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転生令嬢は、ゲーム世界をひっそり生き延びたい  作者: あきづきみなと


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転生モブ令嬢は、乙女ゲーム終了後の生活を堪能する・2

正直なところ、マリエルと辺境伯家はサンダンス男爵家とは何のかかわりもない。とはいえ、知ってしまった情報は速やかに領地の祖父母およびそこに仕える人々に共有しておいた。

リラの教育に当たっても相談していたので、話は早かったが。祖父母たちも、サンダンス男爵家については詳しくない。むしろ、国内の貴族との付き合いはほぼないような家だ。

「実際、夜逃げといってもおかしくない」

マリエルの祖父で現在の養父である辺境伯は、この年代にしては驚異的な大男だ。強面で、所謂『貴族的』とは言い難い人物だが、その分頼り甲斐はある。

既に老齢と言ってもいい年齢だが、壮健で体格も良い。息子であるマリエルの伯父たちも部下たちも、腕では敵わないという。政治的なあれこれは不得手だが、そちらは祖母が結構得意だ。

「まあ元から領地というのもおこがましいような、ささやかな土地でしたもの。投げ出すのも躊躇いはなかったのでしょう」

祖父母が珍しく二人とも王都にきてくれた。今回の事象が滅多にあることでもないので、情報収集を兼ねてマリエルの様子見でもある。

辺境伯は王都の政界や社交界とは距離を置いている。こうして王都に来ることもあまり無く、今回も来ていることが知られると余計な招待やら何やらうるさくなるので、内密にしている。彼らの来訪を承知しているのは、フローラやスザンナたちの家くらいだ。

辺境伯の領地は、王都から見ると何もない田舎、と思われることもあるのだが。実際は他国との交易も盛んで王都や他の領地とは一味違った栄え方をしている。もちろん王家や歴史ある大貴族はそれもきちんと把握しているが、歴史の浅い家や単純に勉強の足りない者はそれに気がついていない。『田舎』と侮るタイプだ。

大概は歯牙にかける必要もない小物だが、実はマリエルの実父・フォジョン子爵がその類だったらしい。

立場として辺境伯の産物を他の領地に紹介し、交易を薦めるのが本来の役割だったのだが。結局一度も辺境伯領を訪ねることもなく、貴族生活を終えた。まあ下手にその地位や権力を振り回されても困るので、ある意味それで良かったのかもしれない。

実際、その末路を見ても協力していた方が迷惑だった。

ただ祖父母の目から見ても、サンダンス男爵家のやり方は不審だったらしい。領地や領民といえるのは小さな漁村とその周囲の放牧の集団くらい。国に納める税も僅かだが、リラの話からすると決して窮乏はしていない。むしろその規模からは意外に裕福な様子も伺える。

「子を三人、王都の学園に通わせる金があったのだからな。しかも末の娘は庶子で、わざわざ行かせる必要もなかったのに」

「やはり商会が絡んでいるのでしょうね。国内では殆ど動きもなかったようですが」

祖母のいう、男爵家の商会は国内ではほぼ名ばかりで、収益もあげていなかった。だがその実態は国外にあったのでは、というのが祖父母の見立てだ。

「国内の産物を外国に売るには、そういう届けが必要だからな。それらが出されていなかった、要は密輸なのだろう」

「……お祖父様、輸出が禁止されているような品が、サンダンス男爵領にあるのでしょうか?」

「いや、この場合はな。個々の品目より、届けを出さずにこっそり国外との貿易を行う、それ自体が問題なのだ。商会としての仕入れは申告していたようだが、おそらくそれも不正だろう」

それがバレる前にさっさと遁走した、というのが祖父母のみならず上層部の判断だ。それもおそらく主犯は他国の商会の娘、といわれていた男爵夫人でその商会とやらが裏で糸を引いていたのだろう、と。もっとも婚姻当時届け出されたその商会は現存していない。その時限りで胡麻化したものかそもそも存在しない架空の者だったかは、時間が経ちすぎていて調査できなかった。

