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転生令嬢は、ゲーム世界をひっそり生き延びたい  作者: あきづきみなと


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19/20

転生モブ令嬢は、辺境の地で忙しい・3

他国に通じる街道は整備され、日頃から使う者も多い。領内でも、その街道に通じる道はそれなりに手入れもされるし通行量がある。

だがもちろん、あまり使用されず知られていない道、というのも少なくない。そんな道だから重要度が低い、とは言えないのが難しいところだ。

「正直、辺境領は広さの割に人間が暮らしてる土地が少ないってのはありますよね」

エリックは淡々と語るが、同行する他の魔法使いや傭兵たちも特にとがめるわけでも無い。

向かう先は前述通り、領内でも主要な街道は通っていない地域だ。だが幾つかの集落があり、辺境領としてはそこそこ栄えている。ただ他の土地からは交通の便が悪いだけで。

領都からそこへ向かう道程は距離はさほどではないが、幾つかの難所がある。切り立った峡谷に沿う道、馬が嫌がる細い橋、といった辺り。ほとんどは、かろうじて一頭引きの馬車が通れるがすれ違いは難しいような隘路だ。

この先にも集落はあるが、道が限られるので住人は少なく、生活は厳しい。しかし、この山村でしか育たない作物があり家畜がいて、規模は小さいものの領内でも重要な土地の一つなのだ。

「特に、この先の村々で飼われてる山羊の毛を紡いだ布は、輸出品としても高値がつくんですよ」

岩山にへばりつくようにある村は、そうした地域に密着した特産がある。そうした、特徴的な産物がある集落しか残っていない、とも言える。

エリックは魔法使いたちの、いわば現場責任者だが。領主の一族でもあり、将来的には政に関わる可能性も高い。今もある程度は交易を理解し、どこから対応を進めるか、優先順位をつけている。

その彼の判断では、今までなかなか手を出せなかったこの経路を拡張して安定化できれば、領内の発展に寄与が見込めるという。

「まあまず、試しにやってみないとわかりませんよね」

マリエルもエリックを信用しない訳ではないが、これだけで一気に進められるものでもない。とりあえずは最初の一歩、と考えている。

「今回向かう道が、一番領都からは手近ですからね。手始めにはちょうどいいでしょう」

人間だけで無く機材なども馬車に積んでほぼ半日で着くのだから、まだ全然近場だ。それらの事情もあって、同行者は普段よりかなり多い。

エリックが率いる魔法使いたちと、レイノルドについてきた護衛としての傭兵、そして荷運びや雑用をこなす使用人もそれなりの数が同行して、大人数での移動だ。辺鄙な集落には泊まる場所もないので野営になるが、そのために使用人を連れてきている。

「傭兵の方々がいるので、ある程度連れてきても安全が確保されていると思いまして」

エリックはけろっと言ってのけ、レイノルドたちを苦笑させる。

エリックは個人主義な魔法使いたちを扱うのが上手い。魔法の腕はほどほどだが、そうした人の使い方が巧みで一目置かれている。だからこそそのまとめ役として機能しているのだ。彼をまとめ役に任命したのは、マリエルの祖父か伯父か、その辺りの人間だろうが。よく人を見極めているのだと思う。


「確かにこの地形だと、安全性に不安はあるな」

細い道が、岩肌に張り付くように延びている。路肩の片側はそれなりに流れの急な渓流になっていて、危険は明白だ。

「この状態だと、道幅を広げるのも難しいですね」

足場を築く余地もない道幅は、通常の土木工事で対処できる土地では無い。人力か、せいぜい駄馬くらいしか使える手段がないので、難工事を諦めざるを得ないことも多い。

そこに魔法を持ち込んだのだ。

「エリック従兄様。この道は、山麓を回り込んで集落に至るのでしたわね?」

「ああ、そうだよ」

応じて地図を広げようとするエリックをマリエルは軽く手で制した。

「でしたらいっそ。この山腹に穴を開けたらどうでしょう」

「穴!? ……なるほど、隧道(トンネル)か……」

重機があるわけでは無いこの世界、規模の大きな土木工事も人海戦術でしか進められない。だが、その「人海戦術」の中に、マリエルの前世ではなかった「魔法」という手法が含まれている。本来の物理法則を無視して物理現象を起こす、神秘の力。しかしこういう場合、とても実用的でもある。

