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転生令嬢は、ゲーム世界をひっそり生き延びたい  作者: あきづきみなと


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14/16

転生モブ令嬢は、乙女ゲームの腹黒攻略対象を廃棄する

義理の両親でもある祖父母がようやく辺境伯へ引き上げることになったのだが。

「あなたにも、縁談を用意しないといけないわね。それともどなたか、想う相手はいたりするかしら」

「……お義母様、お気遣いありがとうございます。今は学問に励むので精一杯です」

義母である祖母は、祖父より格段に若く見える。人脈も豊富で、表立って社交に勤しむでもなく国内の情報収集を成している、有能な貴族女性だ。引き取られてからは良くしてもらっていると思うが、少し距離がある。

若いうちは恋愛も楽しんでおきなさい、と口に出して言われたことはないがそういう思惑が感じ取れて困惑している。マリエルは実の父がアレで、更に前世の記憶があるせいか恋愛に興味がない。結婚は貴族の義務ととらえているので仕方がないが、しなくて済めばその方が有り難い。

そうした機微を理解してもらうのは難しいことも承知している。平民や低位の貴族なら嫁に行けず独身のまま年を重ねる女性もいるが、高位の貴族女性が嫁ぎ先が見つからない、というのはありえないことだ。一度嫁いだが破綻して修道院入りとか、高齢の夫に介護要員で後妻に入るとか、そういうパターンはあるが、あまり外聞は良くない。祖父母たちもそれは望まないだろう。

マリエルとしても、結婚したくないというほどでもない。ただ恋愛結婚は無理だと思うので、適当に都合の良い相手でもあてがってもらえればいい、程度なのだ。


「大奥様も、マリエル様を案じてらっしゃるのですよ」

「それはわかっているのよ。ただ、それなら相手を斡旋していただいた方がいいかもしれないわ。自分で探す気力もなくて」

学園入学以来、いろいろトラブルに見舞われながらもマリエルも自分なりに動いていた。友人たちとの親交を深め、付き合いのない家の情勢を見、義父母や伯父、いとこたちとかぶらない人脈を少しずつでも広げて。国内の領地についての知見はずいぶん深まったと思うし、そこここの領地で交易に値するような品に目星をつけたりもした。実際に交易の契約を結ぶことはできなくても、互いの領地の特産品を交換したりは普通にしていたし、相手も交易相手を探す者が多かった。先方が求める条件とこちらの希望が折り合う点を探す折衝はやり甲斐があったし、義父母たちの承認を得て形にできたものもある。

そうした日々に、色恋沙汰が入ってくる余地はなかったのだ。

フローラやスザンナたち、友人のいわゆる恋バナも聞くのは楽しかったが、こちらから語れるネタはない。彼女たちもその辺りは薄々察したらしく、最近ではその手の話をマリエルに振ってくることもない。

一つには、彼女たちの側にお勧めできる相手がいないこともあるかもしれない。自分の婚約者関係くらいに広げればともかく、仮にも主家筋にあたるマリエルに推薦するのはそれぞれに難しい。

学園でも、そろそろ卒業後を鑑みて身の振り方を考える者が多くなった。進路を決めた話や新しく婚約を結ぶ者も増え、将来についての話題も出るようになっている。

中には、マリエルの周りをうろうろして声をかけようとする者もいた。だがこの時点で全く交流のない相手につながりを持とうとするのは、あまりに遅い。跡継ぎでなければ既に先行きを考え、自分で進路を選んでいなくてはならない。後継者以外の子どもは嫁入り婿入りも政略によってはある、しかしその話もないのに自分の将来を考えていなかった者はさすがに使えない。

「私も高望みしてるつもりはないんだけど」

溜息を吐くマリエルに、昔から彼女付きのエリザは苦笑する。

「高望み、とは申しませんが。……ご結婚したくない、というとは些か難しいお話ではございますよ」

「……結婚したくない訳じゃないわ、政略結婚でいいから、私に話を持ってこないでほしいってだけなのに」



意外な人物が声をかけてきたのには驚いた。スレイ・ケインズ伯爵令息。リチャードの側近で『攻略対象』の一人、いわゆるインテリ眼鏡。リチャードやリラ関連で少し会話したことがある程度の相手だ。

「ご存知の通り、私も婚約者はいません。家の方も、後継者は兄がいますので……」

銀髪と薄い緑の瞳の、線の細い知的な美形。『ゲーム』では『毒舌で厳しいことを言うが、周りの状況を良く見て必要な助言をしてくれる』キャラだったはずだが、現実ではそうはいかないらしい。

「はあ……それが、どうしましたか」

回りくどい物言いに飽いて素っ気なく返せば、明らかに気分を害した様子で黙り込むが。ぶっちゃけてしまえば、他にも同じような話を持ち込んできた者がいるだけに、マリエルもそうそう気を遣う必要性を感じない。要は選択権はマリエルの側にあり、彼女が「選ぶ側」なので。

「いえ、ですから」

にもかかわらず自分が『どれだけ顔が広いか』『いかに影響力があるか』を具体性のない、どうとでもとれそうな物言いで繰り返し語る彼にうんざりする。底が浅い、ということだなと納得もした。

「ケインズ伯爵令息、失礼ですが。あなたの提案が私には理解しかねますの。もう少し具体的に、もしくは簡潔にご説明いただけませんかしら」

貴族の社交に於いて、あからさまな物言いは下品だと厭われやすい。またはっきりした言質を取られることを厭うことも多く、曖昧な言い方でわかる者にだけわかる、という風潮もある。