ただいずれにしてもリラは関わっていない。関りがあっただろう彼女の義兄たちも姿を晦ましてしまったので、本人も途方に暮れていたそうだ。

「結局のところ、その娘さんが王族と結婚するというので、誤魔化しきれなくなると悟って逃げたのでしょうね」

「では男爵が亡くなったというのも、偽りかしら?」

「いえ、それはおそらく本当でしょう。……問題は、誰かしらの故意があった可能性」

祖母の言葉は淡々としている分、凄みがある。

他国の商会が貴族の婚姻で入り込み、密輸で荒稼ぎした後当主を害して遁走となれば、国際問題でもおかしくない。相手が逃げて行方がしれないから表沙汰になっていないだけで、王国としては怒り心頭だろう。

とはいえ残されたのは何も知らないリラと領民だけだ。領地はリチャードが受け継ぐ土地に編入されることになったが、サンダンス男爵領は面積も小さく人口も僅かで実入りは良くない。

男爵夫妻と息子たちは、ほぼ領地の港しか使うこともなかったという。船もそれほど大きなものではなかったらしいから、おそらく沖に出てから裏にいた商会の船に拾ってもらっていたのだろう。

領民は漁業と僅かばかりの放牧で暮らしている。「ご領主様」が代替わりしてから良く沖へ出ていくのは知っていたが興味もなかったらしい。まあ平民は苛政でなければあまり上の方に興味を持たないものだ。

「とはいえ、使える港があるなら悪い土地ではなかろう。後はリチャード殿下の手腕次第だな」

「殿下は、辺境伯領(うち)とも交易を、と仰ってましたが」

「どの程度利が見込めるかはわからんが、まあお付き合いさせてもらう分にはこちらもよかろうよ。街道の延伸には、王家も手を貸してくれるだろうし」

「ああ、そちらの援助があるのですね」


「これを災難にするかどうかは、殿下の手腕にかかっていますわね」

お茶会でフォスティーヌは淡々と宣う。

サンダンス男爵家の遁走は、国内の社交界でも噂になった。学園でもそれなりに話題にはなったが、リラ(および背後のリチャード殿下)を慮ってそれほどでもない。あくまで表面的には。

そうなれば、お互いに情報交換が必要になる、というのはマリエルもそしてフォスティーヌもわかっていてのお茶会だ。

「リラさんには何の責もありませんが、ご家族がね。市井で育った彼女にそれを気づけというのも無理がありますし」

噂レベルだが、リラには同情的な空気だ。教育がいい加減だったのも、そもそも男爵家に問題があった、と皆納得している。

そして問題はこの先。瑕疵のついたサンダンス男爵領は、リチャードが拝領する領地に組み込まれるが、その運営が上手くいかないとまた論われるネタになってしまう。

「辺境伯は何か仰ってました?」

「方角が異なりますので、なかなか助力とはいきませんが。港があるそうなので、交易の一端なりお手伝いできれば、とは言っておりましたわ」

祖父母はまだ王都のタウンハウスにいる。だが付き合いがある家としか連絡しておらず、あくまで内密の滞在だ。目立たぬ装いで町中に買物巡りしたりしていて、ちょっとした休暇を楽しんでいる気配もある。

直接顔を合わせた派閥の者たちが広めたわけではないが、もともとそれなりに辺境伯は有名人だ。彼の世代には学生時代から顔も知れている。

なので、夫妻が王都にいることはそろそろ関係者以外にも知られてきた。学園ではマリエルに探りを入れる者やタウンハウスに招いてほしいと言ってくる者までいる。その辺りは選別して少しずつ情報を流していた。

フォスティーヌも、祖父母に「まあよかろう」と了解を得られて説明している。フォスティーヌとしてはそれなりに権勢もある辺境伯を自宅へ招きたかったようだが、これは断られていた。「もうそろそろ領地に帰らねば」、というのがその理由だがそう言いつつ結構王都で時間をとっている。どうもリチャードの領地問題に託けて、辺境領についてもいろいろ上層部と内密にやりとりしているらしい。『内密』なので詳細はマリエルも知らない。だが祖父母もこっそり忙しくしているのは確かだ。