「ここから、沢に沿ってかなり登って、それから降りて来るという経路でしょう。でしたら、ここを抜いたら距離も短くなりますし」

前もって調べた限りでは、この道に立ち塞がっている山は特に重要なものではない。そこそこ急峻だが岩ばかりでこちらの山自体に特産は無い。鉱物資源も特にないようだ。地域の伝承だのなんだのもないので、本当にただの障害物。

だったらいっそぶち抜いてしまえ、と思ったし、多分今のマリエルの土魔法なら実行可能。

「そんなことが可能なのか?」

レイノルドや傭兵たちは懐疑的だが、マリエルにはある程度勝算がある。また、彼女の魔法の威力を知る魔法使いたちも。

「もちろん、一気に山を貫くようなことはできませんわ。ですが、位置を慎重に見定め、一気にではなくある程度の時間をかけて掘り抜くのなら、十分に可能だと思います。……それに、私一人でやることでもないでしょう」

言えば、エリックはじめ他の魔法使いたちも頷く。

「確かに、力を合わせて時間をかければ、決して無茶でもない、な」

「それは、大きな仕事ですね……!」

岩山なので、穴を開けても水が出る可能性は低い。深く根を張っている植物も、そこまで深いものは無いだろう。

そうした細かい諸々の調査はまだ必要だが、ただ道を整備するだけでなく新しく便利な経路を構築する、というのは魔法使いたちにとっても意義が大きい。

「まずは、道を含めて測量しよう。ある程度機材を運ぶ必要はでてくるだろうから、やはり今ある道は補強したいな」

「最低限にはなりますが、それはやりましょう」

わいわいと盛り上がって意見交換する魔法使いたちに、傭兵たちの方は呆れたような面白がるような目を向けている。


「なかなか面白いお嬢様じゃないか」

小声で傭兵仲間に囁かれたレイノルドは、マリエルに向けた視線を動かさないままこちらも小声で応じる。

「あそこまでしっかりしているとは、俺も知らなかった」

レイノルドにとってもマリエルは、ただ母が固執していた令嬢にすぎなかった。彼女個人というより、母の妄執が重荷で本来対象だったはずの相手のことはほとんど知らない。『間違って』婚約した彼女の異母姉のこともよくは知らないくらいだ。

その異母姉チェルシー・フォジョンはなかなか強烈な令嬢だったが、しかしこちらのこともレイノルドには結局よくわからないままだった。

見た目だけなら、そこいらにいる貴族令嬢でしかないし特に思い入れは無かった。だが学園に入学してからと言うもの、こちらが引くほどしつこくつきまとってくるようになり。しまいにはレイノルドのそばに他の令嬢が寄ることさえ難癖をつけて当たり散らしたりする始末。

友人たちからも「あれはちょっと」「どこが良くて婚約したんだ?」と突っ込まれる日々だった。もっとも婚約に対しては、レイノルド自身の意思は全く含まれていない。実際のところ、当主である父の意見も入っていなかったらしい。明らかに母の独断だった。

しかしその母にとっても、フォジョン子爵家との婚約は『間違い』であり、本当はマリエルとの婚約を結ばせたかったという。よくそうこぼし、幼いレイノルドに『あんな相手と親しんではいけない』と言い聞かせたものだが。

齢の離れた兄たちは、そんな弟を哀れんでよく鍛錬に連れ出してくれた。意外に思われるかもしれないが、レイノルドと兄たちの関係は良い。年齢がかなり離れているせいもある、下の兄でさえ5歳上で既にどちらも妻帯している。はっきり言って母だけがこの家の異分子だった。