だが曖昧な言い方ゆえに齟齬が起きることも珍しくなく、その使い分けはなかなか難しい。マリエルやフォスティーヌも、級友たちとのお茶会や他愛ない雑談では曖昧な物言いを駆使して言葉遊びに勤しむこともあるが、逆に言えば必要な場合はきちんと確実な言葉を口にする。更に文書にすることもある。要は使い分けが大事なのだ。

その意味で言えば、さして親しくもないマリエルを訪ねてきて言質を取られないよう曖昧な物言いをするスレイ・ケインズは、貴族らしく用心深いが、些か不躾で失礼な振る舞いではある。彼としては、決定的なことを口にして弱みを握られたくないのだろうと推察できるが、それでは話が進まない。

「いや、私からは提案というほどのことではないのですが……」

「あなたが婚約者がいらっしゃらないこと、ご実家を継ぐ可能性の低いことは理解しましたわ。その上で、私に告げたいことがおありではなくて?」

同じ学園に通っているのに、わざわざタウンハウスに訪ねてきてまで話したいことがあるというのだから。

まあ実際はマリエルも薄々わかってはいる。要はスレイ・ケインズも、婚約を申し込みたいのだ。だが矜持が高いのか拗らせているのか、自分からはっきり言わず、マリエルの方からそれを言わせることで精神的優位に立とうとしているように見受けられる。

だがもちろん、マリエルがそれに付き合う理由はない。

「私の勘違いなら申し訳ないのですけれども。ケインズ伯爵令息、ひょっとして(わたくし)に婚約を申し込もうとなさっていますの?」

華奢なカップに淹れたお茶で唇を湿し、ゆったりとそれをソーサーに戻してからおもむろに問えば、さっとその白皙に血の気が差した。

「……いえ、あくまで一つの提案として、ですが。お互いに損はないと考えています」

「『損はない』と仰いますが、では利はございまして?私の方には利益がないように思いますけれど」

さくっと切り返せば彼は一瞬何を言われたか理解し損ねたように目を瞬いた。

スレイ・ケインズは宰相の息子だが、嫡男ではない。爵位を継ぐ兄がいる。だが学業は優秀で、学園でも試験結果は常に上位の成績を収めている。容姿も良く、女子学生には一定の人気があるのだが。だがしかし、彼も婚約者はいない。個人はともかく、家として婚約を結ぶ利がない、と見られているのだが、当人はそれをどこまでわかっているのか。

確かに成績は優れ見た目も良い。しかし婚約を結ぶことがなかったのは、当人がリチャードの臣籍降下に伴い彼の側仕えになると思われていたからだ。その場合、スレイの婚姻はリチャードの興す家の利が求められる可能性が高く、本人や実家もそれまでは判断が難しい。スレイ本人が思う相手でもいれば別だったかもしれないが。

その上で、現時点でマリエルを訪ねてきた辺り、リチャードに帯同する気はないのだろう。

マリエルの方も思うところはある。彼女自身はスレイが『攻略対象』と認識して近づかないようにしていたが、それでも動向は気にしてはいた。この男、爽やか王子のリチャードや生真面目騎士のレイノルドと違っていわば腹黒インテリ、キャラ的に人気はあるのだろうが、実生活にはあまり向かないタイプだ。現実に学園生活においても、きゃあきゃあいう女子はいても本人に直接好意を告げる者はほぼいなかった。一説によるとそうした告白は言葉の棘で撃退するという。もっともマリエルがその事実を見聞きしたことはないのだが、そう言われて納得するような人物ではあった。プライドが高く選民主義でかつ毒舌。正直、そういうタイプが好きな人間もいることは知っているが、マリエルとしては趣味が悪いと思う。

「私は、卒業しましたら王宮の文官試験を受けるつもりです。合格する自信はありますよ」

「そうですか。でしたら、王宮に勤められてから結婚相手を探されれば良いのではなくて?」

数は少ないが、文官にも女性はいるという。またそれとは別に、王族に仕える女官として働いている女性もいる。いずれも優秀な、狭き門をくぐり抜けてきた才媛だ。

が、言葉を変えればどこかの貴族家へ嫁げなかった、貴族令嬢としては不適格といわれても否定できない立場でもある。

「……何をおっしゃるかと思えば。どうして私が、そんな人間と縁を結ばねばならないのですか」

心底不思議そうに問うスレイは、本気でそうした女性たちを、自分とは違う存在だと思っているのだろう。彼女たちのほとんどはマリエルと同じく学園を卒業してその職に就いている。実家はおそらく子爵家が一番多く、伯爵家・男爵家が次ぐ。高位の子女はまずいない。

おそらくそれを踏まえての発言だが、マリエルには不快なばかりだ。

「皆様立派な先輩方だと思いますわ。……それにケインズ伯爵令息。私の結婚相手に、王宮の地位は必要ありませんのよ」

彼は根本的なところで思い違いをしている。彼自身が如何に高い能力を有していても、それがマリエルの求める能力ではない、という点だ。

「私どもの結婚相手は、辺境でやっていける技量が必要ですの。政治的手腕が無用、とまでは言いませんが重要視しません。更に言えば、王都にとどまる理由もありませんのよ」


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