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不動さんと物件めぐり  作者: 雲条 翔
第二家・全自動のハイテクハウスの罠
9/10

第9話 AIのココロさん

「ハウスメーカーのエターナルホーム社との合同研究でこのプロジェクトは完成しました。常呂川美月と、不動産会社の不動不動産職員・不動こころは、同じ大学に通っていました」


 なにげにこのタイミングで、不動さんのフルネーム「不動こころ」って知ってしまった。下の名前、こころって言うのか。


「不動さん、会いたいなあ……」


 俺がぽそっと本音を漏らすと、


「ココロさんを立ち上げますか?」


 人工音声がよく分からないことを言った。


「なに? ココロさん?」


「常呂川美月が生活サポート用にプログラムしたAIアシスタントです」


「AI……アシスタント? なにそれ?」


「プログラム起動を中止しますか?」


「しません。なんか面白そう。ココロさんってやつを立ち上げてみて」


「了解しました」


 ソファベッドに横になっている俺の脇に、急に人が出現した。


 メイド服を着た若い女性だった。


 どこから来たんだ? 


 ……いや、違う。


 俺が違和感を感じ、手を伸ばすと、そのメイドさんの黒いスカートを、空気を掴むみたいにするりとすり抜けた。


「こんにちは、木芽さま」


 メイドさんは微笑み、俺に会釈した。


「もしかして、立体映像?」


「その通りです。常呂川美月は、生活のサポート用に、開発者権限でAI搭載のメイドタイプのアシスタント・キャラクターを隠しプログラムとして仕込んでいました」


「ちょ、ちょっとデバイスさんは黙ってて」


 俺は、メイドさんをまじまじと見つめる。


「本物の人間みたいだ……あ」


 俺の頭の中で、情報が整理されて並んでいく。


 不動さんが、部屋に入りたくない理由。

 メイドさんの立体映像が出る隠しプログラム。

 開発者と知り合い。


 俺の目の前のメイドさんは、観察してようやく気づけるレベルではあったが、不動さんに似ていた。


 下手な似顔絵師のイラストから、元ネタの芸能人の顔がぼんやりと浮かぶような。そんな遠距離ではあったけれど。


「多分、不動さんをモデルにして、この3DCGを作ったんだな……えーと、ココロ、さん?」


「はい。ココロといいます。なんでも聞いてくださいね」


 3DCGのメイドさんは、にっこりと微笑んで、会釈する。


「おお、会話ができる……デバイスさんより、俺はこっちが好きだな。見た目がいい」


「ルッキズム至上主義は現代社会で非難の的ですよ」


 と、デバイスさん。ごめんなさい。

 でも話し相手に選ぶなら、腕時計もどきよりは美人メイドさん一択だろう!


 俺が漏らした「不動さんに会いたい」という言葉が、きっと起動のキーワードだったのだ。

 開発者が親しい友人を驚かせようと、お遊びで入れた隠し要素。そんなところか。


 だが、不動さんは「隠し要素」の存在を知らされ、何かのきっかけでプログラムが起動して「自分がモデルとなったメイド姿のアシスタントが、にっこりと微笑む様子」を見るのが恥ずかしくてたまらなかった。


 それが、不動さんが嫌がっていた理由。そう推理すると、辻褄が合う。


「ココロさん。明日の天気を教えて」


「現在地の明日の天気は、くもり・のち・あめ。傘を持って出かけた方がいいでしょう」


「ココロさん。なにか面白いジョークを言って」


「ふとんがふっとびません」


 やるじゃないか。


 アレクサみたいに、会話の内容からネット検索などもできるようだ。


 とーこーろーでー。


 男の子ひとりの部屋。そして、メイドさん。


 と、なると! ちょっとアレなことも考えちゃうよなあ!


 不動さんを立体スキャンして、3DCGのこのメイドさんを作ったと仮定した場合、もしかすると、もしかするとだ……スリーサイズとか、ご本人と一緒だったりして?


 身長もほぼ同じだし、まさか、見えないところまで再現されているのでは……ごくり。


 俺はメイドさんの「ココロさん」の全身を上から下まで眺める。


 不意を突いて、床に寝転がる俺。

 ごろごろと転がり、偶然にも、メイドさんの足下で仰向けにィーッ!

 俺はただ床で寝ようとしただけなのになー!

 これじゃあまるでメイドさんのスカートを下から覗き込んでいるみたいじゃないかぁー!

 でも偶然だし! ああ偶然ってこわいなー!


 メイドさんの足首まであるロングスカートがひらりと揺れ、その中には!

 スカートの中まで完璧に再現が! そこにはきっと天国が!


 バン!


 板を殴るような音がしたかと思うと、一斉にディスプレイ照明が消え、部屋は真っ暗になった。


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