泊は不可です」

だが、護衛の傭兵に女性がいるので許可がもらえた。マリエルも自分一人宿がある集落まで戻ってまた出直すのはごめんなので、正直助かった。これまでも、同じ理由でなかなか遠出は出来ないことが多かったのだ。同じように女性の護衛が同行できれば、マリエルも他の魔法使いたちと一緒に行動できるのだが。

領軍にも女性の兵士はいて、これまでは彼女たちに護衛を依頼することが多かった。マリエルが移動するのは概ね領内の公務としてなので、領軍が護衛に当たるのは当然のことではあるのだが。該当する女性兵士が少ない分、難しいことも多い。

その意味でも、傭兵たちが辺境伯領に在住してくれるのはありがたい。

辺境伯領では、領軍だけで回りきらない仕事がまだまだ多い。こうしたインフラ工事はもちろん、魔獣討伐や辺境の調査など、多岐に渡る。国境を越えた先の隣国との関係は今のところ落ち着いているが、全く無警戒という訳にもいかない。領軍を遊ばせておく余裕はないし、こうした散発的な魔法使いの派遣にはなかなか人をさけないのだ。

「今後は、希望者がいれば領軍に編入することも考えているそうです。人手は、ずっと足りないので」

「あ、ああ……そう……」

マリエルの言葉に女傭兵はとまどったように瞬いて視線を逸らした。少し、間を置いて問いかけてくる。

「あのさ。お嬢さんが、レイ副長の嫁になるって聞いたんだけど……?」

「あら。『レイ副長』というのは、レイノルドさんですわね?」

こちらも瞬き返したマリエルは、とりあえず対象人物を確認する。万一違う『レイ』なんとか氏の話だったら困る。

「そう、そのレイノルドなんだけど……ホントかい?」

「うーん、まだ嫁とかそこまでの話にはなってないと思うんですが、話自体はありますよ」

詳しい話はマリエル自身聞かされていないし、レイノルドがどういう話をされているのかも知らないが、話自体は確かに存在する。おそらく、傭兵たちも薄々気づいて様子を窺っているところだろう。

「え、えーと……お嬢さんは、どう思ってんの?」

「んー……『どう』という言葉の意味にもよりますけど。レイノルドさん個人は、問題ないかな、と」

問題なのはむしろレイノルド側の心情だろう。何しろ彼の元婚約者はマリエルの異母姉。なかなか問題児だった彼女と、残念ながら半分だけとは言え血のつながった姉妹なのだから。

その辺りを適当にぼかしつつ説明したが、相手は今ひとつ納得いかないようだった。

「うーん、その前の婚約者ねえ。本人はあんまり気にしてないと思うけど」

「そうでしょうか?」

「あいつ、自分のこと話さないからねえ。でも前に絡まれたことがあってさ」

おそらく貴族時代の知り合いではないか、と思われる騎士に声をかけられたことがあったという。かなり侮辱的なことを言われたそうだが、当のレイノルドは飄々と受け流したそうで、マリエルの前世記憶で言うならぬかに釘、というやつだ。相手が元婚約者・チェルシーのことを口にしても全く反応しなかったらしい。「そういう人もいましたね」程度に流されて相手も突っ込みようが無かったと。

まあ確かにマリエルが見ていた限りでも、レイノルドはチェルシーにこだわっていた様子はない。親に婚約者と定められたからそのように扱っていたに過ぎず、彼女個人には思い入れも感じなかった。

「でも、今はどうなんでしょうか。……容姿も良いし腕も立つのですもの、女性からは好かれるのではなくて?」

「ああ、それはまあね」

頷いた女傭兵はしかし何とも微妙な顔をした。

「見た目がいいからきゃあきゃあ言われることはあるんだけど……当人が反応しないから、まともな女は近づかないんだよね」

「……『まとも』でない女性は?」

「……うぅーん……お嬢さんにする話でもないんだけど……」

攻略対象だっただけあって、レイノルドは容姿もスペックも優れている。伯爵家からは出されたものの、傭兵としてやっていけるなら経済力もある。平民の女性が結婚相手に望んでも何ら問題は無いタイプだと、そうマリエルは認識していたのだが。

実のところ、レイノルドは最初のうち些か傭兵団でも浮いていたのだという。腕は立つが、真面目で堅苦しいところもあるためだ。容姿も、周辺から際だって却って悪影響だった。

「まあ、悪い子じゃないし実力があるから、今はそうでもないんだけど。最初のうちはね、こっちも為人を知らないじゃない?」

孤立していたところへ、その容姿に惹かれた女性たち(傭兵では無いが関係者だったらしい)が取り囲んで声をかけたらしいのだが。その反応が全く、『無』だったらしい。

「傭兵なんてやる奴は大抵頭の中身より筋肉が発達してて、特に若い男はちょっと粉かければいくらでも遊んでくれる、むしろ稼ぎを使う宛てがないので貢いでくれる、というのが彼女たちの見込みだったらしいが。レイノルドは全くそれに該当せず、『面白みの全くない朴念仁』という評判が定着したそうだ。