本人その自覚もなく、一方的にレイノルドに依存していた。当時はレイノルド自身幼くてよく状況をわかっていなかったのだが、ある程度年齢を重ねると実母がまともでないことはわかる。

そもそも母が父の後妻に入ったのも、彼女の実家が無理矢理に頼み込んでのことだった。別に母は素行が悪かったわけでも無いのだが、貴族子女の通う学園でも人脈を築くことが出来ず、自分の嫁ぎ先を見つけられなかった。

友人はそれなりに出来た(と本人は言う)が、そちらからの紹介も無く。持て余した実家がすがりついたのが、妻が病死して息子二人を抱えていた当時の騎士団副団長、レイノルドの父だったという。

何というか、母は「そういう」人だった。勉学もマナーも、優秀では無くとも及第点はとっている。だがしかしそれだけで、その先に残るものが無い。いわばその場しのぎ。別段悪意があるわけでは無いが、向上心もない。ただちやほやされて気持ちよくなりたいだけの、甘えた性根の持ち主であるだけだ。

もちろんレイノルドも幼い頃は母を慕っていたが、気まぐれにちやほやしたり逆に素っ気なくあしらわれたり、と不安定な彼女より兄や使用人たちの方が頼れたし信頼できた。兄たちも、若い後妻には歩み寄ろうとしていたらしいが当人の振る舞いが信用できなかったという。またその母の実家も伯爵家にはほとんど関わらず、前妻の実家が兄たちの後見についたこともあってレイノルドの立場はかなり不安定なままだったが、母はそのこともわかっていなかったようだ。要は彼女、実の親にも見捨てられていたらしい。

本人そのことをどこまで理解していたか定かではないが、ある時期からはレイノルドの婚約者を見つけようと躍起になり、その結果がフォジョン子爵令嬢との婚約だったので、実際そういうことに向く人間ではなかったのだろう。

レイノルド自身は兄たちや父との交流もあり、鍛錬も受けて将来は騎士団へ入るつもりだったので、婚約をさほど重要視していなかった。が、母もフォジョン子爵家もまるで彼がフォジョン子爵家のために鍛錬しているかのように思い込み、特にフォジョン家の令嬢チェルシーは学園内でもしつこくつきまとい、『婚約者として自分を甘やかすべき』と贈物やデートを強要した。すごく面倒くさく、レイノルド自身あまり相手にしなかったのだが、そうするとチェルシーは彼の数少ない友人にまで絡むようになった。相手がただの学生であるならまだしも、当時レイノルドが親しくしていたのは第三王子も含んでいた。全く忖度なしに、むしろ喜んで彼に絡んでいこうとするチェルシーを制するのは、レイノルドにとって鍛錬より骨が折れた。

第三王子のリチャードは、おっとりしているようで意外に鋭い。チェルシーに対しては当たり前のように無視し、まるで眼中になかった。とは言え婚約者と親密だった訳でもない、むしろあまり親しくなりすぎないよう気遣っているように見えた。

結局婚約を解消し、辺境の地へ行くことになったと聞いた時は、むしろそれがリチャード自身の望みだったのだろうと納得したくらい。

正直なところ、その婚約者だったフォスティーヌが婚約を結び直した侯爵令息の方が野心はあった。リチャードの婚約解消後、彼女に素早く声をかけ、侯爵家に話を持ち込み。さっさと新しい婚約を結んでしまった、早業ともいえる所業。侯爵家の従属爵位しか得られないが、嫡男で無い立場としては十分だろう。またフォスティーヌとその実家も、王都の社交界に残るという利を見込んでそれに応じた。

その辺りについてレイノルドは口を出すつもりは無い。ただ彼自身としては、華やかな社交界から距離を置いたリチャードの方に納得が出来る。チェルシーとのトラブルがなくとも、王宮騎士団は辞するつもりで実父とも話しているところだった。

チェルシーというか、その実家のフォジョン子爵家の内情を探るため、婚約をあえてそのままにしていた部分はある。正直とても面倒だった。





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