フォスティーヌの実家、エディション侯爵家とは別に敵対はしていないが、かといって親密とも言えない。どこまで情報を渡していいかは保護者判断だ。その意味では祖父母が王都に来てくれたからこそ、すぐ説明やら何やらの情報共有ができたのはある。

「本当は辺境伯にお会いしたかったのですけれど」

「申し訳ありません、いろいろあるらしくて」

そういう訳で祖父母は昼間滅多に屋敷にいない。マリエルが学園にいる間のことは良く知らないが、昼前から午後にかけて出かけていることが多いらしい。その辺の社交というか情報交換は、まだマリエルもほとんど身についていない。言ってみれば大人の領域で、まだ学生のうちはそこに達していないのが普通だ。

エディション侯爵家には、リチャードの婚約解消による慰謝料が払われる予定だと聞いた。円満解消であることを強調するため、金額は控えめだがその分領地の納税金額をしばらく抑えてくれるそうだ。

学園卒業後結婚すれば、フォスティーヌも彼女の新しい婚約者も嫡子ではないので、実家の爵位よりは下がることになるだろう。だが慰謝料だけで一財産になるし、その辺りどちらも下らぬ散財で使い果たすような性格ではない。領地を与えられるかは知らないが、それこそ堅実に商会でも経営していきそうだ。

そういう意味で、付き合いを続けるに値する相手ではある。マリエルとしては学園卒業後、王都の社交界には出るつもりもないが逆に付き合う相手を選ぶことはできるだろう。もちろん相手にも選択の余地はあるが、相手にも十分利のある話ができる。

高慢に聞こえるだろうが、実際辺境伯領にはそれだけの実力がある。養女であるマリエルも直系の親族である以上、それなりの立場が用意される予定でもある。婚約者はまだ決まっていないが、そういうことは先立って取り決め済みなのだった。

「殿下とリラさんはどうなさるのかしら」

「傍からは何とも言えませんわ。ただ、ひょっとしたら領主の補佐官をつけられるかもしれませんわね」

リチャードはともかく、リラは領地運営については全くの素人だ。規模の大小によるとはいえ、一人で取り回せるものでもない以上、優秀な補佐は有り難い。

実際、マリエルが領地に求められるのもそうした部分になる。華奢な令嬢のマリエルに、魔力はあっても武力はない、辺境伯ではそちらの人材は豊富なので、必要がなかった。代わりに政務は幅広く学び、社交も浅くではあるがこなしている。

「マリエルさんも、そうしたお相手を求めてらっしゃるの?」

珍しく踏み込んだことを宣うフォスティーヌに、マリエルはおっとり微笑む。

「その可能性はありますわね。まあ、学園に在籍の優秀な方は既に進路もお決まりでしょうし。なかなか適切な方も見つからなくて」

辺境の噂は根強く、実際の繁栄が漏れ聞こえていても、そちらに向かおうという気概のある者は少ない。

マリエル自身、王都での婚約者探しはほぼ諦めて人脈の形成と知識や教養を身につけることを優先している。最悪、結婚しないで辺境伯の内政の補助業務でも暮らしてはいける。

「……失礼でなかったら、ご紹介させていただきたい方がいるのですけれど……」

「お気遣いありがとうございます。ですが、私の一存では何とも。家の方にお話いただいてもよろしいでしょうか」

まだるっこしいが、その辺の手続きは大事だ。体面というのは貴族にとって大事なものなので。

正直なことを言えば、フォスティーヌの紹介する相手が辺境に見合った人物である可能性は相当に低いと思う。悪気はないのだろうが、結婚相手に求める条件が大幅に違うのでしょうがない。

辺境では王都で不可欠な社交は不要、流行り廃りに詳しい必要もない。真面目な政務に励む人材ならまだしも、経済を回す建前で贅沢を躊躇わないような者は受け付けにくい。

逆に王都やそれに近い土地の領主であればそうした貴族が必要とされていることも知ってはいるが。環境が違いすぎる。












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