「まあその手の、『売り』の子ばっかりじゃないんだけど。誰が相手でも事務的な会話以外まともに口もきかないんで、さすがにねえ」

「あー……」

マリエルの前世記憶にあるゲームでも、レイノルドは『真面目な騎士』だった。その真面目な堅苦しさがヒロインとの交流で和らぎ、本人もとまどいながら彼女に対する態度に熱を帯びるようになる。ただしそこに至るには、かなり面倒な攻略をこなす必要があった。もちろんそういうのに萌えるタイプにはウケが良かったが、それ以外からは『めんどくさい』『糖分不足』『ご褒美弱い』と評判はいまいち。

ちなみに他の攻略対象も、そこそこ攻略には手間がかかるが、レイノルドは群を抜いていた。一番『チョロい』のはリチャード第二王子である。攻略難易度に順序をつけると、王道王子様ことリチャード>インテリ眼鏡スレイ・ケインズ>チャラ男(フォスティーヌの婚約相手)>ショタ魔法使い(アール)>真面目騎士レイノルドといったところ。

それぞれにファンがいたらしいことはマリエルもうっすら覚えている。ただマリエル自身はそこまで入れ込んだゲームでは無かったし、特に『推し』もいなかった。

そして、この世界の知識と常識で考えると、レイノルドが敬遠されがちなのもわからないではない。

容姿はいいし腕も立つ。貴族の籍は失ってしまったが、むしろその方がいい、という者もいるはずだ。にもかかわらず、距離を置かれている、というのは概ねその性格のせいだろう。

決して、人間的に問題のある人格では無い。真面目な、気性のまっすぐな男である。だが何につけ真面目が過ぎて融通が利かない、本人が強い分弱い他者に対する共感がない。

繰り返すが、決して悪い人間では無いのだ。ただ、ゲーム上では母親に強く抑圧されていて感情表現が未発達、他者に対しても心を寄せることができない、という表現がされていた。どこまでそれに準拠しているかはわからないし、傭兵たちとの会話も楽しそうには見えるが、それでも微妙に距離を置いている感もある。

本人がどう感じているかはマリエルも知らない。そもそも彼の内心を明かされるほど親しい友人がいるかさえ。

いろいろお膳立てはされているが、マリエルとレイノルドが二人で会うことは今のところない。マリエルは未婚令嬢であり、基本は付き添いの使用人がいる。魔法使いとして公務に赴くのは例外で、それでも護衛はつく。今後、その護衛がレイノルドになる可能性もあった。というか、領主(祖父たち)がそれを目論んでいる可能性はかなり高い。護衛として四六時中行動を共にすることで絆されてくっついてくれたら、と望んでいるのだろう。

正直なところマリエル自身、嫌悪も好意も無い状態なので。どちらに転ぶか、自分でもわからない。そしてレイノルドについては、しろと言われれば素直に結婚しそうな気もする。

どちらもあまり、情熱的な恋愛にはたどり着けなさそうだが。『家族』としてなら、やっていけるのかもしれない。


野営でしばらく時間をかけて隧道を掘り、そこへ至る道を整備し、ある程度の目処をつけるには半月ばかりかかった。マリエルは隧道を貫通した辺りで護衛と共に領都へ戻ったが、後は他の魔法使いたちが頑張ってくれたそうだ。

「それで、どうするの?」

ライラは楽しそうに苦笑している。マリエルは素知らぬ顔でお茶を啜った。

魔法使いの仕事をしたらある程度まとまった休みをもらうことになっている。特に今回は遠出でもあったので、休みはそれなりの長期になった。

元々、魔法使いと事務職の両方を掛け持ちするのはかなりハードなので、マリエルには休みは多めに与えられている。本人も無理はしないつもりだ。

「とりあえず、今回の工事にはもう私の手は必要ないでしょう?しばらくは真面目にお仕事しますよ」

「無理はしないでね。……その間『彼』はどうするつもり?」

「……それは、私がどうこうすることではないのでは?」

従姉の言う『彼』がレイノルドを指すのは理解している。だが本人は何も言わないし、祖父や伯父など誰かから指示があるでもない。

それはたぶんお互いにそうなのだろう。誰かに何か言われないと動けない、というか動く必要性を感じない。

マリエル自身は直系ではなくとも領主の家系で、政だけでなく実動部隊としても動ける貴重な人員、という自負はある。護衛をつけてエリックとは別に動かせるなら、上層部には願ってもないことだろう。

またレイノルドの方も、領の治安維持に組み込めるならとても役立つ武勲の主だ。どうも一兵卒としては微妙なようなので、単独の護衛なら取り込めそうなところに置いておきたい、というこれも上層部からの希望が感じ取れる。

「……『結婚しろ』とおっしゃるなら従いますよ。向こうもそれは同じでは無いかしら」

「否定できないのよね、困ったことに」

むくれたマリエルの愚痴にライラは苦笑を返す。この直接の関わりが無い彼女にさえ、レイノルドのその気性というか振る舞いは知られている、ということだ。

良くも悪くも、主体性のない二人相手では婚姻に至るには果てしない時間がかかるだろう、と本人であるマリエルもそう思っていた。


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