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不動さんと物件めぐり  作者: 雲条 翔
第二家・全自動のハイテクハウスの罠
8/10

第8話 フード・プログラム起動


「デバイスさんに、フード・プログラム、ファイブ・ゼロ・ファイブって言ってもらえますか」


 不動さんに言われたとおりに言うと、ソファベッドの脇のテーブルが、一旦床下に収納された。

 ぶーん、ごごご、と何かの駆動音がしていると思ったら、数十秒後には再びテーブルが出てきた。

 テーブルの上には、湯気の出ているマグカップ。コーヒーの香りがする。


「え、まさか……」


「そうなんですよ。キッチンが無いのは、必要ないからです。大抵の料理は、デバイスさんを通じて注文すると、地下で機械が作って、テーブルに乗せて出してくれるシステムです。ほとんどが冷凍食品だったり、インスタントだったりしますけれど、味は美味しいですよ」


 俺はテーブルのマグカップを手に取り、口をつけてみる。


 うん、間違いなくコーヒー。


 インスタントだと思うけど、コーヒーは詳しくないし、俺。

 そこそこ美味ければオッケー。


「これも、ちょっとした飲み物やスナックから、ちゃんとした料理までパターンがありますので、あとでデバイスさんを通じて聞いてみてください。この部屋の画面すべてにメニューがずらーっと並んで紹介されるんで、きっと迷っちゃいますよ。そのレパートリーは豊富で」


 不動さんが胸を張って得意げにしていた。


「なんだかSFの世界ですねえ。これが、タダでいいんですか」


「ええ。今回はタダです」


「不動不動産」では、他店との差別化を計り、物件を見るだけではなく、実際に一晩「お試し」で泊まってから、決めることができるという、独自の親切なサービスを実施している。


 残念ながら、無料サービスではない。


 一泊の料金は、ネットカフェのナイトパックと同等の金額。


 それでも、ビジネスホテルと比較したら、破格の値段だろう。


 俺みたいに、すぐにでも決めたい人間としては、家具や寝具も元々備え付けと聞いて、これまでは「お試し」サービスに飛びついていたのだが、今回は「新システムの試作モニター」なので、感想レポートさえ提出してくれれば「タダ」だという。


 こんなハイテクの塊に泊まれるなんて、本来なら有料イベントだろう。


「これだけすごい部屋に泊まれるのはいいんですけど……さっき不動さんが言ってたことがちょっと気になって」


「何か言いましたっけ?」


 まだ玄関先から動かない不動さん。


「部屋に入りたくない理由は、体重のことだけじゃなくて!と言ってたじゃないですか。もうひとつ、何かあるってことですよね」


「えー、あー、あっれー? そんなこと言いましたっけー?」


 冷や汗を浮かべながら、斜め上に視線を走らせ、作り笑いを浮かべる不動さん。

 これは完全にクロですぜ。


「言ってくれないなら、不動さんを引っ張って、玄関から先に入ってもらいますよ。当然、床に乗れば、体重が……」


「うう、卑劣な……」


 俺だってこんな卑怯者みたいなことしたくないんだ! 


 でも「ううう……」と困った顔の不動さんも可愛いんだ!


「あっ! 私、別のところに用事があったのを、たった今思い出しましたぁー! 行かないと! すみませんね! 何かあったらデバイスさんに聞いたら教えてくれますから! くれぐれも丁重に! ヘンなこと聞いて怒らせないでくださいね! それじゃ!」


 しゅたっ、と駆けていく不動さん。明らかに、逃亡だ。


 玄関のドアが閉まり、俺はひとり、部屋に残された。


 俺はソファベッドに寝転がり、天井を眺める。


「ねえデバイスさん」


「なんでしょうか、木芽さま」


 装着している手首に向かって話しかけると、人工音声が返ってきた。


「不動さんの隠し事って、なんだと思う?」


「質問が漠然としており、回答できません」


「AIって頭いいんでしょ。推理してよ」


「小学生みたいな感想はやめていただきたい」


「じゃあ……方向性を変えて。この部屋を開発した人、不動さんの知り合いって言ってたけど、何ていう人?」


「検索中……大手家電メーカー・ビッグウェーブ社の商品開発研究室・常呂川美月(ところがわ みづき)さんです」


「美月さんってことは、女性なんだ」


 不動さんの元カレという路線は、消えたか。


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