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転生令嬢は、ゲーム世界をひっそり生き延びたい  作者: あきづきみなと


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16/16

転生モブ令嬢は、辺境でたくましく生きる

「お疲れ様ー」

「お疲れ様でした、マリエル様」

文官としても魔法使いとしても、忙しく働いていると知り合いが増えていく。

マリエルは学園入学まではこの辺境領にいたが、ほんとうに幼い頃は王都にいたので幼馴染という存在はいない。その時期に養父母が紹介してくれた土地の子女とは再会したが、彼女たちはほとんど結婚しているか、結婚が決まっているかだ。

ただ、その中にもマリエル同様文官の職に就いている者はいて、彼女たちとは職場で一緒に昼食をとったり休みは買い物に同行したりすることもある。

女性の文官もそれなりにいるが、大概辺境領でそれなりの家、地方の豪士の娘や領軍の士官子女、或いは商家の娘といったところだ。更に数は少ないが武官、領軍にも女性はいる。こちらはほぼ士官の子女に限られるが。ちなみに魔法使いは母数が少ないので、ほぼ女性はいない。

要は彼女たちの身元は保証されているので、マリエルがき合っても支障はない相手ということだ。相手も、マリエルが領主の親族であることを承知の上で接している。

仕事上は、ライラや更にその上の伯父や祖父たちの権限で特別扱いはせず一職員として働いているのだが。職場を離れてしまえば、やはりそれぞれの家だの育ちだのがでてきてしまうのはしょうがない。そしてマリエルはあまり地縁がなかった分、入りきれないでいるところがある。

「だから、声かけてもらうのは嬉しいけど無理はしないでね」

「しませんよー、無理な時は声かけませんから」

それでも、一緒に食事をしたり領都で若い女の子に人気の店を教えてもらったりするのは楽しい。同僚の女性たちもほぼ結婚が決まっているので、却って色恋沙汰の話が出ないのも気楽だ。

彼女たちは結婚と同時に退職して家庭に入ることが確定している。子どもをある程度育てた後、短時間勤務に戻ることも珍しくないが、結婚から出産・育児の期間は家庭に入るのが一般的だ。そのための補助も出している。

その分、結婚前の女子職員は気楽ではある。だが細かい事務作業ができる人間がこれだけいる辺境伯領、国内では相当に進んでいる地域だ。領内の孤児院でも読み書きと計算は教えており、できるだけ技能をつけて身を立てられるようにしている。

そのおかげか領都内の治安は良く、休日に護衛をつけずとも街歩きに行けるくらいだ。


領都は王都より古い重厚な建物が多い。けれど通りは広く整備され、馬車がすれ違う余裕もある。立ち並ぶ店は明るい窓に商品を並べ、或いは庇の下に新鮮な農産物を広げ、とそれぞれに目を楽しませる。

広場には軽食や旅商人の屋台が並び、美味しそうな匂いや音が流れている、という盛況ぶり。同僚や侍女のエリザとそぞろ歩くのも楽しい。食べ歩きや雑貨・小間物を見たり、いくらでも楽しみようはある。

辺境は他国からの交易も盛んで、目新しい品物も多い。布や装飾品など、日持ちするものから農産物や酒・菓子など、多岐に渡る。

「マリエル様、今日は東国からの行商団が市にきて店を開くそうですわ」

「あちらからだと、手の込んだ織物や細工物も美しいですわね」

辺境は他国との流通も盛んなため、国内では珍しい工芸品や他の諸々も入ってくる。そうした諸々の知識においては、この領地の者は王都よりよほど知識もあれば目も肥えている。マリエルもいろいろ勉強させてもらっているところだ。

「この蜜掛けのお菓子美味しいわね。どこのものかしら?」

「こちら、東国のものですわね。甘さは一番ですわ」

「でも香りならあちらもお薦めですね、好みもありますけれど」

若い娘たちがにぎやかに露店をひやかしていても、絡んでくる無作法者はいない辺りが、治安の良さを示している。店主は時折言葉が怪しげだったりはするが、それでもごく行儀はいい。そういうものしか店を出せないよう、きちんと監査している。その意味では、王都よりも却って治安はいいかもしれない。王都ほどに都市が広く入り組んでいないことも幸いしている。少なくとも貧民層が住み着いたような所謂スラム街は無いのだ。

領都で食い詰めれば、開拓民として更に辺境へ行くことができる。生活は厳しいが、最低限の仕事と食い扶持は与えられる。

ちなみにマリエルが一番気楽に付き合えるのはエリザだが、彼女にとっては仕事だとわかっているので、あまり時間は取らせないようにしている。同僚の女性たちも気をつかってくれるし、いろいろ情報も教えてくれるので、参考にもなる。

「東国からは久しぶりではなくて?小規模にはきていたようだけど」

「魔獣討伐があったらしいですよ。それが終わったから来られたんですって」

「そうそう、何でもまだ若い傭兵がかなり活躍したとか」

彼女たちの親族、もしくは婚約者の家族などは領政に関わる者が多い。そのため、それに関する情報も意外に早いことがある。

「それは何よりですわ。流通や開拓にいい影響がありそうね」

本当に彼女たちは情報が早いのだな、とマリエルは素直に感嘆していたのだが。


「その傭兵団に報奨を出すことになったの」

ライラは楽しそうに宣った。

「『報奨』ですか」

「領内の治安向上に貢献してくれたからね。東国からの街道沿いで、大型魔獣が出て困っていたところだったから」

東国は、政治的にはあまりこの国に関わりはない(互いに無関心)だが、交易相手として辺境では重要だ。入ってくる品物は多く種類も豊富で、またこちらから送るものも人気らしい。更に東国の品を王都に持っていけば、3倍から5倍の値がつくという。輸送の手間を考えれば、いうほどの利益ではないのだが。

王都しか知らない者は、貴族子女でも辺境を侮ったりするが、教育が行き届いていれば商人の家でも敬意を払う。辺境経由の交易を行うことで成り立っている商会は多い。

「その街道の安全を確保してくれたから、討伐の報酬とは別に報奨金を出すことになったのよ」

本来傭兵団は、領地の職員ではない。領内の各地に配置されている領兵が正職員であるなら、彼らはいわば派遣または嘱託の職員だ。商会の旅団に護衛として雇われることも多い。

また彼らとは別に、魔獣退治や商団の護衛を仕事とする冒険者という職業もある。こちらは完全にフリーランスで、互助組合となるギルドもあるが、この国ではあまり活動は盛んではない。話によれば東国や更に違う方面の諸国ではそれなりに多い職業らしい。

マリエルの前世記憶によれば、何でも屋的なイメージが強い『冒険者』だが、この国に限っては能力があれば傭兵、更に騎士として雇われる場合が多いこと、魔法使いの数が限られており概ね地方の組織に組み込まれていることなどが理由と思われた。転生者としてはちょっと残念だが、魔法があまりメジャーでない時点でいわゆるファンタジー世界とは違うことも理解している。

ただ魔獣の存在や彼らによってもたらされる魔力の塊・魔石とそれを動力とする便利な魔導具などは十分にファンタジーだ。魔法もメジャーではないとは言え、国家としての研究開発の対象ではある。

「討伐が叶って良かったですね、場合によってはもっと時間が必要になったでしょう」

「そうね。……今回報奨対象の傭兵団は、長く辺境領を縄張りにして活動していたのだけどね」

ライラの説明によると、その傭兵団と辺境伯の付き合いもそれなりの長さに及ぶらしい。特に先年引退した前の団長は、辺境伯たる彼女たちの祖父とも親しくいわば良い友人でもあるという。ただ、その前団長が引退してからどうも傭兵団もあまり芳しくなかったようだ。魔獣の討伐は減り、護衛の任務が増えた。

護衛の方が楽で安全性も高い。その分報酬が下がるが。そして楽な仕事ばかりこなしていれば、実力は落ちる一方だ。

実際、ここ最近まで辺境伯家でも傭兵団の実力低下は問題視されていた。が、最近になって加わった若い傭兵が実力者だったとかで、周りも共に鍛錬することでその能力を引き上げてきたという。

「まあ、それは……良かった、のですよね?」

単純に『良かった』で済ませていいものでもないかもしれないが、マリエルや辺境伯側としてはそういうしかない。領内の傭兵団は、直接の関係はないにせよ弱体化するのは望ましくない。いざという時は協力を要請する可能性もあるのに、そうした時になって使いものにならなかったら、こちら側もたまったものではない。

前の団長も気に病んでいたらしいが、引退した身ではなかなか口も出せないでいたようだ。またこの機会に、腕が立つ傭兵を領軍に引き抜こうという動きもあるとか。

「とりあえずは、顔をつなぐ意味でも来てもらわないとね」

ライラは上機嫌で彼らを招く式典の話を始める。マリエルもその話を聞きながら、招待される傭兵の名簿をまとめるのを手伝った。


領政の手続きとして招くなら、それはいわば領内の公共行事だ。場所も、領主邸の中でも公共行事に使用されるホールで開催の予定になっている。

堅苦しいことは望まない、と言うので立食パーティーを予定しているが、いろいろ準備が必要だ。

傭兵団は、領兵とは扱いが違う。同じ領民である領兵は同郷だが、傭兵はどちらかと言えば他から来た者が多く、言ってしまえば余所者感が強い。とはいっても他の領や他国との交易が盛んな辺境領では、余所者だからと排斥されるわけでは無い。若干の距離はあるが、それはしょうがないだろう。

だからこそ公の場で彼らをお披露目し、領内の有力者などともつながりを持たせたいという目論見もある。

「傭兵だし、量は食いそうですよね」

「いい機会だから、お腹いっぱいになってもらいましょう」

傭兵は、騎士になれなかった、或いはなったが辞めなければならなくなった者が多い職業でもある。そのため、元は貴族の出だったりまだ貴族籍がある者が含まれていることも珍しくない。そうした者も大概は今の職業に順応して大声で笑いにぎやかに呑み騒ぐが、迎える側としてはそれなりの格式も、堅苦しくない程度に示しておきたい、というのが祖父や伯父たちの意向らしい。

そうなると、貴族としてのもてなしを了解しているマリエルは貴重な戦力だ。

元々事務方兼魔法使いという、多忙な職を掛け持ちしているのでかなり忙しい。もちろんそれなりに休みも取ってはいるが、することが多すぎて手が回らない始末。ライラや他の職員たちも気を回してくれはするが、そちらはそちらで忙しいのも事実だ。なので領都から離れる魔法使いの仕事はしばらく免除してもらった。

エリックたち他の魔法使いたちは残念がっていたが、彼らは彼らでがんばってもらわねばならない。大がかりな仕事でなくともやることは幾らでもある。


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